マタリング(Mattering)とは? ポジティブ心理学の関係
ポジティブ心理学 × ウェルビーイング
マタリング(Mattering)とポジティブ心理学の関係
「自分は誰かにとって大切な存在だ」と感じることが、なぜ心の健康に不可欠なのか
キーワード:マタリング・ポジティブ心理学・ウェルビーイング

はじめに:マタリングとは,「自分は大切にされている」という感覚の力
突然ですが、あなたは今、誰かに「必要とされている」と感じていますか?
仕事でも、家庭でも、友人関係でも——「自分がいなくなっても、きっと誰も気づかないだろう」そんな孤独感を覚えたことがある人は少なくないでしょう。
実はその逆、「自分は誰かにとって重要な存在だ」「自分の存在が誰かに気づかれ、大切にされている」という感覚こそ、心理学の世界で近年注目されている概念 ——【マタリング(Mattering)】です。
本記事では、マタリングとは何か、ポジティブ心理学との深い関係、そして日常生活の中でどのようにマタリングを育てられるかをわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- マタリング(Mattering)の定義と3つの要素
- ポジティブ心理学との関係性
- マタリングが低いとどうなるか(リスク)
- マタリングを高める具体的な方法
- 職場・学校・家庭での実践例
- 最新の研究が示す注目の知見
1. マタリング(Mattering)とは何か?
1-1. マタリングの定義
マタリング(Mattering)とは、「自分が他者にとって重要であり、気にかけられ、価値ある存在である」という主観的な感覚・認識のことです。
この概念は、1981年にアメリカの社会学者モリス・ローゼンバーグ(Morris Rosenberg)と心理学者B・C・マカロック(B.C. McCullough)によって提唱されました。彼らは「人は自分が重要な存在であると感じることへの根本的な欲求を持っている」と主張しました。
「マタリングとは、私たちが重要であること、他者の意識や感情に大きな役割を占めていること、そして他者に対して影響を持っているという感覚である」— Rosenberg & McCullough, 1981
端的に言えば、「自分は誰かの人生の中で意味のある存在だ」という感覚——それがマタリングです。
1-2. マタリングの3つの構成要素
ローゼンバーグとマカロックは、マタリングを以下の3つの要素で定義しました。
① 注目(Attention)
他者が自分の存在や状態に気づき、関心を向けてくれているという感覚。「私のことを見てくれている」「私の変化に気づいてもらえる」といった体験がこれにあたります。
② 重要性(Importance)
自分が他者の関心・思考・行動の中で優先的な位置を占めているという感覚。「あの人にとって私は大切な存在だ」という認識です。
③ 依存(Reliance / Dependence)
他者が自分を必要とし、自分に頼っているという感覚。「私がいないと困る人がいる」「自分の存在が誰かの役に立っている」という経験がこれに含まれます。
後に研究者たちはこれらの要素を発展させ、「肯定(Ego-extension)」や「感謝(Appreciation)」などの要素も加えた多次元モデルが提案されるようになっています。
1-3. マタリングは「自己肯定感」とどう違う?

マタリングと混同されやすい概念に「自己肯定感(Self-esteem)」があります。しかし、両者は異なる心理的概念です。
自己肯定感は「自分が自分をどう評価するか」という内向きの感覚であるのに対し、マタリングは「他者が自分をどう見ているか・自分が他者の中でどれだけ重要か」という対人関係的・社会的な感覚です。
たとえば、高い自己肯定感を持っていても孤立している人はマタリングが低いことがありますし、反対に自己評価は低くても「誰かに必要とされている」感覚が強ければマタリングは高いこともあります。
マタリングは「社会的なつながりの中で育まれる自己価値感」と言えるでしょう。
2. ポジティブ心理学との深い関係
2-1. ポジティブ心理学とは
ポジティブ心理学(Positive Psychology)は、1998年にアメリカの心理学者マーティン・セリグマン(Martin Seligman)が提唱した心理学の分野です。従来の心理学が「病気や問題の治療」に焦点を当ててきたのに対し、ポジティブ心理学は「人間の強みや幸福の増進」を科学的に研究します。
セリグマンはウェルビーイング(well-being)の理論として「PERMAモデル」を提唱しました。
PERMAモデルの5要素
- P(Positive Emotions):ポジティブ感情(喜び、感謝、希望など)
- E(Engagement):エンゲージメント(没入・フロー体験)
- R(Relationships):ポジティブな人間関係
- M(Meaning):人生の意味・目的
- A(Accomplishment):達成感・成功体験
2-2. マタリングはどこでPERMAと交差するか
マタリングは、PERMAモデルの複数の要素と深く関連しています。
まず「R(人間関係)」との関係は明白です。マタリングは人間関係の中で生まれる感覚であり、他者からの関心や重要視が人間関係の質を高めます。
次に「M(意味・目的)」とも強くリンクしています。「自分の存在が誰かに意味をもたらしている」という感覚は、人生の意味感を大きく高めます。実際、マタリング研究者のゴードン・フレット(Gordon Flett)は、マタリングを「意味ある存在であること(Meaningful existence)」の核心と位置づけています。
さらに「P(ポジティブ感情)」とも相関しており、マタリングが高い人ほど日常的なポジティブ感情(喜び、つながり、感謝)を多く体験することが示されています。
「マタリングはウェルビーイングの根幹にあり、人が人生に意味と価値を見出すための中心的な欲求である」— Gordon Flett, 2018
2-3. マタリングと「フラーリッシング(Flourishing)」
ポジティブ心理学では、単なる幸福感を超えた「人間の繁栄・開花」をフラーリッシング(Flourishing)と呼びます。マタリングはこのフラーリッシングを支える重要な柱のひとつとして位置づけられています。
人はただ「楽しい」だけでなく、「自分が世界に何かをもたらしている」「誰かの人生に良い影響を与えている」という確信があって初めて真の意味で繁栄できる——そうマタリング研究は示唆しています。
3. マタリングが低いとどうなるか?
3-1. 精神的健康への影響
マタリングの低さは、様々な精神的健康問題と強く関連していることが研究で明らかになっています。
- うつ病・抑うつ症状の増加(Elliot et al., 2005)
- 不安障害のリスク上昇
- 孤独感・疎外感の強化
- 自傷行為・自殺念慮との相関(Flett et al., 2016)
- 燃え尽き症候群(バーンアウト)との関連
特に注目すべきは、フレットらの研究で示された「マタリングの低さと自殺念慮の強い関連」です。「自分は誰にとっても重要ではない」という感覚が、生きることへの意欲を大きく損なうことが確認されています。
3-2. 社会的影響:孤独感の蔓延
現代社会では、孤独感と疎外感が深刻な社会問題となっています。日本では孤独・孤立対策として2023年に「孤独・孤立対策推進法」が施行されるほどです。
マタリング研究者たちは、現代の孤独問題の核心に「マタリングの欠如」があると指摘します。SNSで多くの「つながり」を持っていても、「自分が誰かにとって本当に重要な存在か」という感覚が薄れることで、深い孤独感を体験する人が増えているのです。
これは「孤独の逆説」とも言われる現象であり、マタリングを抜きには解決できない問題です。
4. マタリングを高める実践的な方法
4-1. 自分のマタリングを育てる
① 感謝を積極的に表現する
「あなたのおかげで助かった」「あなたがいてくれてよかった」という言葉は、相手のマタリングを高めます。同時に、感謝を表現する習慣を持つ人は、自分自身も感謝される機会が増え、マタリング感が高まります。
② 「名前を呼ぶ」意識を持つ
相手の名前を呼ぶことは「あなたの存在を認識している」という強いシグナルです。職場や日常会話の中で、意識して相手の名前を使う習慣を持ちましょう。
③ 存在に気づく(Noticing)
部屋に入ってきた人に笑顔で挨拶する、メッセージへの返信を丁寧にする、SNSでの投稿にリアクションする——こうした「気づいているよ」のサインが相手のマタリングを高めます。
④ 強みを認める(Strength-based Acknowledgment)
「あなたの〇〇という強みがチームに本当に役立っている」という具体的な承認は、最も効果的なマタリング強化の言葉です。ポジティブ心理学の「強み活用(Strengths Use)」アプローチとも組み合わせることができます。
4-2. 職場でのマタリング実践
職場でのマタリングは、従業員エンゲージメントや生産性、離職率と深く関連しています。マネージャーやリーダーが実践できる具体的な方法を見てみましょう。
- 1on1ミーティングで「あなたの仕事がチームに与えた影響」を具体的に伝える
- プロジェクト開始時に「なぜあなたにこの役割を依頼したか」を説明する
- チームメンバーの誕生日や個人的な節目を覚えて祝う
- 会議でメンバーの意見を積極的に取り上げ、名前と共に認める
- 失敗した際も「あなたの取り組みには価値があった」と伝える
4-3. 家庭・子育てでのマタリング実践
子どもにとってのマタリング——「親にとって自分は大切な存在だ」という感覚は、子どもの心理的発達に不可欠です。
- 子どもの話をスマホを置いて目を見て聞く
- 「あなたが家族の中でどれだけ大切か」を具体的な言葉で伝える
- 子どもの小さな変化や成長に気づいて言葉にする
- 「あなたにしかできないこと」を見つけて役割を与える
- 一緒に過ごす「特別な時間」を定期的に設ける
4-4. セルフ・マタリング:自分自身へのマタリング
マタリングは他者との関係だけでなく、「自分が自分にとって重要な存在か」というセルフ・マタリングの側面もあります。
自分自身の欲求・感情・体験を「重要なものとして扱う」習慣——これはセルフコンパッション(Self-compassion)とも深く関連しています。自分を軽視したり、ニーズを無視し続けることは、マタリング感を内側から壊します。
ジャーナリング(日記)、瞑想、あるいは「今日、自分が誰かの役に立てたこと」を書き留める習慣が、セルフ・マタリングを育てる助けになります。
5. 最新の研究が示す注目の知見
5-1. マタリングと身体的健康
近年の研究では、マタリングが精神的健康だけでなく、身体的健康にも影響を与えることが示されています。
マタリングが高い人は免疫機能が高く、慢性疾患のリスクが低い傾向があることが研究で示唆されています。「自分は重要な存在だ」という感覚が、ストレス反応を調整し、神経・内分泌系に好影響を与えると考えられています。
これは、ポジティブ心理学が示してきた「ポジティブ感情と身体健康の関連」とも一致する知見です。
5-2. 職場のウェルビーイングとマタリング
ギャラップ社の調査によると、「職場で自分の意見が重要視されている」と感じている従業員は、エンゲージメントが著しく高いことが示されています。マタリングは職場のウェルビーイング研究において、今最も注目されているテーマのひとつです。
特にパンデミック以降のリモートワーク普及により、「自分の存在が組織に気づかれているか」という感覚が希薄になりやすく、マタリング向上のための組織的介入の重要性が増しています。
5-3. マタリングの「双方向性」
マタリングには重要な双方向性があります。他者のマタリングを高める行動を取ることで、自分自身のマタリングも高まるという好循環です。
「誰かにとって重要な存在になろうとする」行動——気にかける、貢献する、感謝を表現する——は、その人自身の「自分は意味ある存在だ」という感覚を強化します。マタリングは「与えることで増えるリソース」なのです。
6. まとめ:マタリングが変える「生きることの質」
本記事では、マタリング(Mattering)という概念と、ポジティブ心理学との深い関係について解説しました。
マタリングは決して特別な人だけに関係する概念ではありません。「自分は誰かにとって大切な存在か」という問いは、人間誰もが心の深部に抱えている根本的な欲求と直結しています。
ポジティブ心理学が示すように、人間が真に繁栄するためには、ポジティブ感情や達成感だけでなく、「自分の存在が誰かにとって意味を持つ」というマタリングの感覚が不可欠です。
今日からできる小さな一歩として:
- 大切な人に「あなたは自分にとって重要だ」と伝える
- 誰かの話を、スマホを置いて、目を見て聞く
- 「ありがとう、あなたがいてくれてよかった」の言葉を意識的に使う
- 自分自身の欲求や感情を「重要なもの」として扱う
これらのシンプルな行動が、あなたと周囲の人たちのマタリングを高め、よりウェルビーイングな生活への第一歩となるでしょう。
「人生に意味があるのは、それが誰かにとって重要であるからだ」——人は、マタリングの中に生きる意味を見出す。
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参考文献
Rosenberg, M., & McCullough, B.C. (1981). Mattering: Inferred significance and mental health among adolescents. Research in Community and Mental Health, 2, 163-182.
Flett, G.L. (2018). The psychology of mattering: Understanding the human need to be significant. Academic Press.
Seligman, M.E.P. (2011). Flourish: A visionary new understanding of happiness and well-being. Free Press.
投稿者プロフィール

- 監修者:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 代表理事
- 徳吉陽河(とくよしようが)は、ポジティブ心理学、ポジティブ心理カウンセラー協会の創設者の一人であり、日本・世界のおけるコーチング心理学のパイオニア。ポジティブ心理療法士、コーチング心理士、公認心理師・キャリアコンサルタント、認定心理士(心理調査)、として教育・医療・福祉・産業分野で活動する専門家。東北大学大学院博士後期課程で研究し、国際コーチング心理学会、国際ポジティブ心理学会など、世界で学び、研究を発表。著書に『ポジティブ大全』『科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?』『コーチング心理学ガイドブック』『コーチング心理学ハンドブック』などの翻訳書などがあり、科学的なエビデンスと物語(ナラティブ)に基づくコーチングとウェルビーイング教育を推進している。累計4000名のコーチ、カウンセリング実績」(ワークショップを含む)、「累計6000回以上のセミナー実績」以上の実績がある。国土交通省 航空保安大学講師、元東北文化学園大学講師、元仙台医療センター看護学校講師、元若者サポートセンター講師、教育機関、海外・国外の法人企業などで講師を担当実績がある。座右の銘は、「我以外皆我師」、失敗・挫折もたくさんしており、「万事塞翁が馬」大切にしている。「自己肯定感が低いからこそ成長できる」ことを大切にしている。
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