働きがいとポジティブ心理学 〜離職を防ぎ,仕事に喜びを見つけるための科学的アプローチ〜
働きがいとポジティブ心理学
〜離職を防ぎ,エンゲージメント,仕事に喜びを見つけるための科学的アプローチ〜
カテゴリ:エンゲージメント・ウェルビーイング・職場心理学・離職防止
「仕事がつらい」「やる気が出ない」「毎朝会社に行くのがしんどい」——そんなふうに感じたことはありませんか?でも、同じ職場、同じ仕事でも、いきいきと働いている人がいるのも事実です。その差は一体どこにあるのでしょうか。その答えを科学的に追い求めてきた学問が「ポジティブ心理学」です。本記事では、ポジティブ心理学の知見をもとに、「働きがい」の本質と、それを日々の仕事の中で育てる実践的な方法を、わかりやすくお伝えします。
目次
- 「働きがい」とは何か?——辞書的定義を超えて
- ポジティブ心理学とは?——「幸福の科学」入門
- PERMAモデルで読み解く「働きがい」の5つの柱
- フロー体験——夢中になれる仕事の秘密
- 強みを活かす仕事術——VIA強みテストのすすめ
- 職場における心理的安全性とポジティブな人間関係
- 今日からできる!働きがいを高める7つの習慣
- まとめ——科学が証明する「働くことの喜び」
1. 「働きがい」とは何か?——辞書的定義を超えて
「働きがい」という言葉を聞いたとき、あなたはどんなイメージを持ちますか?給料の高さ?社会的な地位?それとも、やりたいことが仕事になっていること?
実は「働きがい」は、単に「仕事が好き」という感情だけではありません。研究者たちは、働きがいを「仕事を通じて感じる意味・意義・達成感・成長感の総体」として捉えています。つまり、働きがいとは一瞬の感情ではなく、継続的に育まれていくものなのです。
「やりがい搾取」との違いに注意
ここで一つ重要な注意点があります。「働きがい」は「やりがい搾取」とは全く別物です。やりがいを盾に過度な労働を強いる文化は、むしろウェルビーイングを損なわせます。真の働きがいは、適切な報酬・労働環境が整った上で花開くものです。ポジティブ心理学は決して「つらくても頑張れ」を奨励するものではありません。
2. ポジティブ心理学とは?——「幸福の科学」入門
ポジティブ心理学(Positive Psychology)は、1998年にアメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士が提唱した比較的新しい学問分野です。それまでの心理学が「うつ病や不安障害を治す」ことに重点を置いていたのに対し、ポジティブ心理学は「人が持つ強みや美徳を引き出し、人生の質を高める」ことを目指します。
簡単に言えば、「病気を治す」から「より豊かに生きる」へのパラダイムシフトです。この視点は、職場においても非常に大きな変革をもたらしました。「どうすれば社員のストレスを減らすか」だけでなく、「どうすれば社員がもっと生き生きと働けるか」という問いに、科学的なアプローチで答えようとするのです。
なぜ今、ポジティブ心理学が注目されるのか
日本では長らく「根性論」や「滅私奉公」が職場文化の中心にありました。しかし、少子高齢化による人手不足、働き方改革の推進、そしてコロナ禍以降のリモートワーク普及を経て、「社員のウェルビーイング」が経営課題の最前線に浮上しています。エンゲージメント(仕事への熱意と没頭度)が高い組織は、そうでない組織に比べて生産性が21%高いというGallupの調査もあります。働きがいは、個人の幸福だけでなく、組織の競争力にも直結するのです。
3. PERMAモデルで読み解く「働きがい」の5つの柱
セリグマン博士が提唱した「PERMA」モデルは、ウェルビーイング(よく生きること)を構成する5つの要素の頭文字を取ったものです。これを職場に当てはめると、働きがいの骨格が見えてきます。
P — Positive Emotion(ポジティブ感情)
仕事の中で喜び、感謝、希望、好奇心といったポジティブな感情を感じること。達成したときの「やった!」という感覚、同僚と笑い合う瞬間、顧客に感謝された時の温かさ——こうした日常の小さな「いい気分」が積み重なって、働きがいの土台になります。
E — Engagement(エンゲージメント・没頭)
仕事に没頭し、フロー状態(後述)に入ること。時間を忘れて作業に集中している状態がこれに当たります。エンゲージメントの高い状態では、仕事そのものが報酬になります。
R — Relationships(人間関係)
職場の同僚、上司、部下、顧客との良好な関係。人は根本的に社会的な生き物であり、職場における「つながり」は働きがいに大きく影響します。孤立感は働きがいを大きく損ないます。
M — Meaning(意味・意義)
「この仕事は誰かの役に立っている」「社会に貢献している」という実感。給与よりも、意味の感覚が長期的な働きがいに寄与するという研究が多数あります。
A — Accomplishment(達成感)
目標を達成し、成長を感じること。小さな成功体験の積み重ねが自己効力感を育み、さらなる挑戦への意欲につながります。
4. フロー体験——夢中になれる仕事の秘密
「フロー(Flow)」とは、心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、何かに完全に没入した状態のことです。フロー状態にあるとき、人は時間を忘れ、疲れも感じず、高いパフォーマンスを発揮します。アスリートが「ゾーン」と呼ぶ状態に近いものです。
フローが生まれる3つの条件
- 課題の難易度が自分のスキルとちょうどよくマッチしている(難しすぎず、簡単すぎない)
- 明確な目標と即時フィードバックがある
- 作業に集中できる環境が整っている
自分の仕事の中でフロー体験が少ないと感じる人は、今の仕事が「簡単すぎる(退屈)」のか「難しすぎる(不安)」のかを確認してみましょう。難しすぎる場合はスキルアップの機会を求め、簡単すぎる場合は自ら難易度を上げる工夫(新たな目標設定、後輩指導など)が有効です。
5. 強みを活かす仕事術——VIA強みテストのすすめ
ポジティブ心理学では、「弱みを克服する」よりも「強みを伸ばす」ことが幸福度を高めるという知見が積み重なっています。自分の強みを仕事に活かせている人は、そうでない人に比べてエンゲージメントが6倍高いというGallupのデータもあります。
VIA強みテストとは?
VIA(Values in Action)強みテストは、ペンシルバニア大学が開発した、人の持つ24の性格の強みを測定する無料の心理テストです(VIA Institute on Characterにて実施可能)。創造性、親切心、リーダーシップ、ユーモア、好奇心、誠実さなど24の強みの中から、あなたの「代表的強み(シグネチャーストレングス)」が明らかになります。
自分のトップ5の強みを知り、「今日の仕事でこの強みをどう活かせるか」を意識するだけで、仕事への満足度が大きく変わります。例えば、「好奇心」が強みの人は、担当業務の中にリサーチや新しい学習要素を取り入れると、仕事がぐっと楽しくなります。
6. 職場における心理的安全性とポジティブな人間関係
Googleが2012〜2016年にかけて行った「Project Aristotle」という大規模プロジェクト研究では、高いパフォーマンスを発揮するチームに共通する最大の要因として「心理的安全性(Psychological Safety)」が挙げられました。
心理的安全性とは何か
心理的安全性とは、「このチームでは、リスクある発言や行動をしても、罰せられたり恥をかかされたりしない」という信頼感のことです。間違えても責められない、的外れな意見を言っても馬鹿にされない——そんな環境があって初めて、人は本来の力を発揮できます。
逆に、心理的安全性が低い職場では、社員は「失敗したらどうしよう」という恐怖から、チャレンジを避け、現状維持に甘んじます。これが組織の停滞と個人の働きがい喪失につながります。
上司・管理職ができること
- 失敗を責めず、「何を学べたか」を問いかける
- 自分も弱みや失敗を積極的に開示する(脆弱性の開示)
- 部下の意見を最後まで聞き、まずは受け止める
- 小さな貢献も見逃さず、感謝と称賛を伝える
7. 今日からできる!働きがいを高める7つの習慣
理論を学んだら、次は実践です。ポジティブ心理学の研究から導き出された、今日からすぐに取り組める7つの習慣を紹介します。
① グラティチュード・ジャーナル(感謝日記)をつける
毎日仕事の終わりに、その日「よかったこと」「感謝できること」を3つ書く習慣です。ネガティブなことに目が向きがちな私たちの脳を、意図的にポジティブへ向け直す効果があります。
② 仕事の「意味」を再発見する(ジョブ・クラフティング)
同じ仕事でも、「誰のために、何のためにしているのか」という意味を問い直すだけで、働きがいは大きく変わります。レンガを積む作業員の有名な話——「私は大聖堂を作っている」と答えた職人は、最も充実感を持っていたと言います。
③ 強みを意識して使う
今日の仕事で、自分の強みを一つ意識して使ってみましょう。VIA強みテストで自分の強みを把握しておくと、より実践しやすくなります。
④ マイクロ・フロー体験を増やす
フロー状態は大きな仕事だけに生まれるわけではありません。メールを丁寧に書く、資料のレイアウトに工夫を凝らす——日常の小さな作業にゲーム性や創造性を持ち込むことで、ミニ・フロー体験を増やせます。
⑤ 感謝を言葉にして伝える
同僚や部下、上司に対して、具体的な感謝を言葉で伝えましょう。「助かりました」「おかげで〇〇できました」という一言が、相手のPERMAを高めると同時に、自分の人間関係への満足度も上げます。
⑥ セルフ・コンパッション(自己への思いやり)を持つ
失敗したとき、自分を責めすぎるのは禁物です。「誰でも失敗する」「この経験から何を学べるか」と自分に優しく語りかけましょう。自己批判は長期的に働きがいを蝕みます。
⑦ 意図的な休息とリカバリー
ポジティブ心理学は「休むこと」の重要性も強調します。完全に仕事から離れる「デタッチメント」の時間を意図的に作ることで、翌日のエネルギーと創造性が回復します。
よくある質問(FAQ)
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,働きがいやエンゲージメントに関する方法を学べますか?
はい、ポジティブ心理カウンセラー基本講座などで,紹介しております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,働きがいやエンゲージメントに関する実践を団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)
はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
協働で研修なども可能です。
8. まとめ——科学が証明する「働くことの喜び」
働きがいは、運や才能だけで決まるものではありません。ポジティブ心理学は、「幸福も、働きがいも、意図的に育てられる」という希望のメッセージを私たちに届けてくれます。
PERMAモデルの5要素を意識し、フロー体験を増やし、自分の強みを活かし、心理的安全性のある職場を一緒に作っていく——そのような小さな積み重ねが、豊かな職業人生につながっていきます。
「仕事がつらい」と感じているあなたも、「もっと充実した仕事をしたい」と思っているあなたも、今日からできることが必ずあります。ポジティブ心理学の知恵を借りながら、あなたらしい「働きがい」を見つけてみてください。
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参考文献・出典
Seligman, M.E.P. (2011). Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being. Free Press.
Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow: The Psychology of Optimal Experience. Harper & Row.
Gallup (2023). State of the Global Workplace Report.
Google re:Work. (2016). Guide: Understand team effectiveness (Project Aristotle).
VIA Institute on Character. www.viacharacter.org
厚生労働省. (2023). 労働者の心の健康の保持増進のための指針. コンテンツ一覧
投稿者プロフィール

- 監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
- 徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。








