コーチングとコーチング心理学の比較ガイド

一般社団法人 ポジティブ心理カウンセラー協会では,ポジティブ心理学とコーチング心理学をカウンセリング心理学に活用しようとするものであり,一部,コーチング心理学も活用しています。

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コーチングの効果を科学する:「一般的なコーチング」と「コーチング心理学」の決定的違い

1. はじめに:なぜコーチング選びに「根拠」が重要なのか

近年、自己成長やキャリア開発、組織のパフォーマンス向上を目指す手段として、コーチングへの注目が急速に高まっています。しかし、「コーチング」と一言で言っても、そのアプローチは多岐にわたります。経験豊富なコーチの個人的な哲学に基づくものから、特定のビジネス理論を応用したものまで様々です。その結果、コーチングを受ける側にとっては、どの手法が自分にとって本当に効果的なのかを見極めることが非常に難しくなっています。本稿の目的は、数あるコーチングの中から「一般的なコーチング」と、科学的根拠に基づく「コーチング心理学」という2つのアプローチの違いを解き明かし、読者の皆様がより確かな成果に繋がるコーチングを選択するための知識を提供することにあります。

まず、本稿で扱う2つのアプローチを整理しておきましょう。

  • 一般的なコーチング: 特定の理論に限定されず、コーチ個人の経験則やビジネス理論など、多様な背景を持つアプローチの総称であり、統一された理論的基盤を持たない点が特徴です。
  • コーチング心理学: 認知行動療法やポジティブ心理学といった、科学的に効果が検証された心理学の理論とエビデンス(証拠)に基づいて、体系的に構築されたアプローチです。

この2つの根本的な違いを理解することは、それぞれのコーチングがもたらす効果の質や再現性を比較検討し、ご自身の目的に合った最適な選択をするための不可欠な第一歩となります。

2. 効果の違いが一目でわかる:2つのコーチングの比較

このセクションでは、「一般的なコーチング」と「コーチング心理学」の本質的な違いをより明確にするため、「理論的な土台」「効果の証拠(エビデンス)」「期待できる主な効果」という3つの重要な観点から両者を比較します。これにより、どちらのアプローチがどのような強みを持つのかを、客観的な視点からご理解いただけます。

以下の表は、近年の研究報告を基に、両者の特徴を初心者の方にも分かりやすくまとめたものです。

観点 一般的なコーチング コーチング心理学
理論的な土台 経験則やビジネス理論が混在し、根拠が不明瞭な場合がある。 認知行動療法やポジティブ心理学など、明確な心理学の理論に基づいている。
効果の証拠(エビデンス) 効果は示されるものの、手法が多様なため解釈が難しい研究が多い。 科学的な研究(メタ分析など)で、具体的な効果が多数報告されている。
期待できる主な効果 スキル向上や行動の変化など。 目標達成、自己効力感(自分ならできるという感覚)、心理的資本、心の幸福度(ウェルビーイング)の向上など。

この比較から見えてくるのは、コーチング心理学が、単に「効果がある」というだけでなく、「何に、どの程度効くのか」という点において、より明確なエビデンスを持っているという事実です。次のセクションでは、このコーチング心理学がもたらす具体的な成果について、さらに詳しく掘り下げていきます。

3. コーチング心理学がもたらす具体的な成果

科学的根拠に基づくコーチング心理学は、具体的にどのようなポジティブな変化をもたらすのでしょうか。ここでは、信頼性の高い複数の研究結果を引用しながら、その具体的な成果を3つのポイントに絞って解説します。

  1. 目標達成と自己洞察の促進 ある研究では、MBAの学生を対象に、単に知識を学ぶ「ポジティブ心理学の講義」と、実践的な「コーチング心理学プログラム」の効果を比較しました。その結果、コーチング心理学を受けたグループは、講義のみのグループに比べて、目標達成度、自己理解の深化、解決志向の思考、そして心理的ウェルビーイングといった点で、統計的に有意な追加的効果が確認されました (Grant & Atad, 2021)。これは、コーチング心理学が知識のインプットに留まらず、個人の内面的な気づきと具体的な行動変容を力強く後押しすることを示しています。
  2. 職場でのパフォーマンス向上 職場におけるコーチングの効果を統合的に分析した研究(メタ分析)では、心理学に基づいたアプローチがもたらす具体的な成果が、効果の大きさとともに示されています (Wang et al., 2021)。
    • 目標達成: 非常に大きな効果 (g≈1.1–1.3)
    • 自己効力感(自分ならできるという感覚): 中程度の効果 (g≈0.6)
    • 心理的ウェルビーイング(心の幸福度): 小〜中程度の効果 (g≈0.3) これらの結果は、コーチング心理学が個人のパフォーマンスに直結する重要な要素を体系的に向上させる力を持っていることを裏付けています。
  3. 「心の資本」の強化と持続 コーチングの効果は、その場限りではありません。コーチングを受けた社員のレジリエンス(困難から立ち直る力)を含む心理的資本(Psychological Capital)が向上し、その効果が数ヶ月後も維持されたという研究結果が報告されています (Fontes & Russo, 2020; Corbu et al., 2021)。これは、コーチング心理学が一時的なモチベーション向上だけでなく、変化に対応し続けるための持続的な「心の強さ」を育むことにも寄与する可能性を示唆しています。

これらの具体的な成果は、コーチング心理学が科学的な理論に基づき、体系的に設計されているからこそもたらされるものと言えるでしょう。では、一方で「一般的なコーチング」は、どのような位置づけにあるのでしょうか。次のセクションで考察します。

4. 「一般的なコーチング」の位置づけとその限界

ここまでコーチング心理学の優位性を中心に解説してきましたが、それは「一般的なコーチング」に全く効果がないと主張するためではありません。このセクションでは、一般的なコーチングの有効性を認めつつも、科学的な研究から見えてくる限界や課題を客観的に分析し、バランスの取れた視点を提供します。

  • 認められている有効性 職場におけるコーチング全体を対象とした大規模なメタ分析においても、一般的なコーチングがスキル、感情、そして業績といった成果に対して、ポジティブな効果を持つことは確認されています(効果量はδ≈0.3–1.2の範囲で報告されています) (Jones et al., 2016)。多くの人々がコーチングによって実際に成長を実感していることは、紛れもない事実です。
  • 構造的な限界点 しかし、一般的なコーチングには構造的な課題も指摘されています。その核心は、様々な理論や手法が混在しているため、**「具体的に何が効果を生んでいるのかが不明瞭である」**という点です (Jones et al., 2016; Lai & Palmer, 2019)。コーチのバックグラウンドや用いる手法が多岐にわたるため、同じ「コーチング」という名称でも、そのアプローチや質が大きく異なります。これにより、効果にばらつきが出やすく、成功事例の再現が難しいという限界が生じます。

要するに、一般的なコーチングも有効な場合がありますが、その効果のメカニズムと質の一貫性という点においては、科学的基盤を持つコーチング心理学に優位性があると考えられます。この点を踏まえ、最後に確かな成果を得るためのコーチングの選び方について結論を述べます。

5. 結論:より確かな成果を得るためのコーチングの選び方

これまでの分析を総括すると、実証研究に基づけば、「コーチング心理学」は「一般的なコーチング」よりも、どのような成果(特に目標達成、自己効力感、ウェルビーイング)に、どの程度の効果が期待できるのかが明確である、というのが本稿の核心的な結論です。

もちろん、コーチとの相性といった個人的な要因も重要ですが、より確かな成果を求めるのであれば、そのアプローチの背景にある「根拠」に目を向けることが賢明な選択と言えるでしょう。

これからコーチングを受けようと考えている方に向けて、コーチを選ぶ際に役立つ「確認したい3つの質問」を以下に提案します。これらの質問は、コーチングの質を見極めるための羅針盤となるはずです。

  • 根拠となる理論やアプローチ:
  • 期待できる具体的な効果:
  • 効果の測定方法:

これらの問いに対するコーチの回答は、その専門性と信頼性を判断する上で重要な手がかりとなります。本稿が、皆様にとってより信頼性が高く、自分自身の成長に真に貢献するコーチングを見極めるための一助となれば幸いです。

投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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