「I wonder」で褒められるのが苦手な人の心を開くポジティブ心理学×オープンダイアログで実現する、自己肯定感を育てるフィードバック術
「I wonder」で褒められるのが苦手な人の心を開く
ポジティブ心理学×オープンダイアログで実現する、自己肯定感を育てるフィードバック術
カテゴリ:コミュニケーション/心理学/自己成長 |
はじめに:「褒めても伝わらない」を経験したことはありませんか?
誰かを褒めたとき、こんな反応をされたことはありませんか?
- 「いえ、全然そんなことないです」と即座に否定される
- 「私なんて大したことない」と苦笑いをされる
- 「ありがとうございます」と言いながらも、どこか居心地が悪そうにしている
こうした反応は、単なる謙遜ではなく、「褒め言葉を受け取ることへの心理的抵抗」が根底にある場合があります。自己肯定感が低い人や、謙虚さを美徳として育ってきた人にとって、他者から肯定されることは、時として「恥ずかしい」「信じられない」「重荷になる」という感覚をともなうのです。
では、そんな人たちに対して、どのようにフィードバックすれば「届く」のでしょうか?その答えのひとつとして近年注目を集めているのが、「I wonder(アイ・ワンダー)」という表現技法です。
本記事では、ポジティブ心理学とオープンダイアログを統合した「I wonder」の活用法について、心理学的背景から実践ステップまで、わかりやすく解説します。
1. なぜ「褒める」だけでは伝わらないのか?――自己肯定感と褒め言葉の心理学
自己肯定感が低い人の内側で起きていること
自己肯定感(Self-Esteem)とは、「自分は価値のある存在だ」という根底にある感覚のことです。この感覚が低い状態にある人は、外部から称賛や肯定的なフィードバックを受けたとき、脳内で特殊な認知プロセスが働きます。
心理学では、これを「認知的不協和(Cognitive Dissonance)」と呼びます。「自分はたいしたことない」という自己像と、「あなたは素晴らしい」という外部情報が衝突するとき、人は無意識にその情報を排除しようとするのです。
つまり、いくら「あなたはすごい!」と直接伝えても、その言葉は相手の心のフィルターによってブロックされてしまいます。褒め言葉が「届かない」のではなく、相手の内側の仕組みによって「受け取れない」状態になっているのです。
謙虚さと「強みの否定」の落とし穴
日本文化において「謙虚さ」は美徳とされています。しかし、その謙虚さが過剰になると、「自分の強みを認識することそのものへの抵抗」へと変容することがあります。
「○○は私の強みではありません」「たまたまうまくいっただけです」――こうした言葉の裏には、「強みを認めること=慢心」という思い込みが潜んでいることがあります。この状態では、いかに丁寧なフィードバックも、相手に正しく届きません。
だからこそ、直接的な肯定よりも、相手が自ら気づくプロセスを支援するアプローチが重要になります。そこに「I wonder」の出番があります。
2. 「I wonder」とは何か?――2つの心理学的アプローチの統合
ポジティブ心理学からみた「I wonder」
ポジティブ心理学(Positive Psychology)は、マーティン・セリグマン博士らが提唱した心理学の一分野で、「人の強み・幸福・繁栄」に焦点を当てます。従来の心理学が「病気や問題の除去」を目指したのに対し、ポジティブ心理学は「より良く生きるための資質の育成」を重視します。
この文脈における「I wonder」とは、相手の強みや感情を「断言」するのではなく、「好奇心をもって問いかける」スタンスのことです。「あなたはこういう人だ」と評価するのではなく、「もしかして、こういう面があるのでは?」と、相手自身が考えるための空間を創ります。
オープンダイアログからみた「I wonder」
オープンダイアログ(Open Dialogue)は、フィンランドで発展した対話的なアプローチです。核心にあるのは「対話そのものが治療である」という思想。専門家が解決策を押しつけるのではなく、当事者と共に語り合うプロセスの中で、人が本来持つ回復力(レジリエンス)を引き出します。
オープンダイアログの重要な概念のひとつに「ポリフォニー(多声性)」があります。これは、一方的に「正解を与える」のではなく、多様な声・視点が対話の場に響き合うことを大切にするものです。「I wonder」はまさにこのポリフォニーを体現する言語表現です。
2つのアプローチが生む「第三の空間」
ポジティブ心理学の「強みへの気づき」とオープンダイアログの「断言しない対話」が統合されるとき、「I wonder」は単なる言葉づかいを超えた、心理的安全性の高いコミュニケーション空間を生み出します。
相手は「評価される」のではなく「共に考えてもらっている」と感じる。これが、自己肯定感が低い人の心のガードを自然に下げ、自己理解への「気づき」を促す鍵となるのです。
3. 3ステップで実践する「I wonder」フィードバック法
画像で紹介されている3ステップを、心理学的背景とともに詳しく解説します。
ステップ1:相手を「観察」する
最初のステップは、相手の「言葉の内容」だけでなく、「表情・エネルギー・身体の状態」にまで注意を払うことです。
具体的には、以下のような変化を観察します。
- 話しているときに目が輝いている、声のトーンが上がっている
- 身を乗り出す、手振りが自然に増える(いきいきしているサイン)
- 謙遜した言葉を使いながらも、その話題になると明らかに生き生きしている
ポジティブ心理学では、こうした「フロー状態(Flow)」や「エネルギーの増大」を、その人の強みや情熱が発揮されているサインとして捉えます。言葉よりも先に、体や表情が本当の感情を語ることがあります。
このステップの目的は「評価すること」ではなく、「その人のポジティブな感情が動いた瞬間を記録すること」です。観察は、次のI wonderの言葉に具体性と真実味を与えるための土台になります。
ステップ2:「I wonder」で優しく伝える
ステップ1で観察したことをもとに、「I wonder(私には…に見えたのだけど、どうでしょう?)」という形でフィードバックします。
【I wonder フレーズの基本形】
「私には、あなたが○○は強みではないと謙虚に言いながらも、いきいきしているように見えたのだけど、どうでしょうか?」
このフレーズが効果的な理由を、構造的に分解してみましょう。
- 「私には…に見えた」→ 主語を「私(I)」にすることで、断言を避け、観察者としての視点を示す(Iメッセージ)
- 「謙虚に言いながらも」→ 相手の謙遜を否定せず、そのままの姿を認める(受容)
- 「いきいきしているように見えた」→ 身体的・感情的な観察を具体的に言語化する(観察の言語化)
- 「どうでしょうか?」→ 相手に答える自由を与える(オープンクエスチョン)
この構造は、オープンダイアログの「反射(Reflection)」技法と、ポジティブ心理学の「強みの観察フィードバック」を組み合わせたものです。重要なのは、「あなたはこうだ」という評価ではなく、「私にはこう見えた。あなたはどう感じていますか?」という問いの姿勢を保つことです。
自己肯定感が低い人は、外から押しつけられる評価に抵抗を感じます。しかし、自分で考え、自分で答える余白があるとき、はじめて「もしかして、そういう面があるかもしれない」という内側からの気づきが生まれます。
ステップ3:自己理解への「気づき」を待つ
第3ステップは、相手の「気づき」のプロセスを辛抱強く待つことです。I wonderのフレーズを伝えたあと、最も重要なのは「沈黙を恐れないこと」です。
理想的な反応は、「確かに、そうかもしれません」という言葉です。これは相手が外部からの情報を受動的に受け取ったのではなく、自分の内側を探索した結果として、ひとつの気づきに至った瞬間を示しています。
オープンダイアログでは、対話の場における「応答可能性(Responsiveness)」を大切にします。相手がどのように応答するかを、評価せずに受け止める。「そうですね!やっぱりあなたはすごいですよ!」と押しつけるのではなく、「そうなのですね」とただ一緒に居る。そのシンプルな受容が、自己肯定感を育む土壌となります。
なお、相手が「いや、やっぱりそんなことないと思います」と答えても、それはそれで構いません。I wonderは「正解に導くための誘導」ではなく、「相手が自分自身と向き合う対話の機会を創ること」が目的だからです。
4. 「I wonder」が有効な場面と活用例
職場でのフィードバック場面
シチュエーション:部下がプレゼンを成功させたにもかかわらず、「うまくできませんでした」と自己評価が低い。
❌ NG例:「そんなことないよ!すごく良かったよ!」(相手は受け取れない)
✅ I wonder例:「私には、あなたが難しい質問を受けたとき、落ち着いて丁寧に答えていたように見えたのだけど、どうでしょうか?」
コーチングや1on1での活用
シチュエーション:クライアントが「私には特別なスキルがない」と感じている。
❌ NG例:「あなたには○○というスキルがあります!自信を持ってください!」(押しつけ)
✅ I wonder例:「○○について話してくれたとき、声のトーンが変わって、生き生きされていたように見えたのだけど、その話題、好きなのかなって気になりました。どうでしょう?」
親子・家族間でのコミュニケーション
シチュエーション:子どもが「自分は勉強が苦手」と思い込んでいる。
✅ I wonder例:「算数の話をしているとき、目が輝いているように見えたんだけど、算数、好きなのかな?って思って。どう?」
5. 「I wonder」を使うときの注意点と深め方
誠実な観察が前提条件
「I wonder」は、本当に相手を観察した上での言葉でなければなりません。「何かほめなければ」という義務感から使われたとき、相手はその空虚さを敏感に感じ取ります。自己肯定感が低い人ほど、「本物の関心」と「表面的な称賛」を見分ける力を持っていることが多いです。
「答えを求めない」姿勢を保つ
I wonderの後に沈黙が訪れたとき、急いで次の言葉を足したり、「ね、そうでしょう?」と同意を求めたりしないことが重要です。オープンダイアログの言葉を借りれば、「不確かさに耐える(Tolerating Uncertainty)」能力が、対話を深める鍵となります。
繰り返しが「内なる声」を育てる
1回のI wonderで大きな変化を期待するのは難しい場合があります。しかし、同じ人から繰り返し誠実なI wonderを届けられた人は、少しずつ「もしかして、自分にもこういう面があるのかもしれない」という「内なる声」を育てていきます。これは、ポジティブ心理学が重視する「強みの自己認識」が深まるプロセスです。
感情の言語化を豊かにする練習を
「いきいきしている」「目が輝いている」「声が明るくなった」など、相手の感情や状態を具体的に言語化する力が、I wonderの質を高めます。日頃から人の感情サインに敏感になる練習をすること、それ自体がコミュニケーションの質を全体的に引き上げます。
6. ポジティブ心理学とオープンダイアログが教えてくれる「人の強みの育て方」
ポジティブ心理学の研究者マーティン・セリグマンは、「PERMA」というウェルビーイングの理論を提唱しています。P(ポジティブ感情)、E(エンゲージメント)、R(関係性)、M(意味・意義)、A(達成)の5要素が人の繁栄を支えるとされますが、I wonderのアプローチはこれらすべてに働きかけます。
- P(ポジティブ感情):「いきいきしている」という観察が、相手にポジティブな感情の気づきをもたらす
- E(エンゲージメント):強みを使っているときのフロー状態に気づかせる
- R(関係性):誠実な対話を通じて、信頼関係が深まる
- M(意味・意義):自分の強みが社会や他者に役立つという意義への気づき
- A(達成):強みを認識することで、行動と成果への自信が生まれる
一方、オープンダイアログは「人は本来、自分自身の物語の専門家である」というフィロソフィーに基づいています。外から正解を与えるのではなく、当事者が自分の物語を語り直す(Re-authoring)プロセスを支援する。I wonderはまさに、その「語り直しの入口」となる問いかけです。
褒められるのが苦手な人、自己肯定感が低い人は「弱い人」ではありません。むしろ、自分への高い基準を持ち、慎重に物事を評価できる、深い内省力を持つ人であることが多い。I wonderは、そうした人の本来の力を外側から引き出す「鍵」となります。
まとめ:「I wonder」は、心の扉をノックする言葉
本記事では、「I wonder」を使ったフィードバック法を、ポジティブ心理学とオープンダイアログの観点から解説しました。
重要なポイントをまとめます。
- 自己肯定感が低い人は、直接的な称賛を「認知的不協和」によって無意識に排除してしまう
- 「I wonder」は断言せず、相手の自己探索を促す問いかけのアプローチ
- 3ステップ(観察→I wonderで伝える→気づきを待つ)を通じて、相手は「内側から」自分の強みに気づく
- ポジティブ心理学のPERMAとオープンダイアログのポリフォニーが融合することで、深い対話が生まれる
- 誠実な観察と、答えを急がない姿勢が、I wonderを本物のフィードバックにする
「あなたはすごい!」という直接的な言葉が届かなかったとき、ぜひ「I wonder」を試してみてください。その小さな問いかけが、相手の心の扉を優しくノックし、自己理解という最大の贈り物を届けることができるかもしれません。
よくある質問(FAQ)
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,I wonder を活用した伝え方を学べますか?
はい、ポジティブ心理カウンセラー基本講座などで,紹介しております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,I wonder 若者に対してポジティブにフィードバックする方法を団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)
はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
協働で研修なども可能です。
【参考キーワード】I wonder / ポジティブ心理学 / オープンダイアログ / 自己肯定感 / 褒め方 / フィードバック / 謙虚 / 強み / PERMA / 認知的不協和 / コーチング / 1on1
コンテンツ一覧
投稿者プロフィール

- 監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
- 徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
最新の投稿
Topic2026年4月12日ポジティブ心理学を活かしたフィードバックスキル完全ガイド
Topic2026年4月9日ポジティブ心理学を活用したライフクラフティングとは?
skills2026年4月8日ジョブ・クラフティング × ポジティブ心理学コーチング
skills2026年4月5日働く意味とポジティブ心理学 〜仕事に「やりがい」を見つけるための科学的アプローチ〜




