ポジティブ感情トリートメント入門 ポジティブ認知行動療法 認定資格取得の参考に


今回のテーマは、ポジティブ感情トリートメント法です。ポジティブ心理学、神経科学に基づいたアプローチが採用されているのが特徴です。当協会では、一部、以下の講座にて実践しています。セルフケア、対人支援に活用できます。

ポジティブ感情カウンセラー基本講座 

ポジティブ感情トリートメント法入門

☺️喜びを取り戻すための感情療法

このページは、「Positive Affect Treatment(ポジティブ感情トリートメント/PAT)」の探究のため、要点にて説明します。
このアプローチは、ポジティブ認知行動療法の領域となります。


🌟 ポジティブ感情トリートメント法(Positive Affect Treatment(PAT))とは?

🔍 概要

PATは、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)主導の「感情障害のための次世代介入研究(RDoC)」の流れから生まれた、ジティブ心理学、神経科学に基づくエビデンスベースの新しい心理療法です。

伝統的な認知行動療法(CBT)が「否定的思考や感情への介入」に重点を置くのに対して、PATは「ポジティブ感情システムの活性化」に着目します。
とくに、うつ病におけるアンヘドニア(快の喪失)や、喜びを感じにくい状態に対して効果を発揮することが実証されています。

 

☹️アンヘドニア(快の喪失)


ポジティブ感情トリートメント法は、特に「アンヘドニア」と呼ばれる状態(喜びや楽しさを感じる能力の低下)に対して効果を発揮することが研究で示されています。

うつ病や不安症の方のなかには、「何をしても楽しくない」「以前は好きだったことが全く興味を引かなくなった」といった症状を経験される方が多くいます。

PATはこのような症状に特に焦点を当てた治療法です。

💡ポイント:PATの3つの重要なポイント
ポジティブな感情体験への注意力を高める
ポジティブな活動を意図的に計画し実践する
ポジティブな体験を「味わう」スキルを養う

アンヘドニアとその影響

アンヘドニア(anhedonia)とは、「喜びの喪失」を意味し、以前は楽しめていたことから喜びや興味を感じなくなる状態を指します。これはうつ病の中核的な症状の一つであり、多くの方の回復を妨げる大きな要因となっています。

アンヘドニアの日常例

  • 好きな音楽を聴いても何も感じない
  • 美味しい食事を楽しめない
  • 友人との会話に興味が持てない
  • 趣味が単なる作業のように感じる
  • 将来に対して期待や希望を持てない

アンヘドニアが引き起こす問題

  • 社会的孤立(人との関わりを避ける)
  • 活動量の低下と体力の減少
  • 自己肯定感の低下
  • 回復への意欲の喪失
  • 症状の慢性化

アンヘドニアは従来の抗うつ薬や一般的な認知行動療法だけでは十分に改善しないことがあります。
脳の「報酬系」と呼ばれる部分の機能低下と関連していることが研究で示されており、PATはこの報酬系の活性化を特に重視した治療法として開発されました。

従来の治療法との違い

特徴 従来の認知行動療法 Positive Affect Treatment (PAT)
主な焦点 ネガティブな思考や感情の軽減 ポジティブな感情や体験の増強
目標 抑うつや不安の症状緩和 喜びの感覚の回復と幸福感の向上
取り組み方 問題点を特定して修正する ポジティブな体験を増やし、深める
活動の選択基準 不安や回避を減らすこと 喜びや興味・達成感を増やすこと
認知への介入 非合理的思考の修正 ポジティブな体験への注意力向上


❗️重要なポイント:
特にアンヘドニア症状が強い方に対しては、PATを取り入れることで治療効果を高める可能性があります。しかし、PATは従来の治療法に取って代わるものではなく、必要に応じて併用することで効果を高められる可能性があります。

とくに、ネガティブな状態に陥っている場合、ポジティブなことを受け入れることやイメージすることが難しいケースがあります。相手に合わせて、柔軟に対応することが重要。

また、ポジティブなことを無理に強要したりすると、大きなストレスになる可能性があるため、できることから対応します。

🔑 3つの主要ターゲット

1. 🧠 ポジティブな感情体験への「注意力」を高める

  • 患者は、ポジティブな出来事があっても「気づけない」「軽視する」傾向がある
  • そのため、ポジティブな出来事に意識を向ける習慣を作ることが治療の出発点となる

2. 📅 ポジティブな活動を「意図的に」計画・実践する

  • 従来の行動活性化と異なり、「喜び・楽しさ・達成感」に結びつく活動を個別に設計
  • 活動スケジューリングの際に、感情的報酬が高い行動を優先する

3. 🍀 ポジティブな体験を「味わう(セイバリング:Savoring)」スキルを強化する

  • 幸せな体験を一瞬で流さず、「味わい」「思い出し」「ポジティブ内省を反復する」能力を育てる
  • 自己報酬的な回路(脳の報酬系)を再活性化させるための技術

🧩 PATの臨床構造(おおよそ10~14セッション)

セッション 内容
セッション1 治療の導入、ポジティブ感情の重要性の教育(Psychoeducation)
セッション2 アンヘドニアと感情認識のトレーニング
セッション3-4 ポジティブな出来事への気づき(Daily Positive Event Tracking)
セッション5-6 ポジティブ活動の計画と実践(Personalized Activation)
セッション7-8 セイバリング(Savoring ポジティブな感情・記憶を味わう)の練習と拡張
セッション9以降 強み活用・関係性の強化・価値観に沿った行動などの応用課題

🗣️具体的なエクササイズ例

以下に、自分で始められるPATのエクササイズ例をいくつか紹介します。これらは専門家の指導がなくても取り組むことができるものですが、うつや不安症状が重い場合は、専門家のサポートを受けながら行うことをお勧めします。

📓ポジティブに関わる日記

毎日、小さくてもポジティブだと感じた瞬間や出来事を3つ書き留めます。

実践のステップ

  1. 小さなノートを用意するか、スマートフォンのメモアプリを使います
  2. 毎日、その日に経験した良い瞬間を3つ記録します
  3. それぞれについて、何が良かったのか、どのような感情を感じたかも書きます
  4. 1週間に1回、記録を読み返して傾向を見つけてみましょう

🥢五感を使った「今」の味わい

日常的な体験を五感を意識しながら味わう練習です。

実践のステップ

  1. 温かい飲み物を飲む、シャワーを浴びるなど日常の活動を選びます
  2. その体験中、意識的に五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に注目します
  3. 例:「お茶の温かさ、香り、味、色、音」など細部を意識します
  4. その体験によって生じる小さな喜びや満足感に注目します

☺️「喜び活動」ステップアップ計画

楽しさや満足感をもたらす活動を段階的に増やしていくエクササイズです。

実践のステップ

  1. かつて楽しかった活動や興味のある活動のリストを作ります
  2. それぞれの活動の難易度を1~10で評価します
  3. 最も難易度の低いもの(短時間、少ない労力で行えるもの)から始めます
  4. 活動の前後で気分を0~10で記録します
  5. 少しずつ難易度を上げていきます

🧠ポジティブな記憶の詳細化

過去の良い思い出を意識的に思い出し、その体験を豊かに再体験するエクササイズです。

実践のステップ

  1. ポジティブな思い出(楽しかった旅行、お祝いの日など)を一つ選びます
  2. 目を閉じ、その思い出の場面を頭の中で詳しく思い描きます
  3. その時見たもの、聞こえた音、感じた温度や触感、匂いなどを思い出します
  4. その時の感情を再び体験することを意識します
  5. 5~10分間、その記憶の中にとどまります

 


🧠 神経心理学的メカニズム(簡単に)

領域 関連する脳の部位 PATでの関与
報酬系 側坐核(NAc)、腹側線条体 ポジティブな報酬への感受性を再活性化
前頭前野 DLPFC、VMPFC 認知的な注意・選択の強化
扁桃体 感情の処理 ネガティブ過敏性の調整とポジティブ認知の促進

🧭 他の療法との違い・関係性

アプローチ 主軸 PATとの違い/共通点
CBT(認知行動療法) 思考の歪み・行動 ネガティブ感情を減らす。PATは感情の「増加」に主軸。
ACT(アクセプタンス&コミットメント) 価値に沿った行動 ACTは受容と行動選択、PATは快楽感情の回復を重点に。
Positive Psychotherapy(PPT) 強み・意味・感謝 PATはより「神経的快感覚」に特化。アンヘドニアへの焦点が明確。

✅ PATの利点

  • 薬物療法で改善しにくい「快感の喪失(アンヘドニア)」への有効性
  • 自己効力感、幸福感の回復
  • 社会的接触・対人関係の質向上
  • 再発予防にもつながる

 

ポジティブ感情トリートメントの効果

こちらは、上級者向けの内容となっております。

ポジティブ感情トリートメント(ポジティブ心理学的介入や感情調整トレーニング)は、うつ病や不安障害などの精神的健康問題の改善に有効であることが多くの研究で示されています。ポジティブ感情を高めることで、抑うつや不安の軽減、生活の質やウェルビーイングの向上が期待できます。

主な効果

  • うつ症状・不安の軽減
    ポジティブ心理学的介入(PPTやPPIs)は、従来の治療法と比べてうつ症状や不安の軽減に効果があり、特に重度のうつ病患者でも高い寛解率が報告されています(Parks et al., 2018; Moskowitz et al., 2019; Gustafsson & Byrne, 2024; Cheung et al., 2022)。
  • ポジティブ感情の増加とウェルビーイングの向上
    感謝や親切行動、味わいなどの実践を通じてポジティブ感情が増加し、生活の質や主観的ウェルビーイングが向上します(Zhang et al., 2020; Moskowitz et al., 2019; Repetti & McNeil, 2021; Gustafsson & Byrne, 2024)。
  • 治療効果の持続性
    オンラインやグループでの介入でも、効果が6ヶ月から1年以上持続するケースが報告されています(Parks et al., 2018; Moskowitz et al., 2019; Gustafsson & Byrne, 2024)。

メカニズムと応用

  • 感情調整スキルの強化
    ポジティブ感情を高めることで、柔軟な情報処理や新しい経験の受け入れ、ストレスからの回復が促進されます(Knapp et al., 2017; Gross et al., 2015; Dutcher et al., 2023; Garland et al., 2010)。
  • 治療反応性の向上
    元々ポジティブ感情が高い人ほど、認知行動療法や曝露療法などの治療効果が高い傾向があります(Knapp et al., 2017; Dutcher et al., 2023)。
  • 介護者や慢性疾患患者への応用
    オンラインでのポジティブ感情トレーニングは、介護者のうつ・不安軽減や身体的健康の改善にも有効です(Moskowitz et al., 2019)。
効果 対象・状況 参考文献
うつ・不安の軽減 うつ病・不安障害 (Parks et al., 2018; Moskowitz et al., 2019; Gustafsson & Byrne, 2024; Cheung et al., 2022)
ポジティブ感情の増加 一般・臨床集団 (Zhang et al., 2020; Moskowitz et al., 2019; Repetti & McNeil, 2021; Gustafsson & Byrne, 2024)
治療効果の持続 オンライン介入 (Parks et al., 2018; Moskowitz et al., 2019; Gustafsson & Byrne, 2024)
治療反応性の向上 CBT・曝露療法 (Knapp et al., 2017; Dutcher et al., 2023)

まとめ

ポジティブ感情トリートメントは、うつや不安の軽減、ウェルビーイングの向上、治療効果の持続など多面的な効果が期待でき、従来の治療法と組み合わせることでさらなる効果が得られる可能性があります。

References

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Cheung, E., Freedman, M., Grote, V., Jackson, K., Addington, E., Moskowitz, J., Kwok, I., & Schuette, S. (2022). Positive Psychological Intervention Effects on Depression: Positive Emotion Does Not Mediate Intervention Impact in a Sample with Elevated Depressive Symptoms. Affective Science, 4, 163-173. https://doi.org/10.1007/s42761-022-00140-7

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Dutcher, C., Rosenfield, D., Smits, J., Dowd, S., Hofmann, S., Otto, M., Pollack, M., & Taylor, C. (2023). What good are positive emotions for treatment? A replication test of whether trait positive emotionality predicts response to exposure therapy for social anxiety disorder. Behaviour research and therapy, 171, 104436 – 104436. https://doi.org/10.1016/j.brat.2023.104436

Garland, E., Johnson, D., Fredrickson, B., Meyer, P., Kring, A., & Penn, D. (2010). Upward spirals of positive emotions counter downward spirals of negativity: insights from the broaden-and-build theory and affective neuroscience on the treatment of emotion dysfunctions and deficits in psychopathology.. Clinical psychology review, 30 7, 849-64. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2010.03.002

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