「I wonder」で褒められるのが苦手な人の心を開くポジティブ心理学×オープンダイアログで実現する、自己肯定感を育てるフィードバック術
「I wonder」で伝える
褒められるのが苦手な人に届くフィードバック
「すごいね」と伝えても「いえ、全然です」と返されてしまう。そんなとき役立つのが、断言せずに問いかける「I wonder(アイ・ワンダー)」という伝え方です。ポジティブ心理学とオープンダイアログの考え方をもとに、相手が自分の強みに「自分で気づく」ための3ステップをやさしく解説します。
「知っている」から「できる」へ。合言葉は「心に聴く、心に響く、心に効く」。
- 「I wonder」とは、「私には〜に見えたのだけど、どうでしょう?」と、断言せずに好奇心をもって問いかける伝え方です。
- 自己肯定感が低い人は、自分のイメージと合わない褒め言葉を、心のフィルターで受け取りにくくなっています。
- ポジティブ心理学の「強みへの気づき」と、オープンダイアログの「断言しない対話」を組み合わせたアプローチです。
- 実践は①観察する → ②I wonderで伝える → ③気づきを待つの3ステップ。答えを急がず、沈黙を恐れないことが大切です。
- 職場のフィードバック、コーチングや1on1、親子の会話など、幅広い場面で使えます。
- 当協会の認定資格は民間資格ですが、国際学会の新しい研究や時代のニーズを先取りして講座にし、独自に研究・実践を重ねています。公認心理師・看護師・キャリアコンサルタントなどの国家資格と組み合わせると、相乗効果(シナジー)が生まれます。
なぜ「褒める」だけでは伝わらないの?
誰かを褒めたとき、「いえ、全然そんなことないです」「私なんて大したことない」と返されたことはありませんか。これは単なる謙遜ではなく、褒め言葉を受け取ることへの心理的な抵抗が背景にある場合があります。
自己肯定感(自分は価値のある存在だという感覚)が低いと、「自分はたいしたことない」という自己像と、「あなたはすごい」という外からの情報がぶつかります。心理学ではこうした食い違いの居心地の悪さを認知的不協和と呼びます。人は無意識に、合わない情報のほうを排除しようとするため、褒め言葉が「届かない」のではなく「受け取れない」状態になるのです。
謙虚さの落とし穴:謙虚さは日本では美徳とされます。ただ、行きすぎると「強みを認める=慢心」という思い込みになり、自分の強みに気づくこと自体を避けてしまうことがあります。だからこそ、直接ほめるより、相手が自分で気づくプロセスを支えることが大切です。

「I wonder」とは?2つの心理学の考え方
ポジティブ心理学からみた「I wonder」
ポジティブ心理学は、人の強み・幸せ・よりよく生きる力に光を当てる心理学です。この文脈での「I wonder」は、相手の強みや感情を「あなたはこうだ」と断言せず、「もしかして、こういう面があるのでは?」と好奇心をもって問いかける姿勢のことです。
オープンダイアログからみた「I wonder」
オープンダイアログは、フィンランドで発展した対話的なアプローチです。専門家が正解を押しつけるのではなく、当事者と共に語り合う中で、人が本来持つ回復力を引き出します。大切な考え方の一つがポリフォニー(多声性)、つまり、さまざまな声や視点が対話の場で響き合うことです。「I wonder」は、この考え方を言葉にした表現といえます。
2つが組み合わさると、相手は「評価される」のではなく「一緒に考えてもらっている」と感じます。心理的安全性の高いこの空間が、心のガードを自然に下げ、自己理解への気づきを促します。
「I wonder」はどう使う?実践の3ステップ
- 相手を「観察」する:言葉だけでなく、表情・声のトーン・身ぶりに注目します。目が輝く、身を乗り出す、謙遜しながらもその話題になると生き生きする——こうした変化は、強みや情熱が発揮されているサインです。目的は評価ではなく、ポジティブな感情が動いた瞬間をとらえることです。
- 「I wonder」でやさしく伝える:観察したことをもとに、問いの形で返します。
- 気づきを待つ:伝えたあとは、急いで言葉を足さずに待ちます。沈黙を恐れないことが大切です。
基本のフレーズ:「私には、あなたが〇〇は強みではないと謙虚に言いながらも、いきいきしているように見えたのだけど、どうでしょうか?」
| フレーズの部分 | ねらい |
|---|---|
| 「私には…に見えた」 | 主語を「私」にして断言を避け、観察者の視点として伝える(Iメッセージ) |
| 「謙虚に言いながらも」 | 相手の謙遜を否定せず、そのまま受けとめる(受容) |
| 「いきいきしているように見えた」 | 表情や感情の変化を具体的に言葉にする(観察の言語化) |
| 「どうでしょうか?」 | 答える自由を相手に渡す(開かれた質問) |
理想的な反応は「確かに、そうかもしれません」という言葉です。ただし、「やっぱりそんなことないと思います」と返ってきても構いません。I wonderは正解に導く誘導ではなく、相手が自分と向き合う対話の機会をつくることが目的だからです。
具体例:職場・1on1・家庭での「I wonder」
「そんなことないよ、すごく良かったよ!」と重ねて褒めるより、観察した事実を問いの形で返すほうが、相手の心に届きやすくなります。
- 場面
- プレゼンを成功させた部下が「うまくできませんでした」と自己評価を低くしている。
- 関わり方
- 上司が「私には、難しい質問を受けたとき、落ち着いて丁寧に答えていたように見えたのだけど、どうでしょうか?」と問いかけ、返事を待つ。
- 期待される変化
- 部下が「そういえば、あの場面は落ち着いていられた」と自分で振り返り、次のプレゼンへの手ごたえを持てるようになる。
- 場面
- クライアントが「私には特別なスキルがない」と感じている。
- 関わり方
- 「〇〇について話してくれたとき、声のトーンが変わって生き生きされていたように見えました。その話題、お好きなのかなと気になりました。どうでしょう?」と伝える。
- 期待される変化
- クライアントが自分の関心や強みに目を向け、「それを活かせる場面」を自分の言葉で語り始める。
- 場面
- 子どもが「自分は勉強が苦手」と思い込んでいる。
- 関わり方
- 「算数の話をしているとき、目が輝いているように見えたんだけど、算数、好きなのかなって思って。どう?」と、決めつけずに聞いてみる。
- 期待される変化
- 子どもが「計算パズルは楽しい」と自分で気づき、苦手意識の中にも「好き」があることを自覚できる。
「I wonder」を使うときの注意点は?
- 誠実な観察が前提:「何か褒めなければ」という義務感で使うと、相手はその空虚さを敏感に感じとります。本当に見て、感じたことだけを伝えましょう。
- 答えを求めない:沈黙のあとに「ね、そうでしょう?」と同意を求めないこと。オープンダイアログでいう「不確かさに耐える」姿勢が、対話を深めます。
- 繰り返しが「内なる声」を育てる:1回で大きく変わることは少なくても、誠実なI wonderを重ねるうちに「自分にもこういう面があるのかも」という内なる声が育っていきます。
- 感情を言葉にする練習を:「いきいきしている」「声が明るくなった」など、相手の状態を具体的に言葉にする力が、I wonderの質を高めます。
褒められるのが苦手な人は「弱い人」ではありません。自分に高い基準を持ち、慎重に物事を評価できる、深い内省力を持つ人であることも多いのです。傾聴に加えて、こうした問いかけ・フィードバック・伝え方を身につけると、相手の力を内側から引き出せるようになります。
I wonderはウェルビーイングとどう関係する?
ポジティブ心理学では、ウェルビーイング(よりよく生きている状態)を支える要素としてPERMAモデルが知られています。I wonderの関わりは、この5つの要素に働きかけます。
- P:ポジティブ感情…「いきいきしている」という観察が、ポジティブな感情への気づきをもたらす
- E:エンゲージメント(没頭)…強みを使って夢中になっている状態に気づかせる
- R:関係性…誠実な対話を通じて信頼関係が深まる
- M:意味…自分の強みが誰かの役に立つという意義に気づく
- A:達成…強みを認識することで、行動と成果への自信が生まれる
また、オープンダイアログには「人は本来、自分自身の物語の専門家である」という考え方があります。I wonderは、相手が自分の物語を語り直すための入口になる問いかけでもあります。
研究からわかること(やさしい解説)
「I wonder」という言い回しそのものを直接調べた研究はまだ多くありませんが、土台になっている関わり方については研究が重ねられています。やさしくまとめると、次のとおりです。
| 取り組み | 効果の目安 | 教訓 | 現場での活かし方 |
|---|---|---|---|
| 強みに注目したフィードバック | 効果:小〜中 | できていることを具体的に伝えると、行動が続きやすい。 | 抽象的に褒めるのではなく、観察した具体的な場面を言葉にして返す。 |
| 自分で気づくことを促す質問(自律性の支援) | 効果:中 | 人は押しつけられた評価より、自分で見つけた気づきのほうが行動につながりやすい。 | 1on1では結論を伝える前に「どう感じましたか?」と問い、相手の言葉を待つ。 |
| 対話的アプローチ(オープンダイアログの考え方) | 効果:小〜中 | 断言せず複数の視点を尊重する対話は、安心して話せる場をつくる。 | 会議や面談で「私にはこう見えた」と自分の視点として伝える習慣をつくる。 |
効果の目安は、これまでの研究をまとめた結果をもとに「小・中・高」の3段階で表しています。効果には個人差があり、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。
書き込みワーク:I wonderで伝える練習
身近な人を一人思い浮かべて、I wonderのフレーズをつくってみましょう。相手と対話するときは「コーチモード」に切り替えてください。
入力内容はこの端末のブラウザにだけ保存され、外部には送信されません。
心に届くフィードバックを、講座で「できる」に
当協会が大切にしているのは、知るだけでなく「実際に実践できる専門家」を育てること。そして、技法の先にある、人としての関わり方=人間性のスキルを磨くことです。
I wonderは、フレーズを覚えるだけでは身につきません。相手をよく観察し、決めつけずに問いかけ、沈黙の中で待つ——この一連の関わりは、実際に対話を練習してはじめて「できる」ようになります。「ポジティブ心理カウンセラー基本講座」などでは、傾聴に加えて質問やフィードバック、伝え方をペアやグループで体験的に学びます。
国際的な知見を、日本の現場に合わせて
当協会は、国際ポジティブ心理学会などで世界の研究と実践を学び続け、その知見を日本の職場・学校・家庭に合うよう調整して届けています(アダプティブ・アプローチ)。海外の資格や手法は、日本人への適応が十分に考えられていないこともあります。当協会は、その人の文化や物語を大切にするナラティヴ・アプローチも重視しています。アダム・グラントの「才能の科学(Hidden Potential)」やエンゲージメントなど、新しい視点からの研究と実践にも取り組んでいます。講座は連携団体の一般社団法人コーチング心理学協会と共催しています。
落とさない・潰さない・あきらめさせない
「すべての人にカウンセリングやコーチングのマインドと技術を」という方針のもと、再受講制度やフォローアップで、途中でつまずいても再挑戦できる仕組みを整えています。
このテーマとつながる講座
ポジティブ心理カウンセラー®基本講座傾聴に加え、質問・提案・フィードバックまで。ポジティブ心理学を対話で使う土台の講座。
ストレングスカウンセラー®基本講座強みカード・質問法で、相手の「できること」を引き出す対話を練習します。
勇気づけ(エンカレッジ)カウンセラー講座アドラー心理学の勇気づけを、最新の心理学で学び直す現代版の講座。日程・料金は各講座の公式ページが最新です。ポジティブ心理カウンセラー協会とコーチング心理学協会の協働認定「認定ポジティブ心理学コーチ&認定ウェルビーイングコーチ(Wライセンス)」もあり、国際的な視点・ポジティブ心理学・実用性を取り入れたい方におすすめです。
参加の流れ
よくある質問(FAQ)
「I wonder」とは簡単に言うと何ですか?
なぜ褒め言葉を素直に受け取れない人がいるのですか?
普通に褒めるのと何が違いますか?
オープンダイアログとは何ですか?
I wonderの基本フレーズを教えてください。
相手が「そんなことない」と否定したらどうすればよいですか?
職場の1on1でも使えますか?
子どもにも使えますか?
I wonderを使うときに気をつけることは?
I wonderを使った伝え方はどこで学べますか?
法人研修や団体研修にも対応していますか?
講座はオンラインで受けられますか?
読んで終わりにせず、「できる」に変えてみませんか。
対話と体験で学ぶ、ポジティブ心理学のカウンセリング講座です。
従来の解説(全文)を読む
「I wonder」で褒められるのが苦手な人の心を開く
ポジティブ心理学×オープンダイアログで実現する、自己肯定感を育てるフィードバック術
カテゴリ:コミュニケーション/心理学/自己成長 |
はじめに:「褒めても伝わらない」を経験したことはありませんか?
誰かを褒めたとき、こんな反応をされたことはありませんか?
- 「いえ、全然そんなことないです」と即座に否定される
- 「私なんて大したことない」と苦笑いをされる
- 「ありがとうございます」と言いながらも、どこか居心地が悪そうにしている
こうした反応は、単なる謙遜ではなく、「褒め言葉を受け取ることへの心理的抵抗」が根底にある場合があります。自己肯定感が低い人や、謙虚さを美徳として育ってきた人にとって、他者から肯定されることは、時として「恥ずかしい」「信じられない」「重荷になる」という感覚をともなうのです。
では、そんな人たちに対して、どのようにフィードバックすれば「届く」のでしょうか?その答えのひとつとして近年注目を集めているのが、「I wonder(アイ・ワンダー)」という表現技法です。
本記事では、ポジティブ心理学とオープンダイアログを統合した「I wonder」の活用法について、心理学的背景から実践ステップまで、わかりやすく解説します。
1. なぜ「褒める」だけでは伝わらないのか?――自己肯定感と褒め言葉の心理学
自己肯定感が低い人の内側で起きていること
自己肯定感(Self-Esteem)とは、「自分は価値のある存在だ」という根底にある感覚のことです。この感覚が低い状態にある人は、外部から称賛や肯定的なフィードバックを受けたとき、脳内で特殊な認知プロセスが働きます。
心理学では、これを「認知的不協和(Cognitive Dissonance)」と呼びます。「自分はたいしたことない」という自己像と、「あなたは素晴らしい」という外部情報が衝突するとき、人は無意識にその情報を排除しようとするのです。
つまり、いくら「あなたはすごい!」と直接伝えても、その言葉は相手の心のフィルターによってブロックされてしまいます。褒め言葉が「届かない」のではなく、相手の内側の仕組みによって「受け取れない」状態になっているのです。
謙虚さと「強みの否定」の落とし穴
日本文化において「謙虚さ」は美徳とされています。しかし、その謙虚さが過剰になると、「自分の強みを認識することそのものへの抵抗」へと変容することがあります。
「○○は私の強みではありません」「たまたまうまくいっただけです」――こうした言葉の裏には、「強みを認めること=慢心」という思い込みが潜んでいることがあります。この状態では、いかに丁寧なフィードバックも、相手に正しく届きません。
だからこそ、直接的な肯定よりも、相手が自ら気づくプロセスを支援するアプローチが重要になります。そこに「I wonder」の出番があります。
2. 「I wonder」とは何か?――2つの心理学的アプローチの統合
ポジティブ心理学からみた「I wonder」
ポジティブ心理学(Positive Psychology)は、マーティン・セリグマン博士らが提唱した心理学の一分野で、「人の強み・幸福・繁栄」に焦点を当てます。従来の心理学が「病気や問題の除去」を目指したのに対し、ポジティブ心理学は「より良く生きるための資質の育成」を重視します。
この文脈における「I wonder」とは、相手の強みや感情を「断言」するのではなく、「好奇心をもって問いかける」スタンスのことです。「あなたはこういう人だ」と評価するのではなく、「もしかして、こういう面があるのでは?」と、相手自身が考えるための空間を創ります。
オープンダイアログからみた「I wonder」
オープンダイアログ(Open Dialogue)は、フィンランドで発展した対話的なアプローチです。核心にあるのは「対話そのものが治療である」という思想。専門家が解決策を押しつけるのではなく、当事者と共に語り合うプロセスの中で、人が本来持つ回復力(レジリエンス)を引き出します。
オープンダイアログの重要な概念のひとつに「ポリフォニー(多声性)」があります。これは、一方的に「正解を与える」のではなく、多様な声・視点が対話の場に響き合うことを大切にするものです。「I wonder」はまさにこのポリフォニーを体現する言語表現です。
2つのアプローチが生む「第三の空間」
ポジティブ心理学の「強みへの気づき」とオープンダイアログの「断言しない対話」が統合されるとき、「I wonder」は単なる言葉づかいを超えた、心理的安全性の高いコミュニケーション空間を生み出します。
相手は「評価される」のではなく「共に考えてもらっている」と感じる。これが、自己肯定感が低い人の心のガードを自然に下げ、自己理解への「気づき」を促す鍵となるのです。
3. 3ステップで実践する「I wonder」フィードバック法
画像で紹介されている3ステップを、心理学的背景とともに詳しく解説します。
ステップ1:相手を「観察」する
最初のステップは、相手の「言葉の内容」だけでなく、「表情・エネルギー・身体の状態」にまで注意を払うことです。
具体的には、以下のような変化を観察します。
- 話しているときに目が輝いている、声のトーンが上がっている
- 身を乗り出す、手振りが自然に増える(いきいきしているサイン)
- 謙遜した言葉を使いながらも、その話題になると明らかに生き生きしている
ポジティブ心理学では、こうした「フロー状態(Flow)」や「エネルギーの増大」を、その人の強みや情熱が発揮されているサインとして捉えます。言葉よりも先に、体や表情が本当の感情を語ることがあります。
このステップの目的は「評価すること」ではなく、「その人のポジティブな感情が動いた瞬間を記録すること」です。観察は、次のI wonderの言葉に具体性と真実味を与えるための土台になります。
ステップ2:「I wonder」で優しく伝える
ステップ1で観察したことをもとに、「I wonder(私には…に見えたのだけど、どうでしょう?)」という形でフィードバックします。
【I wonder フレーズの基本形】
「私には、あなたが○○は強みではないと謙虚に言いながらも、いきいきしているように見えたのだけど、どうでしょうか?」
このフレーズが効果的な理由を、構造的に分解してみましょう。
- 「私には…に見えた」→ 主語を「私(I)」にすることで、断言を避け、観察者としての視点を示す(Iメッセージ)
- 「謙虚に言いながらも」→ 相手の謙遜を否定せず、そのままの姿を認める(受容)
- 「いきいきしているように見えた」→ 身体的・感情的な観察を具体的に言語化する(観察の言語化)
- 「どうでしょうか?」→ 相手に答える自由を与える(オープンクエスチョン)
この構造は、オープンダイアログの「反射(Reflection)」技法と、ポジティブ心理学の「強みの観察フィードバック」を組み合わせたものです。重要なのは、「あなたはこうだ」という評価ではなく、「私にはこう見えた。あなたはどう感じていますか?」という問いの姿勢を保つことです。
自己肯定感が低い人は、外から押しつけられる評価に抵抗を感じます。しかし、自分で考え、自分で答える余白があるとき、はじめて「もしかして、そういう面があるかもしれない」という内側からの気づきが生まれます。
ステップ3:自己理解への「気づき」を待つ
第3ステップは、相手の「気づき」のプロセスを辛抱強く待つことです。I wonderのフレーズを伝えたあと、最も重要なのは「沈黙を恐れないこと」です。
理想的な反応は、「確かに、そうかもしれません」という言葉です。これは相手が外部からの情報を受動的に受け取ったのではなく、自分の内側を探索した結果として、ひとつの気づきに至った瞬間を示しています。
オープンダイアログでは、対話の場における「応答可能性(Responsiveness)」を大切にします。相手がどのように応答するかを、評価せずに受け止める。「そうですね!やっぱりあなたはすごいですよ!」と押しつけるのではなく、「そうなのですね」とただ一緒に居る。そのシンプルな受容が、自己肯定感を育む土壌となります。
なお、相手が「いや、やっぱりそんなことないと思います」と答えても、それはそれで構いません。I wonderは「正解に導くための誘導」ではなく、「相手が自分自身と向き合う対話の機会を創ること」が目的だからです。
4. 「I wonder」が有効な場面と活用例
職場でのフィードバック場面
シチュエーション:部下がプレゼンを成功させたにもかかわらず、「うまくできませんでした」と自己評価が低い。
❌ NG例:「そんなことないよ!すごく良かったよ!」(相手は受け取れない)
✅ I wonder例:「私には、あなたが難しい質問を受けたとき、落ち着いて丁寧に答えていたように見えたのだけど、どうでしょうか?」
コーチングや1on1での活用
シチュエーション:クライアントが「私には特別なスキルがない」と感じている。
❌ NG例:「あなたには○○というスキルがあります!自信を持ってください!」(押しつけ)
✅ I wonder例:「○○について話してくれたとき、声のトーンが変わって、生き生きされていたように見えたのだけど、その話題、好きなのかなって気になりました。どうでしょう?」
親子・家族間でのコミュニケーション
シチュエーション:子どもが「自分は勉強が苦手」と思い込んでいる。
✅ I wonder例:「算数の話をしているとき、目が輝いているように見えたんだけど、算数、好きなのかな?って思って。どう?」
5. 「I wonder」を使うときの注意点と深め方
誠実な観察が前提条件
「I wonder」は、本当に相手を観察した上での言葉でなければなりません。「何かほめなければ」という義務感から使われたとき、相手はその空虚さを敏感に感じ取ります。自己肯定感が低い人ほど、「本物の関心」と「表面的な称賛」を見分ける力を持っていることが多いです。
「答えを求めない」姿勢を保つ
I wonderの後に沈黙が訪れたとき、急いで次の言葉を足したり、「ね、そうでしょう?」と同意を求めたりしないことが重要です。オープンダイアログの言葉を借りれば、「不確かさに耐える(Tolerating Uncertainty)」能力が、対話を深める鍵となります。
繰り返しが「内なる声」を育てる
1回のI wonderで大きな変化を期待するのは難しい場合があります。しかし、同じ人から繰り返し誠実なI wonderを届けられた人は、少しずつ「もしかして、自分にもこういう面があるのかもしれない」という「内なる声」を育てていきます。これは、ポジティブ心理学が重視する「強みの自己認識」が深まるプロセスです。
感情の言語化を豊かにする練習を
「いきいきしている」「目が輝いている」「声が明るくなった」など、相手の感情や状態を具体的に言語化する力が、I wonderの質を高めます。日頃から人の感情サインに敏感になる練習をすること、それ自体がコミュニケーションの質を全体的に引き上げます。
6. ポジティブ心理学とオープンダイアログが教えてくれる「人の強みの育て方」
ポジティブ心理学の研究者マーティン・セリグマンは、「PERMA」というウェルビーイングの理論を提唱しています。P(ポジティブ感情)、E(エンゲージメント)、R(関係性)、M(意味・意義)、A(達成)の5要素が人の繁栄を支えるとされますが、I wonderのアプローチはこれらすべてに働きかけます。
- P(ポジティブ感情):「いきいきしている」という観察が、相手にポジティブな感情の気づきをもたらす
- E(エンゲージメント):強みを使っているときのフロー状態に気づかせる
- R(関係性):誠実な対話を通じて、信頼関係が深まる
- M(意味・意義):自分の強みが社会や他者に役立つという意義への気づき
- A(達成):強みを認識することで、行動と成果への自信が生まれる
一方、オープンダイアログは「人は本来、自分自身の物語の専門家である」というフィロソフィーに基づいています。外から正解を与えるのではなく、当事者が自分の物語を語り直す(Re-authoring)プロセスを支援する。I wonderはまさに、その「語り直しの入口」となる問いかけです。
褒められるのが苦手な人、自己肯定感が低い人は「弱い人」ではありません。むしろ、自分への高い基準を持ち、慎重に物事を評価できる、深い内省力を持つ人であることが多い。I wonderは、そうした人の本来の力を外側から引き出す「鍵」となります。
まとめ:「I wonder」は、心の扉をノックする言葉
本記事では、「I wonder」を使ったフィードバック法を、ポジティブ心理学とオープンダイアログの観点から解説しました。
重要なポイントをまとめます。
- 自己肯定感が低い人は、直接的な称賛を「認知的不協和」によって無意識に排除してしまう
- 「I wonder」は断言せず、相手の自己探索を促す問いかけのアプローチ
- 3ステップ(観察→I wonderで伝える→気づきを待つ)を通じて、相手は「内側から」自分の強みに気づく
- ポジティブ心理学のPERMAとオープンダイアログのポリフォニーが融合することで、深い対話が生まれる
- 誠実な観察と、答えを急がない姿勢が、I wonderを本物のフィードバックにする
「あなたはすごい!」という直接的な言葉が届かなかったとき、ぜひ「I wonder」を試してみてください。その小さな問いかけが、相手の心の扉を優しくノックし、自己理解という最大の贈り物を届けることができるかもしれません。
よくある質問(FAQ)
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,I wonder を活用した伝え方を学べますか?
はい、ポジティブ心理カウンセラー基本講座などで,紹介しております。ぜひ,体験してみていただければ幸甚です。
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,I wonder 若者に対してポジティブにフィードバックする方法を団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)
はい,実施しております。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
協働で研修なども可能です。
【参考キーワード】I wonder / ポジティブ心理学 / オープンダイアログ / 自己肯定感 / 褒め方 / フィードバック / 謙虚 / 強み / PERMA / 認知的不協和 / コーチング / 1on1
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投稿者プロフィール

- 一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会
-
逆境や困難の中でも「希望」と「可能性」を見出し、自分らしく前向きに生きる人を育む、肯定的な心理学の専門機関。
公式ページ
https://www.positive-counselor.org/
イベント
https://www.positive-counselor.org/event/
協会概要
2013年に任意団体として設立され、2018年に一般社団法人化。ポジティブ心理学、コーチング心理学などを基盤に、個人や組織の成長、ウェルビーイング(幸福)の向上を目指す非営利団体です。諸外国の最先端の研究を取り入れつつ、日本人らしい「謙遜さ」や「誠実さ」といった価値観も尊重した、日本人に合ったプログラムを提供しています。
ミッションとビジョン
ミッション: 肯定的な心理学を活用した対人支援、社会支援、セルフケア、自己成長の普及。
ビジョン: 精神的な困難を未然に防ぎ、問題が生じても前向きに行動できる人材、そして周囲を「勇気づけ」できる人材を育成することで、より希望に満ちた社会を創造する。
実践的なワークショップ:
カードゲームや心理テストなど、体験・実践を重視した形式で、楽しく学べる場を提供。
「強み(ストレングス)」「レジリエンス(逆境力)」など、具体的なテーマに基づいた講座を多数開催。
学校、企業、福祉・看護など、様々な現場のニーズに合わせた研修プログラムを企画・開発・提供。
出版・普及活動、外部機関講演実績
特徴
実践重視のプログラム: 理論だけでなく、カードゲームなどを活用した体験型ワークショップが多く、すぐに実践できるスキルが身につくと評判です。
多様な心理学の統合: ポジティブ心理学を中心に、コーチング心理学やアドラー心理学、認知行動療法など、幅広い理論を統合した多角的なアプローチを学べます。
受講者の声(評判)
口コミでは、「実践的なワークが多く、思考が前向きに変わった」「日常生活にすぐ役立てられた」といった肯定的な評価が多数寄せられており、受講者の満足度は非常に高いです。特に、初心者でも学びやすい内容と、学習を通じて得られるポジティブな影響が好評を得ています。
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