プロセス・ベースト・セラピーとウェルビーイング ポジティブ心理学との深いつながりと、幸せに生きるためのヒント
プロセス・ベースト・セラピーとウェルビーイング
ポジティブ心理学との深いつながりと、幸せに生きるためのヒント


「もっと幸せになりたい」「自分らしく生きたい」——そう思ったとき、あなたはどんなアプローチを選びますか? 近年、心理療法の最前線では「プロセス・ベースト・セラピー(Process-Based Therapy / PBT)」と呼ばれる統合的なアプローチが注目を集めています。このブログでは、PBTとウェルビーイング研究・ポジティブ心理学との関係を、専門用語をできるだけわかりやすく解説します。
コンテンツ一覧
📋 この記事でわかること
- プロセス・ベースト・セラピー(PBT)とは何か
- ウェルビーイングとポジティブ心理学の基本概念
- PBTとポジティブ心理学の共通点・違い
- 実生活への応用:幸せに生きるための具体的な視点
- 今すぐできるセルフケアのヒント
1. プロセス・ベースト・セラピー(PBT)とは?
1-1. 「プロセス」に注目するという革新
プロセス・ベースト・セラピー(PBT)は、スティーブン・C・ヘイズ(ACTの生みの親)とステファン・G・ホフマン(認知行動療法の第一人者)によって提唱された、次世代の心理療法の枠組みです。
従来の心理療法は「うつには認知行動療法」「トラウマにはEMDR」というように、診断名や症状に合わせて特定の技法を選ぶ考え方が主流でした。しかしPBTは、その発想を大きく転換します。
PBTの核心:症状そのものではなく、症状の背後にある「心理的プロセス」——つまり「なぜそうなっているのか」のメカニズムを見つけ出し、そのプロセスに働きかけることで変化を起こす。
たとえば「不安」という症状一つをとっても、その背景には「回避」「反芻思考」「自己批判」「感情調整の困難さ」といった複数のプロセスが絡み合っています。PBTはこれらを丁寧にアセスメントし、その人固有のプロセスに合わせた介入を行います。
1-2. PBTを構成する6つのコアプロセス
PBTでは、人間の心理的健康と不健康に関わる主要な機能次元として、以下の6つのコアプロセスを重視します。
- 認知プロセス:思考パターン、信念体系、認知の柔軟性
- 感情プロセス:感情の認識・調整・受容の能力
- 行動プロセス:回避・アプローチ・習慣化のパターン
- 生理・生物学的プロセス:自律神経・睡眠・身体感覚
- 自己・アイデンティティプロセス:自己概念、自尊感情、価値観
- 対人・社会的プロセス:対人関係、愛着、コミュニティへの帰属感
1 注意(Attention)
注意の向け方・気づきの質を調整するプロセス
例
-
マインドフルネス
-
注意の柔軟性
-
今この瞬間への気づき
役割
→ 自動反応から距離を取る
2 認知(Cognition)
思考の柔軟性を高めるプロセス
例
-
認知再評価
-
認知の脱フュージョン
-
メタ認知
役割
→ 思考へのとらわれを減らす
3 感情(Affect)
感情の理解・調整に関わるプロセス
例
-
感情調整
-
感情受容
-
コンパッション
役割
→ 感情に圧倒されない
4 自己(Self)
自己認識や自己概念に関わるプロセス
例
-
自己観察
-
観察する自己
-
自己コンパッション
役割
→ 固定された自己像からの解放
5 動機(Motivation)
価値や意味に関わるプロセス
例
-
価値の明確化
-
意味の発見
-
内発的動機
役割
→ 行動の方向性を作る
6 行動(Behavior)
実際の行動変化に関わるプロセス
例
-
行動活性化
-
習慣形成
-
スキル学習
役割
→ 現実の生活を変える
これらはバラバラに存在するのではなく、互いに影響し合う「ネットワーク」として機能しています。PBTはそのネットワーク全体を視野に入れながら介入する点が、従来の療法との大きな違いです。
1-3. なぜ今PBTが注目されるのか
現代は「コモルビディティ(併存症)」の時代とも言われます。うつと不安障害を同時に抱える、慢性疼痛と気分障害が重なる——そういったケースが非常に多く、単一の診断・技法では対応しきれない現実があります。
PBTはこうした複雑なケースに対して、症状の「根っこ」にある共通のプロセスを標的にすることで、より効率的・包括的な支援を可能にします。さらに、エビデンスに基づく複数のアプローチ(CBT、ACT、DBT、マインドフルネスなど)の知見を統合しているため、臨床的な適用範囲が非常に広いのも特徴です。
2. ウェルビーイングとポジティブ心理学とは?
2-1. ウェルビーイングは「病気がない状態」じゃない
「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。WHO(世界保健機関)は健康を「病気がないことではなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定義しており、ウェルビーイングはその核心にある概念です。
ウェルビーイングとは、単に「苦しくない」ことではなく、「生きていてよかった」と感じられる、積極的な幸福の状態です。
ウェルビーイングの研究では、主に2つの側面が注目されています。ひとつは「ヘドニック(快楽主義的)ウェルビーイング」——ポジティブな感情が多く、ネガティブな感情が少なく、人生に満足している状態。もうひとつは「ユーダイモニック(意味主義的)ウェルビーイング」——自分らしく生きている、意味・目的を感じている、成長しているという状態です。
2-2. ポジティブ心理学が変えたもの
ポジティブ心理学は、1990年代にマーティン・セリグマンによって提唱された心理学の一分野です。それまでの心理学が「病気や障害を治す」ことに焦点を当てていたのに対し、ポジティブ心理学は「人が幸福に生きるための強みや資源を育てる」ことを目指しました。
セリグマンのPERMAモデルは、ウェルビーイングを構成する5要素を示しています。
- Positive Emotions(ポジティブ感情):喜び・感謝・希望などを感じる頻度
- Engagement(エンゲージメント):活動への没頭・フロー体験
- Relationships(良好な関係):信頼できる人とのつながり
- Meaning(意味・目的):自分より大きな何かへの貢献感
- Accomplishment(達成):目標を達成し、有能感を得る経験
ポジティブ心理学は単なる「プラス思考を持とう」というスローガンではありません。強みの活用、レジリエンス(回復力)、マインドフルネス、フロー体験といったテーマについて、厳密な科学的研究を積み重ねてきた学問です。
3. PBTとポジティブ心理学——2つのアプローチが出会う場所
3-1. 共通の哲学:「機能」に焦点を当てる
PBTとポジティブ心理学は、出発点は異なりながらも、深いところで共鳴し合っています。その最大の共通点は、「人間の機能をプロセスの視点で理解する」という姿勢です。
ポジティブ心理学は「強み」「徳」「フロー」といった人間の肯定的な機能を研究します。PBTは「なぜ人は苦しむのか」「なぜ変化が起きるのか」というプロセスを研究します。両者は「人間がよりよく機能するにはどうすればよいか」というテーマで深く交わります。
3-2. 価値に基づく行動:ACTとポジティブ心理学の接点
PBTの中核をなすACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、「価値に基づいた行動」を非常に重視します。これはポジティブ心理学の「意味・目的(Meaning)」の概念と驚くほど重なります。
ACTの問い:「あなたにとって本当に大切なことは何ですか? その価値に向かって、今この瞬間を生きていますか?」 この問いは、まさにポジティブ心理学が求めるユーダイモニックな幸福への道筋そのものです。
苦しいことがあっても、自分の価値に根ざした行動を続けられるとき——そこには深い充実感と生きがいが宿ります。PBTはその「苦しみを抱えながらも前に進む力」を、ポジティブ心理学はその「前に進む先にある豊かさ」を、それぞれ照らし出しています。
3-3. マインドフルネス:両者をつなぐ橋
マインドフルネスは、PBTとポジティブ心理学の両方に深く根付いています。
PBTにおいてマインドフルネスは、認知的脱フュージョン(思考と距離を置く)、現在の瞬間への接触、感情の受容といった心理的柔軟性のプロセスと直結しています。
一方ポジティブ心理学においても、マインドフルネスはポジティブ感情を高め、エンゲージメントを促し、人間関係を改善するという豊富なエビデンスが蓄積されています。
つまりマインドフルネスとは、「苦しみから抜け出すための道具」であると同時に「幸せをより深く味わうための土台」でもあるのです。
3-4. レジリエンスと心理的柔軟性
ポジティブ心理学が重視する「レジリエンス(逆境への回復力)」と、PBTが核心に置く「心理的柔軟性(Psychological Flexibility)」は、非常に近い概念です。
心理的柔軟性とは、辛い思考や感情が生じたときも、それに飲み込まれることなく、価値ある行動を選び続けられる能力のこと。これは「困難に直面してもすぐに立ち直れる」というレジリエンスの本質とほぼ重なります。
研究では、心理的柔軟性の高い人は、うつ・不安が少ないだけでなく、主観的幸福感・ウェルビーイングが高いことも示されています。PBTはまさに、この心理的柔軟性を高めることを最重要目標のひとつとしています。
3-5. 違いを認め合うことで生まれる豊かさ
もちろん、PBTとポジティブ心理学には違いもあります。
PBTは主に臨床・治療の文脈で生まれ、「苦しみを軽減し、機能を回復する」ことを出発点とします。ポジティブ心理学は予防・促進の文脈が強く、「健康な人をさらに幸せにする」ことを目指します。
しかし現代では、この境界はますます曖昧になっています。心の健康は「病気か健康か」という二項対立ではなく、連続するスペクトラムであり、治療と促進は同じコインの表裏です。PBTとポジティブ心理学を統合的に理解することで、「回復する力」と「花開く力」の両方を育てることができます。
4. 実生活への応用——幸せに生きるための具体的な視点
4-1. 自分の「コアプロセス」を知る
PBTの視点から自分を見つめ直すとき、まず問いたいのは「私の苦しさの背景にはどんなプロセスが働いているか?」です。
たとえば——「なんとなく気力がない」という状態の背景を丁寧に見てみると、「嫌なことを避け続けることで、自分が本当にやりたいことからも遠ざかってしまっている(行動プロセスの回避)」「自分への批判的な思考がループしている(認知プロセスの反芻)」「誰かに頼ることへの不安から孤立している(対人プロセスの回避)」——こういった複合的なプロセスが見えてくることがあります。
「症状を消す」のではなく「プロセスを変える」。それがPBTの本質的なアプローチです。プロセスが変わると、症状は自然と変化していきます。
4-2. 強みを「プロセス」として使う
ポジティブ心理学の「強み(Character Strengths)」の概念は、PBTのプロセス理解と組み合わせることで、さらに力を発揮します。
たとえば「好奇心」という強みを持つ人は、困難な状況でも「これはどういうことだろう?」という探求的な視点を持てることが多い。これは認知プロセスの柔軟性と直結します。「感謝」の強みを持つ人は、対人関係のプロセスが豊かになりやすく、ウェルビーイングを高める資源を自然と持っています。
自分の強みを「スキル」としてではなく「プロセス」として理解すると、日常のさまざまな場面でその強みをどう活かすかが、より具体的に見えてきます。
4-3. 「意味」と「価値」を育てる
ポジティブ心理学のPERMAモデルで「M(Meaning)」が特に重要視されているように、PBTでも「価値(Values)」は心理的健康の要です。
「価値」とは、目的地(ゴール)ではなく、生き方の方向性です。「家族を大切にする」「誠実に働く」「自然と共に生きる」——こうした価値は、たとえ達成できなくても、その方向に向かって歩むこと自体が充実感を生みます。
日々の小さな行動が自分の価値と一致しているか、ときどき立ち止まって確認してみましょう。それだけで、生活の質は驚くほど変わります。
5. 今すぐできるセルフケアのヒント
5-1. マインドフルネス・チェックイン(1日3分)
1日に何度か、「今この瞬間、私はどんな状態にいるだろう?」と自分に問いかけてみましょう。感情、身体の感覚、頭の中の思考——それらをジャッジせず、ただ「観察」する練習です。
最初はうまくできなくて当然。少しずつ、自分の内側に気づくセンサーが育ってきます。
5-2. 価値日記をつける
今日の行動のうち、自分が大切にしている価値と一致していたものを1つ書き留める習慣を作ってみましょう。ポジティブ心理学の研究でも、感謝日記や強みの活用日記が主観的幸福感を高めることが示されています。
5-3. 感情を「データ」として扱う
PBTの感情プロセスの視点では、感情は「良いもの・悪いもの」ではなく、「今の自分の状態を教えてくれる情報(データ)」です。
不安を感じたとき、「不安はダメだ」と戦うのではなく、「不安が教えてくれていることは何だろう?」と問いかけてみましょう。その感情の背景にある価値やニーズが見えてくることがあります。
5-4. 「やめること」を選ぶ勇気
行動プロセスの回避を減らすことは、PBTの重要な介入のひとつです。しかしそれと同時に、自分のウェルビーイングを下げている「やりすぎていること」を手放す勇気も大切です。
完璧主義的な反芻、SNSの過剰なチェック、他人との比較——こうした習慣的なプロセスに気づき、少しずつ変えていくことが、ウェルビーイングの向上につながります。
まとめ:「回復する力」と「花開く力」を共に育てる
プロセス・ベースト・セラピー(PBT)とポジティブ心理学・ウェルビーイング研究は、異なる文脈から生まれながら、「人間がよりよく機能し、豊かに生きるにはどうすればよいか」という問いに、それぞれの角度から光を当てています。
PBTは「なぜ苦しいのか」のプロセスを解明し、変化への道筋を示します。ポジティブ心理学は「何がある人を輝かせるのか」という強みと資源を照らし出します。
どちらも「症状ラベル」ではなく「その人固有のプロセス」を大切にします。そしてどちらも、変化は可能であり、人間には本来的な回復力と成長力があると信じています。
心の健康は、苦しみを取り除くことだけが目標ではありません。意味を感じ、つながりを育て、自分の価値に向かって生きていける——そんな「花開く人生」に向かう旅でもあります。
このブログがその旅の小さなきっかけになれば、とても嬉しいです。
参考:Hayes, S.C. & Hofmann, S.G. (2018). Process-Based CBT. Context Press. | Seligman, M.E.P. (2011). Flourish. Free Press. | WHO(2022)精神保健行動計画 2013–2030
※本記事は教育・情報提供を目的としています。具体的な心理的問題については、専門の心理士・医師にご相談ください。
投稿者プロフィール

- 監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
- 徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。


