解決志向カウンセリングと解決志向コーチングの詳細解説
解決志向カウンセリングと解決志向コーチングの詳細解説
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1. 歴史的背景と成り立ち
解決志向アプローチは、1980年代にアメリカのスティーブ・ド・シェイザー(Steve de Shazer)とインスー・キム・バーグ(Insoo Kim Berg)らによって開発されました。ウィスコンシン州ミルウォーキーの短期家族療法センター(BFTC)での臨床実践から生まれた革新的なアプローチです。
従来の心理療法との違い:
- 従来: 「なぜ問題が起きたのか?」(原因追求)
- 解決志向: 「どうすれば解決するのか?」(解決構築)
2. 基本哲学と前提 解決志向アプローチ
核となる3つの原則
①うまくいっているなら、変えようとするな
- すでに効果的な方法があれば、それを続ける
- 無理に新しいことを始める必要はない
②一度やってうまくいったなら、またそれをせよ
- 過去の成功パターンを再現する
- 小さな成功を積み重ねる
③もしうまくいっていないなら、何か違うことをせよ
- 同じ方法を繰り返しても結果は変わらない
- 柔軟に新しいアプローチを試す
クライアント観
- すべての人は既にリソース(資源)を持っている – 解決のための能力、知識、経験が内在している
- 変化は常に起きている – 完全に固定された状態は存在しない
- 小さな変化が大きな変化につながる – 最初の一歩が重要
3. 主要な技法の詳細
ミラクル・クエスチョン(奇跡の質問)
質問例: 「今夜眠っている間に奇跡が起きて、あなたの問題が全て解決したとします。でも眠っているので、奇跡が起きたことには気づきません。翌朝目が覚めたとき、何が違っていることで『あ、何かが変わった』と気づくでしょうか?」
目的:
- 問題のない状態を具体的にイメージさせる
- 目標を明確化する
- 実現可能な小さなステップを見つける
効果的な理由:
- 「奇跡」という言葉で、現実的制約から自由に想像できる
- 具体的な行動レベルに落とし込める
- 望ましい未来像が明確になる
スケーリング・クエスチョン(尺度化の質問)
質問例: 「10点が問題が完全に解決した状態、0点が最悪の状態だとすると、今日のあなたは何点ですか?」
続けて聞く質問:
- 「その点数を選んだ理由は?」
- 「0点ではなく3点なのはなぜ?」(リソース発見)
- 「4点になるには何が違う?」(具体的な次のステップ)
- 「過去に5点だったことは?」(成功体験の発掘)
活用場面:
- 進歩の可視化
- モチベーション管理
- 具体的な行動目標の設定
- クライアントと支援者の認識共有
例外探し(Exception Finding)
基本的な考え方: どんな問題も24時間365日起きているわけではない。問題が起きていない時間や、問題が軽い時を見つけることで、解決のヒントが得られる。
質問例:
- 「最近、少しでも調子が良かった時はありますか?」
- 「その時、何が違いましたか?」
- 「何をしていましたか?誰といましたか?」
- 「またそうなるために、何ができそうですか?」
実践例:
- 不登校の子ども: 「学校に行けた日は何が違った?」
- 夫婦関係: 「喧嘩しなかった日は何をしていた?」
- 仕事のストレス: 「比較的楽だった週は?」
コーピング・クエスチョン(対処質問)
困難な状況でも「なんとかやっている」ことに注目する質問です。
質問例:
- 「こんなに大変なのに、どうやって乗り切っているんですか?」
- 「もっと悪くならずに済んでいるのは、何をしているから?」
- 「他の人なら諦めるかもしれない状況で、あなたが続けられているのはなぜ?」
目的:
- クライアントの強さや回復力を認識させる
- サバイバルスキルを可視化する
- 自己効力感を高める
4. セッションの構造
典型的な流れ
第1段階: 関係構築とゴール設定(10-15分)
- ラポール(信頼関係)の形成
- 「今日、ここで何について話したいですか?」
- 「セッションが終わった時、何が得られていたら良いですか?」
第2段階: リソースと例外の探索(20-30分)
- スケーリング・クエスチョン
- 例外探し
- 過去の成功体験の掘り起こし
- ミラクル・クエスチョン
第3段階: 目標と行動の明確化(10-15分)
- 「次回まで何を試してみますか?」
- 「最初の小さな一歩は?」
- 「うまくいったら、何で気づくでしょう?」
休憩(5-10分)
- 支援者が観察や情報を整理する時間
- 戦略的なフィードバックを準備
第4段階: フィードバックとメッセージ(5-10分)
- ポジティブなフィードバック(クライアントの強み認識)
- ブリッジング・ステートメント(セッション内容の要約)
- 提案や課題(選択肢として提示)
5. 解決志向カウンセリングの詳細
対象となる問題
- うつや不安などの心理的問題
- 対人関係の悩み(家族、職場、友人)
- トラウマ後の回復支援
- 依存症からの回復
- 育児や教育の悩み
- 喪失や悲嘆への対処
カウンセリング特有のアプローチ
症状への対処: 症状そのものを敵視せず、「症状があっても何ができるか」を探る。
例: うつ症状のケース
- 悪い質問: 「なぜうつになったのですか?」
- 良い質問: 「調子が少しマシな時は何をしていますか?」
- 良い質問: 「10点満点で今は何点ですか?1点でも上がるには?」
過去との関わり方: 過去を詳細に分析するのではなく、過去の成功体験やリソースを発掘する。
カウンセリングでの注意点
- 自殺念慮や自傷行為などリスクが高い場合は慎重に対応
- 必要に応じて他の専門家との連携
- クライアントのペースを尊重
- 無理にポジティブを押し付けない
6. 解決志向コーチングの詳細
適用領域
ビジネス・キャリア:
- リーダーシップ開発
- キャリアチェンジ
- 業績向上
- チームビルディング
パーソナル:
- ライフバランス改善
- 目標達成支援
- スキル向上
- 人生の転機のサポート
スポーツ:
- パフォーマンス向上
- メンタルトレーニング
- チームワーク強化
コーチング特有の特徴
目標設定の明確さ: カウンセリング以上に、具体的で測定可能な目標を設定します。
SMART目標の統合:
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Relevant(関連性がある)
- Time-bound(期限がある)
質問例:
- 「3ヶ月後、どうなっていたら成功ですか?」
- 「それを達成するための最初のステップは?」
- 「過去に類似の目標を達成した時、何が効果的でしたか?」
アクション重視
コーチングでは、セッション間の行動が重要です。
典型的な課題設定:
- 小さな実験を試す
- 観察記録をつける
- 成功パターンを3つ見つける
- スケール1点分の行動をする
7. 両者の違いの詳細比較
| 要素 | 解決志向カウンセリング | 解決志向コーチング |
|---|---|---|
| 対象者 | 心理的困難を抱える人 | 成長や目標達成を目指す人 |
| 開始点 | 問題からの脱却 | 現状からの向上 |
| 期間 | 柔軟(必要に応じて) | 一般的に短期集中 |
| 関係性 | より支持的・治療的 | よりパートナーシップ的 |
| 焦点 | 苦痛の軽減+機能回復 | パフォーマンス向上+目標達成 |
| 過去の扱い | トラウマも扱うことがある | 成功体験中心 |
8. 実践的なケーススタディ
ケース1: 職場のストレス(カウンセリング)
クライアント: 30代会社員、上司との関係で悩む
セッションの展開:
- スケーリング: 「ストレスレベルは今8/10です」
- 例外探し: 「先週水曜日は6まで下がりました。その日は上司が出張でした」
- リソース発見: 「上司がいない時、同僚と協力して効率よく仕事ができました」
- ミラクル: 「上司との関係が改善したら、会議で自分の意見が言えています」
- 小さなステップ: 「次回の会議で、まず一つだけ提案してみます」
結果: 3セッション後、スケールが8→5に。小さな成功体験の積み重ねで自信が回復。
ケース2: 営業目標達成(コーチング)
クライアント: 営業マネージャー、チームの業績向上が目標
セッションの展開:
- 目標設定: 「3ヶ月で売上を20%向上させる」
- 現状評価: 「現在の達成度は10点中6点」
- 例外探し: 「先月好調だったメンバーAは、顧客との関係構築に時間をかけていた」
- リソース活用: 「過去に目標達成した時の成功パターンは?」
- アクションプラン: 「Aの手法をチームで共有する朝会を週1回実施」
結果: 2ヶ月後に18%向上。チーム全体のモチベーションも上昇。
9. よくある質問と誤解
Q: ポジティブ思考を押し付けるアプローチでは? A: 違います。クライアントの現実をしっかり認めた上で、解決可能性を探ります。辛さや苦しみを否定することはありません。
Q: 深い問題分析をしないので表面的では? A: 研究により、問題の原因分析と解決には直接的な相関がないことが示されています。解決志向は効率的に変化を生み出します。
Q: 重度の精神疾患には使えない? A: 他のアプローチと併用することで効果的です。ただし、急性期の対応が必要な場合は医療的介入が優先されます。
10. 学習・実践のために
基本スキルの習得
- 傾聴力: クライアントの言葉を深く聴く
- 質問力: オープンクエスチョンの活用
- 観察力: 小さな変化や強みに気づく
- 肯定的姿勢: リソースを見つける視点
推奨される学習方法
- 認定研修プログラムへの参加
- スーパービジョン(指導者からのフィードバック)
- ロールプレイでの練習
- 実践記録の振り返り
解決志向アプローチは、「人は誰でも変化する力を持っている」という信念に基づいた、実用的で希望に満ちたアプローチです。問題に圧倒されるのではなく、解決への道筋を一緒に見つけていく協働的なプロセスといえます。
投稿者プロフィール

- 監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
- 徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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