危機管理とPRISM(Tomorrowmind)の活用 ──科学的知見に基づく、しなやかな組織と個人をつくるレジリエンスを超えた戦略

危機管理とPRISM(Tomorrowmind)の活用

──科学的知見に基づく、しなやかな組織と個人をつくるレジリエンスを超えた戦略

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ポジティブ心理学創設者マーティン・セリグマンと医学博士(脳科学)ガブリエラ・ケラーマンに共著を
翻訳・監修・解説を致しました。こちらのテーマに関する実践や研究を行って参ります。

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自然災害、感染症の流行、サイバー攻撃、そして経営環境の急変――。私たちは今、「いつ、どんな危機が起きてもおかしくない」時代を生きています。危機が起きたとき、多くの組織は「マニュアル通りに動けたか」「被害をどれだけ抑えられたか」に目を向けます。もちろんそれは大切です。しかし、そこで働く一人ひとりの「心」が危機の中でどう反応し、どう乗り越え、そこから何を学ぶのか――という視点が抜け落ちてしまうと、組織は表面的には立ち直っても、内側に深い疲弊を抱えたままになりがちです。

本記事では、ポジティブ心理学者マーティン・セリグマンと未来学者ガブリエラ・ローゼン・ケラーマンが提唱した「Tomorrowmind(これからの生き方)」の枠組み、なかでもその中核をなす「PRISM」モデルを手がかりに、科学的知見にもとづいた危機管理のあり方を、できるだけわかりやすく、そして現場で使える形でご紹介します。人事・組織開発・コーチング・ウェルビーイング施策に携わる方はもちろん、「自分自身のレジリエンスを高めたい」という個人の方にも役立つ内容です。

コンテンツ一覧

1. なぜ今、危機管理に心理学的視点が必要なのか

従来の危機管理(クライシスマネジメント)は、事業継続計画(BCP)や指揮系統の明確化、情報伝達フローの整備など、「仕組み」としての備えを重視してきました。これらは今も欠かせない基盤です。しかし、実際に危機が発生した現場で組織の明暗を分けるのは、しばしば「仕組み」ではなく「人」です。同じ被害規模の危機に直面しても、いち早く立ち直り、むしろ以前より強い結束力を得るチームがある一方で、長期にわたって士気が低下し、離職や燃え尽きが相次ぐチームもあります。

この差を生む要因の一つが、危機下における心理的反応――ストレス、不安、無力感、そしてそこからの回復力(レジリエンス)です。ポジティブ心理学や組織心理学の研究は、危機を「乗り切る」だけでなく「そこから意味を見出し、成長する」ためのプロセスを、再現性のある形で明らかにしてきました。Tomorrowmindは、こうした知見を実務に落とし込むために体系化されたフレームワークです。

📌 科学的な裏づけ

Tomorrowmindは、逆境後の心理的成長(Posttraumatic Growth)や心理的資本(Psychological Capital)研究、認知行動理論、ポジティブ心理学の実証知見を土台としています。

危機対応を「個人の根性論」ではなく「学習可能なスキルの集合」として捉え直す点が特徴です。

2. Tomorrowmindと「PRISM」モデルとは

Tomorrowmindは、これからの不確実な時代を生き抜くために必要な心理的スキルセットを、5つの要素の頭文字をとって「PRISM(プリズム)」としてまとめています。それぞれ独立したスキルでありながら、互いに補い合う関係にあり、危機管理の各局面(予防・対応・回復)に自然に対応づけることができます。

  • Prospection(先見性):未来を具体的にシミュレーションし、複数の可能性に備える力
  • Resilience(レジリエンス):逆境を経験しても回復し、そこから学ぶ力
  • Innovation(イノベーション):不確実な状況でも創造的に問題を捉え直す力
  • Social connection(社会的つながり):他者と信頼関係を築き、支え合う力
  • Mattering(マタリング/意味実感):自分の存在や行動が誰かにとって意味を持つと実感する力

 

3. 危機の局面ごとに見るPRISMの活用法

危機管理は一般に「予防(危機前)」「対応(危機中)」「回復(危機後)」の3局面に分けて考えられます。PRISM5要素は、この3局面それぞれに具体的な形で貢献します。

3-1. Prospection(先見性)――危機を「想像しておく」力

先見性とは、単なる予測ではなく、複数の未来シナリオを具体的にイメージし、心理的にシミュレーションしておく力です。危機管理の文脈では、「もし主要な取引先を失ったら」「もしチームの中核メンバーが突然離脱したら」といった問いを、あらかじめチームで言語化しておくことが該当します。研究では、否定的な出来事を事前に具体的にイメージしておく「メンタル・コントラスティング」が、実際に困難に直面した際の対処行動をスムーズにすることが示されています。危機対応訓練やシナリオプランニングは、このProspectionを鍛える実践的な手法だといえます。

3-2. Resilience(レジリエンス)――危機の最中を支える力

危機が実際に発生した瞬間、多くの人はストレス反応として不安や思考の狭窄(トンネルビジョン)を経験します。レジリエンスは、この反応を否定するのではなく、正常な反応として受け止めたうえで、認知の柔軟性を取り戻すためのスキルです。Tomorrowmindでは、出来事に対する自動的な解釈(ABCモデルにおけるBBelief)に気づき、より正確でバランスの取れた解釈へと調整していく認知行動的アプローチが重視されます。危機対応の最中にリーダーが「これは一時的な状況であり、対処可能だ」という現実的な楽観性を言葉にできるかどうかは、チーム全体の心理状態に大きく影響します。

3-3. Innovation(イノベーション)――前例のない状況を乗り越える力

危機は多くの場合、既存のマニュアルが想定していなかった事態を伴います。ここで必要になるのが、制約の中でも新しい選択肢を発想する力です。心理的安全性が確保された場では、メンバーが「こんな方法もあるかもしれない」と発言しやすくなり、危機対応の質が高まることが組織研究で繰り返し示されています。逆に、失敗を許容しない文化のもとでは、危機時こそ最も必要な発想の柔軟性が失われてしまいます。

3-4. Social connection(社会的つながり)――一人で抱え込ませない力

危機下では孤立が最大のリスク要因の一つになります。誰かに助けを求められること、弱さを見せられること自体が、レジリエンスの重要な構成要素です。定期的な1on1、チェックイン、そして「困っていることを話しても評価が下がらない」という信頼の土台づくりは、危機発生時に機能する「つながりのインフラ」を平時から築いておく取り組みだといえます。

3-5. Mattering(マタリング)――「自分の頑張りには意味がある」という実感

危機対応が長期化すると、多くの人が「これだけ頑張っても報われない」という無力感に陥ります。マタリングは、自分の行動や存在が誰かにとって重要であるという実感であり、これが欠けると、たとえ客観的な成果があっても燃え尽きにつながりやすくなります。危機対応にあたったメンバー一人ひとりの貢献を具体的に言語化してフィードバックすること、そして危機後の振り返りの場で「あなたのこの行動が、こういう結果につながった」と伝えることは、回復局面において特に重要な介入です。

4. 現場で使える実践ステップ

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PRISM
の考え方を組織の危機管理プロセスに組み込むための、具体的な実践ステップを紹介します。

  • 【予防】年に一度、チームで「最悪のシナリオ」を具体的に言語化するワークショップを行う(Prospection
  • 【予防】1on1やチームミーティングで、弱さや懸念を共有できる心理的安全性を平時から築く(Social connection
  • 【対応】危機発生直後は、事実確認と並行して「今の反応は正常なストレス反応である」とチームに伝える(Resilience
  • 【対応】既存の手順にこだわりすぎず、小さな実験的対応を許容する空気をリーダーがつくる(Innovation
  • 【回復】危機対応が落ち着いた後、必ず振り返りの場を設け、各メンバーの貢献を具体的に言語化する(Mattering
  • 【回復】危機から学んだことを次のProspection(次に備えるシナリオ)に反映させ、サイクルを閉じる

 

観点 従来型の危機管理 Tomorrowmind型の危機管理
焦点 手順・マニュアルの遵守 人の心理的反応と適応力
時間軸 危機発生後の対応が中心 予防(先見性)から回復・成長まで一貫
評価基準 被害の最小化 被害の最小化+そこからの学習・成長
個人への働きかけ 指示・統制 コーピング支援、意味づけの促進
組織への働きかけ 指揮系統の明確化 心理的安全性とつながりの強化

 

5. HRや人事施策への応用

PRISMモデルは、危機管理研修だけでなく、コーチングセッションや人事施策の設計にも応用できます。たとえば1on1では、「最近ヒヤリとした出来事はあったか(Prospection)」「その時どう受け止めたか(Resilience)」「誰かに相談できたか(Social connection)」といった問いを織り交ぜることで、平時からPRISM5要素を鍛える会話が可能になります。また、人事評価やフィードバックの場面で「あなたの対応がチームにとってどう意味があったか」を明示的に伝えることは、Matteringを高める効果的な介入です。危機管理を特別な非常時対応としてではなく、日常のマネジメントやコーチングの延長線上に位置づけることが、組織全体のレジリエンスを底上げする鍵となります。

6. 組織に求められる言葉がけの具体例

PRISMの各要素は、抽象的な理念にとどめず、危機の現場で実際に交わされる「言葉」に落とし込むことで初めて機能します。ここでは、リーダーやマネジャーが危機対応の各局面で使える言葉がけの例を紹介します。

6-1. 危機発生直後(Resilienceを支える言葉)

「今、不安や焦りを感じるのは自然な反応です。まず事実を一緒に整理しましょう」という一言は、メンバーの過剰なストレス反応を否定せずに受け止めつつ、思考の焦点を「解決可能な行動」へと戻す効果があります。危機下では、リーダー自身が動揺を見せないようにと無理をするよりも、落ち着いたトーンで事実と感情を切り分けて話すことのほうが、チーム全体の安心感につながります。

6-2. 対応の最中(InnovationSocial connectionを支える言葉)

「今の状況で、普段は選ばないような方法でも構いません。何かアイデアはありますか」という問いかけは、既存の手順への固執を和らげ、メンバーの発想を引き出します。また、「一人で抱え込まず、気づいたことがあればすぐに共有してください」という呼びかけを、リーダーが繰り返し口にすることも重要です。危機下では発言のハードルが平時よりも上がりやすいため、意識的に「話してよい」というメッセージを送り続ける必要があります。

6-3. 回復・振り返りの局面(MatteringProspectionを支える言葉)

危機が落ち着いた後の振り返りでは、「あなたのあの判断が、結果としてチーム全体をこう助けました」というように、個人の貢献を具体的な因果関係とともに伝えることが、Matteringを高める上で効果的です。抽象的な「お疲れさまでした」だけで終わらせず、行動と成果を結びつけて言語化することがポイントです。あわせて、「次に同じようなことが起きたら、今回学んだことをどう活かせそうですか」と問いかけることで、振り返りを次のProspection(未来への備え)へと自然につなげることができます。

よくある質問(FAQ

  1. Tomorrowmindは誰が提唱したフレームワークですか?
  2. ポジティブ心理学の第一人者であるマーティン・セリグマンと、未来学者・心理学者のガブリエラ・ローゼン・ケラーマンが共同で提唱した概念です。日本語版は『これからの生き方』として紹介されています。
  3. PRISMの5要素はすべて同時に鍛える必要がありますか?
  4. 必ずしも同時である必要はありません。まずは自組織やチームにとって最も弱いと感じる要素(例:つながりが希薄、先を見据えた準備が不足しているなど)から着手し、段階的に他の要素へ広げていく進め方が現実的です。
  5. 中小規模の組織でも導入できますか?
  6. 可能です。PRISMは大掛かりなシステム投資を必要とせず、1on1や定例ミーティングの問いかけ方、振り返りの場の持ち方といった「対話の質」を変えることから始められます。
  7. 個人がセルフケアとして活用することもできますか?
  8. できます。危機は組織だけでなく個人のキャリアや生活にも訪れます。自分自身の反応をResilienceの視点で捉え直したり、信頼できる人とのSocial connectionを意識的に維持したりすることは、個人のセルフケアとしても有効です。

Q.一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,「これからの生き方(Tomorrowmind日本語版)」に関する方法を学べますか? また,危機管理について学べますか?

はい、当協会では,一般的な心理学,ポジティブ心理学などの視点から,進化心理学を全般的に行っています。科学的なエビデンスと物語のナラティブを活用して,より現代的な視点での進化心理学を学ぶ事可能です。おもに,レジリエンスカウンセラー講座などで開催しております。

positive counselor

Resiliencecounselor

https://positive-counselor.org/event/resilience/



Q.一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会では,

「これからの生き方(Tomorrowmind日本語版)」に関する「危機管理」について実践を団体研修・法人研修などを実施してますか?(新入社員・中途社員・管理職研修など)

はい,Tomorrowmind日本語版にもとづいた危機管理に関する研修,リスクマネジメントに関して,実施しております。多数の研修事例があります。もしご希望でしたら,お問い合わせまでご連絡をいただければ幸甚です。
協働で研修なども可能です。

https://positive-counselor.org/contact/

まとめ

危機管理は「起きてしまった出来事にどう対処するか」だけでなく、「危機を通じて人と組織がどう成長できるか」まで見据えたときに、初めてその真価を発揮します。Tomorrowmindが提示するPRISMモデル――先見性、レジリエンス、イノベーション、社会的つながり、マタリング――は、危機の予防から対応、回復までの全プロセスに、科学的知見にもとづいた具体的な手がかりを与えてくれます。完璧な備えを目指すのではなく、「人の心理」を軸に据えた継続的な取り組みとして、ぜひ自組織の危機管理に取り入れてみてください。

 

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投稿者プロフィール

徳吉陽河
徳吉陽河監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。

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