機能分析精神療法(Functional Analytic Psychotherapy, FAP)とは? 用語
機能分析精神療法(Functional Analytic Psychotherapy, FAP)は、クライエントとセラピストの関係性や行動に焦点を当て、行動変容を促す心理療法です。信頼関係や人間関係を向上させながら、相手をケアするアプローチが含まれており、対人関係に関わる心理療法でもあります。人間関係そのものを治療に活用する点がユニークポイントになっています。
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🌱 機能分析精神療法(FAP)とは?
**FAP(Functional Analytic Psychotherapy)**は、セラピストとクライアントの“今ここ”の関係性に注目し、対人関係の改善を通じて行動変容を促す心理療法です。第三世代の行動療法の一つで、行動分析学に基づいています。
🔍 特徴とアプローチ
特徴 | 内容 |
---|---|
セッション内の行動に注目 | クライアントの問題行動がセッション中にも現れると考え、それを観察・介入します。 |
強化の活用 | クライアントの望ましい行動(例:自己開示)をその場で強化し、自然な変化を促します。 |
関係性の重視 | セラピストとの関係そのものを「治療の場」として活用し、信頼と変化を育てます。 |
🧠 理論的背景
- 行動分析の原則に基づき、特に「随伴性(行動の結果がその行動を強めるかどうか)」を重視。
- 問題行動や適応行動がどのような環境で維持されているかを見極め、セッション内で変化を起こします。
- 「今ここ」のやりとりを通じて、クライアントが新しい対人スキルを学ぶ場をつくります。
💬 たとえば…
クライアントが「人に本音を言えない」という課題を抱えている場合、
セッション中にセラピストに対して少しでも本音を話せた瞬間を見逃さず、
セラピストが「今の言葉、とても大切に感じました」と伝えることで、
その行動を強化し、日常でも本音を言えるように導いていきます。
💡ポイント:FAPは、単なる「話を聞く」セラピーではなく、人間関係そのものを治療に活用する点が、ユニークなアプローチです。
機能分析精神療法と行動分析学、認知行動療法の関係
機能分析精神療法(Functional Analytic Psychotherapy, FAP)は、第3の行動療法とされ、行動分析学に関わります。
特に対人関係の問題に焦点を当てた心理療法です。このアプローチでは、セラピストとクライアントの関係性を活用し、クライアントの問題行動や適応的な行動をセッション内で直接観察・強化することを重視します。
特徴
- セッション内の行動に注目
クライアントが日常生活で抱える問題行動(例えば、人との関わり方や感情表現の仕方)が、セッション中にも現れることがあります。FAPでは、これらの行動をリアルタイムで観察し、適切なフィードバックを提供します。 - 強化の活用
セラピストは、クライアントの望ましい行動を強化し、問題行動を減らすよう働きかけます。例えば、クライアントが自己開示を苦手としている場合、セッション内で自己開示を促し、それを肯定的に評価することで、より自然に自己表現できるように導きます。 - 関係性の重要性
FAPでは、セラピストとクライアントの関係を治療の中心に据えます。セラピストは、クライアントの行動変容を促すために、温かく、誠実で、応答的な関わりを持つことが求められます。
理論的背景
FAPは、行動分析の原則に基づいており、特に**随伴性(行動の結果による影響)**を重視します。これは、行動がどのような環境要因によって維持されているかを分析し、適切な介入を行うための考え方です。
機能分析精神療法(Functional Analytic Psychotherapy:FAP)は、行動分析に基づいた対人関係志向の心理療法です。特に「セラピストとクライアントの関係性の“今ここ”のやりとり」を変化の中心に据えています。
🔷 FAPの5つの基本原則(The Five Rules of FAP)
FAPの臨床実践を支える5つの原則は以下の通りです:
🟦 1. CRB1(問題行動)を見抜く:Observe problematic client behaviors in session
- クライアントの「臨床的に関連する行動(CRB1)」をセッション中に見つける。
- 例:過剰な自己批判、感情回避、沈黙など。
🟦 2. CRB2(望ましい行動)を強化する:Reinforce improvements in session
- セッション中にクライアントが見せる**ポジティブな変化(CRB2)**を「その場で」強化する。
- 例:自己開示、気持ちの表現、他者への感謝など。
🟦 3. CRBの区別を学ぶように促す:Encourage client awareness and discrimination
- クライアントが自分自身のCRB1とCRB2を見分けられるように支援する。
- セルフモニタリング能力を育てる。
🟦 4. セラピスト自身の行動(T1・T2)を活用する:Therapist’s behavior is shaped by the client’s behavior
- セラピストは自分の応答(T1=問題的反応、T2=治療的応答)に気づき、クライアントの学習を促進するために自分自身も変化を起こす必要がある。
🟦 5. 治療関係を活かす:Use the therapeutic relationship as a vehicle for change
- セラピストとクライアントのリアルな関係性の中で新しい行動パターンを形成する場をつくる。
🧩 補足:FAPの特徴的な考え方
- 行動の機能に注目し、「なぜその行動が起こっているか」を深く見る。
- 対人関係のパターンがセッション中にも再現されるという前提を持つ。
- 自然で真摯な関係性(Authenticity and emotional openness)が治療効果の核。
機能分析精神療法(FAP)の5原則とカウンセリングで使える質問
以下に、機能分析精神療法(FAP)の5原則に対応する形で、各段階でセラピストが活用できる質問例を表にまとめました。
それぞれの質問は、行動の機能に注目しつつ、「今ここ」での関係性を治療的に活かす目的で構成されています。
🗂 FAPの5原則 × 活用できる質問例
FAPの原則 | セラピストの目的 | 活用できる質問例 |
---|---|---|
1. CRB1(問題行動)の識別 | セッション中に現れる問題行動(回避・沈黙・攻撃など)を見抜く | ・今、この話をするとき、どんな気持ちがしますか?
・この場面、他の人とも同じようなやりとりをしたことがありますか? ・話したくないとき、体のどこに力が入りますか? |
2. CRB2(望ましい行動)の強化 | 望ましい行動が自然に出てきたときに、それを明確にして強化 | ・今の言葉、とても大事なことを話してくれたように感じました。ご自身ではどう感じましたか? ・今、それを言うのに勇気がいりましたか? ・この感じ、また次回も出せそうですか? |
3. CRBの識別を促す | クライアント自身が自分の行動の違いに気づけるよう支援 | ・今の自分の反応、以前とは何か違って感じますか? ・さっきと比べて、気持ちの流れに変化はありますか? ・どのようなときに、自分が素直に表現できると感じますか? |
4. セラピストの反応を活かす(T1/T2) | 自分の感情や行動をフィードバックとして提示し関係性を変容の場とする | ・今、私は少し戸惑いを感じています。それを伝えることで、あなたはどう感じますか?・あなたがそう言ったとき、私はうれしく感じました。それを知ってどう思いますか?・私たちのやりとりに何か気づいたことはありますか? |
5. 治療関係を活かす | 今ここでの“本物の関係性”を築き、新しい対人スキルを練習する場にする | ・私たちのこの関係の中で、もっとこうしたいや、という希望はありますか?・セッションの中で、安全に話せると感じる瞬間はどんなときですか?・今のやりとり、日常の誰かとの関係でも使えそうに感じましたか? |
機能分析精神療法(FAP)は、クライアントとセラピストの関係性を活用し、行動変容を促す心理療法です。研究によると、FAPは特に社会的機能や対人関係の改善に効果があり、さまざまな心理的問題に対して有望な治療法とされていますが、特定の精神疾患に対する十分なエビデンスはまだ確立されていません。FAPは、セラピストによる適切な強化を通じてクライアントの問題行動を減少させ、日常生活での行動改善につながることが示されています。
以下に、**FAP(機能分析心理療法)の「5つのルール」と、そこに深く関係する信頼関係づくりの3要素(Awareness・Courage・Love)**を関連づけて分析しました。
✅ FAPの5ルールと信頼関係の3要素(表形式)
FAPの5ルール | 内容 | 関連する信頼関係要素 | 解説(治療同盟とのつながり) |
---|---|---|---|
ルール1:CRB1を識別する | クライエントがセッション内で示す問題行動(例:回避・怒り)を見極める | Awareness(気づき) | 表面的な行動でなく「機能」に注目する洞察力が重要 |
ルール2:CRB2を強化する | 適応的な行動(例:自己開示・正直な発言)をその場で強化する | Love(共感的な承認) | 受容的・感情的なつながりが変容を支える |
ルール3:CRBをセラピストが引き出す | クライエントの反応を引き出すよう、セラピストが意図的にふるまう | Courage(対話する勇気) | 率直な関わりで、リアルな人間関係を再学習させる |
ルール4:CRBを自然な形で強化する | 技法としてでなく、本物の人間関係の中で強化を行う | Love & Courage | 強化が「操作」でなく「つながり」として伝わることが重要 |
ルール5:治療効果を一般化する | セッション内の変化を日常生活に転移させる工夫をする | Awareness(気づき) | 「ここでの変化」を「外の世界」に広げる準備をつくる |
🔍 信頼関係づくりの3要素(Awareness・Courage・Love)
要素 | 内容 | FAPでの具体的役割 |
---|---|---|
Awareness(気づき) | セラピスト自身と相手の行動・感情にマインドフルであること | 行動の「機能」を見抜き、変化のタイミングを逃さない |
Courage(勇気) | 率直な反応・本音・真摯な関わりを恐れない態度 | ありのままの自分で“他者とかかわる勇気”を建設的に育てる |
Love(愛/共感) | クライエントの存在そのものを受け止める姿勢 |
「信頼関係づくりの3要素(Awareness・Courage・Love)」は、FAP(機能分析心理療法)だけでなく、カウンセリングやコーチングのあらゆる対人支援場面で非常に重要な土台です。以下に、それぞれの要素ごとに具体的な実践行動を示します。
✅ 信頼関係づくりの3要素と具体的実践
要素 | 意味・定義 | 具体的な実践例 |
---|---|---|
Awareness(気づき) | 自分と相手の「今ここ」での感情・行動・反応にマインドフルに注意を向けること | ・クライエントの沈黙や言葉の選び方に注目する ・自分が今どんな感情でいるかを観察する ・相手の目線・体の動き ・声のトーンの変化に気づく ・「今ここで何が起きているか」を内省し続ける |
Courage(率直な関与) | リスクをとって本音を伝え、真の関わりを選ぶ勇気 | ・自分の感情や違和感を言語化する(例:「今、少し心配になりました」)
・相手の発言に揺さぶられたときも、そのまま関わりを持ち続ける ・避けたくなる瞬間に“対話し続ける”選択をする ・相手が本音を出せるような「率直な雰囲気」を自ら示す |
Love(人としての関係) | 相手をクライエントではなく「人」として受け止めること、存在への尊重 | ・「その話を聴けて嬉しい」と伝える
・問題ではなく、相手の価値や努力に注目する ・“何かを直す”のではなく“共にいる”姿勢をとる ・「話してくれてありがとう」など、感謝の言葉を伝える |
🧠 実践を支える問い(セラピストやコーチ自身への内省)
- 今、自分は相手の変化よりも「評価」や「正しさ」に偏っていないか?(Awareness)
- 今、私が本当に言いたいことを言えているか?リスクを避けていないか?(Courage)
- この人と人として「共にいる」ことを大切にできているか?(Love)
🧩 FAPとの接続:セッション中の実践例
FAP技法 | 3要素とのつながり |
---|---|
CRB1を見逃さず観察する | Awareness:注意深く「問題行動」の機能を見る |
本音で反応する(強化や正直な感情) | Courage:共感だけでなく、真実を伝える |
共に喜び、痛みを共に感じる | Love:役割でなく、人としてそこにいる |
「信頼関係づくりの3要素(Awareness・Courage・Love)」を体得するための実践形式 ― 自己省察ワーク/ロールプレイ/体験ベースの研修 ― に分けてまとめた表をご紹介します。
✅ 信頼関係づくり3要素 × 実践形式別トレーニング表
要素 | 自己省察ワーク | ロールプレイ | 体験ベースの研修 |
---|---|---|---|
Awareness(気づき) | ●「今この瞬間、自分は何に注意を向けているか?」という気づき日記
●セッション後のふりかえり記録(五感・感情・思考) |
●セッション中の非言語的なサインを観察・言語化する練習
●フィードバック時の呼吸・姿勢・間の観察 |
●マインドフルネス瞑想
●即興演劇(今ここ反応を重視) ●「観察→言葉にする」ペア練習 |
Courage(率直な関与) | ●「本当は言いたかったこと」「怖くて避けたこと」の書き出し●「自分の怖れパターン」を棚卸しするワーク | ●不快な沈黙や拒否への応答練習●「率直さフィードバック」のロールプレイ●言いにくいことを丁寧に伝える練習 | ●「フィードバックを贈る・受け取る」体験演習●境界線を超えない“本音で話す”ペア対話●公開カウンセリング形式 |
Love(人としての関係) | ●「この人のどんな部分に感謝できたか」「人間性に触れた瞬間は?」のふりかえり | ●役割関係を超えた共感の言葉を返すロールプレイ●ラベリングせず“まなざし”で関わる練習 | ●「ありがとうを伝えるワーク」●涙や沈黙に伴走する演習●“何もしないでただ共にいる”場の体験 |
🔍 補足ポイント
- Awareness は「気づいていない自動反応」や「微細な変化」に注意を向ける力を養います
- Courage は「関係を壊すことを恐れず、真に関わる力」の育成です
- Love は「評価せず、存在そのものを大切にする態度」を体感的に学びます
信頼関係づくりの3要素(Awareness(気づき)・Courage(率直な関与)・Love(人としての関係))について、
それぞれの自己内省のための問いとコーチングで使える質問を対応させて表にまとめました。
✅ 自己内省とカウンセリングでの質問の対応表|信頼関係づくりの3要素
要素 | 🔎 自己内省の問い(支援者自身へのふりかえり) | 💬 クライエントへのカウンセリングでの質問例 |
---|---|---|
Awareness(気づき) | ・今、自分は何に注意を向けていたか?
・見落としていた感情やサインはあったか? ・どこで自動反応になっていたか? |
・最近、「なんとなく感じたこと」を言葉にした場面はありますか?
・今、自分の中で“起きていること”に、なにか気づいている点はありますか? |
Courage(率直な関与) | ・本当は伝えたかったけど、伝えなかったことは? ・どんな感情・反応を恐れて避けたか?・相手と本音でつながろうとしたか? |
・今、率直に伝えたいことがあるとしたら、それは何ですか?
・関係を深めるために、少し勇気を出すとしたら何をしますか? |
Love(人としての関係) | ・相手の“存在そのもの”に感謝できた瞬間は?
・評価や期待で相手を見ていなかったか? ・この人と共にいることの意味は? |
・この人とつながりを感じた瞬間はありましたか?
・あなたが“人として”誰かに関わったと感じた場面は? |
機能分析精神療法とポジティブ心理学の関係性
機能分析精神療法(Functional Analytic Psychotherapy: FAP)とポジティブ心理学の関係性を、理論的背景・目的・介入アプローチ・対象・共通点と違いの観点から比較した表をまとめました。
✅ 機能分析精神療法(FAP) × ポジティブ心理学 比較表
項目 | 機能分析精神療法(FAP) | ポジティブ心理学 | 関係性・補完性 |
---|---|---|---|
理論的背景 | 行動分析・スキナーの応用行動分析に基づく。関係性の中での行動変容が中心。 | セリグマンらによる「良好な人生」に関する科学。強み・意味・フローなどが中核。 | FAPは行動科学、ポジティブ心理学は強みとウェルビーイング科学に由来するが、人間の成長を共通目的とする。 |
目的 | セラピストとの「治療関係」を通じてクライエントの行動パターンを改善し、人間関係や人生の質を向上させる。 | 幸福・フロー・意味・強み・レジリエンスを育て、人生の質(Well-being)を高める。 | 両者とも「人がよりよく生きる」ことに焦点。FAPは行動的、ポジティブ心理学は構成的・認知的アプローチが強い。 |
アプローチ | ・セラピストとの対話中に生じる行動(CRB)に注目し、リアルタイムで強化やフィードバックを行う。・5つのルール(例:気づき・率直さ・愛) | ・強みの同定と活用(VIA)・ポジティブ感情の増加・意味の探求・感謝・希望・楽観の育成 | 両者とも人との関係性を重視。FAPは「率直・愛・つながり」ポジティブ心理学は「良好な人間関係」 |
対象 | 対人関係の課題を抱えるクライエント(例:回避・孤立・自己否定) | 一般の個人から臨床対象まで幅広い人々 | 対象者は重なるが、FAPは臨床寄り、ポジティブ心理学は発達・教育・企業領域にも広がる |
共通点 | ・行動の変容による成長の促進・関係性の力を重視・セラピスト・支援者の自己開示や愛着的態度 | ・人間関係・強み・希望・自己変容など、人の可能性への信頼 | 両者ともに「人間的なつながり」「感情の安全」「成長可能性の信頼」が共通基盤にある |
相違点 | 行動分析に基づいた即時フィードバック重視。実験的・関係志向。 | 認知的・構成主義的アプローチが中心。主観的体験や価値に重きを置く。 | 補完関係にあり、FAPにポジティブ心理学を統合することで、「関係的安全 × 強み × 意味」の支援が可能になる |
🔍 補足
- FAPの「愛・気づき・率直さ」は、ポジティブ心理学の「良好な人間関係」「自己変容と自己超越」などと強く結びつく。
- 組み合わせることで、臨床文脈でも強みや希望を活かした関係的介入が可能になります。
機能分析精神療法をポジティブ心理学を活用したカウンセリングに活用する方法
機能分析精神療法(FAP)をポジティブ心理学を活用したカウンセリングに応用することで、**「強みを活かした関係性」や「対人場面での変容」**をより効果的に促すことができます。以下にその統合的な活用方法をステップを検討しました。
✅ FAP × ポジティブ心理学 カウンセリング活用法
1. 「強みの活用」+「関係性の変容」への意図的な焦点
- FAP: セッション内でのクライエントの行動(CRB)に注目。
- ポジティブ心理学: VIA強みやリソースに焦点を当てる。
👉 セッション内でクライエントが発揮した**強みの表現(例:勇気・率直さ・愛)**をその場でフィードバック・強化。
2. 「CRB(治療関係内の行動)」のポジティブ側面を見出す
CRBの種類 | ポジティブ心理学的視点 |
---|---|
CRB1(問題行動) | 回避している裏にある未発揮の強み(例:回避 = 慎重さ・誠実さの裏返し) |
CRB2(望ましい行動) | 現れた強みの芽(例:初めて目を見て話した=勇敢さ・つながり) |
CRB3(話題化) | 強みに関する自己認識の表出(例:「自分って粘り強さがあるのかも」) |
3. 5つのFAPルールにポジティブ心理学を統合する
FAPのルール | ポジティブ心理学的統合 |
---|---|
① 気づき(Awareness) | 強みが発揮された瞬間を見逃さず観察し、肯定的に伝える |
② 勇気(Courage) | 恐れがある中で行動したこと(行動の小さな一歩)を称える |
③ 愛(Love) | 無条件の受容とつながりを大切にし、関係性の安心感を提供 |
④ 強化(Reinforce) | 強み・価値に基づいた行動が起きた瞬間を即時に肯定的にフィードバック |
⑤ 一貫性(Generalize) | セッション外の文脈での強み活用を促す宿題や振り返りを行う |
4. 実践例:統合的カウンセリング場面の流れ
ステップ | カウンセラーの対応 |
---|---|
① 開始時 | VIA強みカードなどを使って、クライエントの強みに気づく(事前評価でも可) |
② 対話中 | 回避行動の背景にあるニーズや価値に共感しながら、発揮された強みをその場でフィードバック(例:「今、正直に言ってくれてありがとうございます。それはあなたの誠実さですね」) |
③ セッション内変容 | 勇気ある一言や表現に反応し、強化(「それは勇気ある一歩でしたね」) |
④ セッション外への橋渡し | 「その勇敢さを、次の職場でどう活かせそうですか?」と行動の一般化を促す |
5. 🔑 統合のメリット
- FAPの即時的・関係性ベースの支援が、ポジティブ心理学の強み・希望・意味づけと融合することで、
クライエントの**「今ここでの自己表現」と「人生全体の方向性」**をつなぐ支援が可能になります。
📘 活用を深めるためのツール例
- VIA強みカード
- ポジティブフィードバックメモ
- 関係性振り返りワークシート(CRB記録+強み記録)
機能分析精神療法(FAP)を「7つのウェルビーイングの領域」(主観的・心理的・社会的・身体的・スピリチュアル・キャリア・経済的)に活かす方法
機能分析精神療法(FAP)を「7つのウェルビーイングの領域」(主観的・心理的・社会的・身体的・スピリチュアル・キャリア・経済的)に活かす方法を、それぞれの領域ごとに焦点・支援方法・FAP的な関わりの特徴を表形式で整理しました。
✅ FAP × 7つのウェルビーイング 活用方法一覧
ウェルビーイング領域 | 焦点 | FAPを活かす支援の方向性 | FAP的関わりの例 |
---|---|---|---|
1. 主観的ウェルビーイング(幸福感・満足感) | 今ここでの感情・体験の質 | セッション内でポジティブな感情をリアルタイムで強化することで、自尊心・感謝・安心感を育む | 「今のあなたの微笑みは、つながりを感じた証ですね」 |
2. 心理的ウェルビーイング(自己成長・自律性・目的) | 自己理解・自己受容・変化への挑戦 | クライエントが**自分らしくある行動(CRB2)**を見逃さずフィードバックし、内発的な動機づけと自己決定を支援 | 「それを言葉にしたあなたは、本当に自分を大切にし始めていますね」 |
3. 社会的ウェルビーイング(他者との関係性) | 対人関係の質と所属感 | セラピストとの治療関係をモデルに、関係的行動パターン(CRB)を修正・強化 | 「あなたが今、私に『ありがとう』と言ったのは、つながりのサインです」 |
4. 身体的ウェルビーイング(健康・活力) | 身体の感覚・行動とのつながり | 身体反応や自己ケアへの気づきを促進し、行動的セルフケアの一般化を支援 | 「その深呼吸は、自分を落ち着かせようとする大切な行動ですね」 |
5. スピリチュアルウェルビーイング(意味・価値・つながり) | 人生の意味・価値観の再発見 | セッション中の自己開示を通して、「大切にしたいもの」に立ち返る対話を強化 | 「それを話すあなたの目がとても真剣でした。大切にしているものが見えてきました」 |
6. キャリアウェルビーイング(やりがい・挑戦) | 仕事や活動における自己実現 | セラピストとの関係の中で、「前向きな選択行動」や「挑戦の一歩(CRB2)」を強化し、外の場面へと一般化 | 「その一言を上司に言おうと思ったこと、それ自体が挑戦の始まりですね」 |
7. 経済的ウェルビーイング(安心感・計画性) | お金との関係・安心・主体性 | お金にまつわる行動や不安も対人場面の回避・恐れとして現れるため、それを扱える関係の安全性を築く | 「経済的な不安をこうして言葉にできたのは、大きな一歩ですね」 |
🔍 補足ポイント
- FAPは**「対人関係のなかでの行動変容」を支援する療法であり、各ウェルビーイング領域の「自己表現・つながり・行動の一般化」**に応用しやすい。
- 各領域の変化は、セッション内の「小さな勇気(CRB2)」を見逃さずに強化することで支援できる。
- FAPは**「今ここでの関係」×「強化」×「意味づけ」**の循環を通じて、クライエントの人生の質全体に寄与します。
最後に、学術的な視点で、まとめました。
機能性分析心理療法の効果と適用範囲
- 幅広い心理的問題への効果
不安、うつ、強迫、性格、感情コントロールなど多様な問題に対して、FAPは有意な改善効果を示し、その効果は1年後も維持されることが報告されています(Ferro-García et al., 2021)。 - 社会的機能の向上
FAPは主に社会的行動や対人関係の改善に強みがあり、セラピストが社会的強化子として機能することで、クライアントの行動変容を促進します(Maitland et al., 2017; Molaie et al., 2022; Berlin et al., 2009; Lewis & Maitland, 2022; Ferro-García et al., 2021)。
作用メカニズム
- セラピストによる強化
セラピストがクライアントの望ましい行動をその場で強化することで、行動の変化が生じやすくなります(Molaie et al., 2022; Berlin et al., 2009; Rusch et al., 2006)。 - セッション内での変化が日常に波及
セッション中に減少した問題行動が、セッション外でも減少する傾向が見られます(Berlin et al., 2009; Lewis & Maitland, 2022; Rusch et al., 2006)。
セラピスト訓練と治療関係
- セラピストのスキル向上
FAPの訓練を受けたセラピストは、共感性やFAP特有のスキルが向上し、治療の受容性も高まります(Tan et al., 2017)。 - 治療関係の重要性
FAPはクライアントとセラピストの関係性を重視し、治療同盟や親密さが治療効果に寄与することが示唆されています(Kohlenberg & Tsai, 1991; Ferro-García et al., 2021; Kanter et al., 2002)。
限界と今後の課題
- 特定疾患へのエビデンス不足
FAPの効果は有望ですが、特定の精神疾患に対する十分な科学的根拠はまだ不十分です(Maitland et al., 2017; Lewis & Maitland, 2022)。 - 治療実施方法の違いによる効果のばらつき
実施方法や個別化の程度によって効果に差が出ることが指摘されています(Lewis & Maitland, 2022; Davis et al., 2024; Rusch et al., 2006)。
結論として、FAPは対人関係や社会的機能の改善に特に効果的であり、セラピストの関わり方が治療の鍵となります。今後は、特定疾患への効果や実施方法の最適化に関するさらなる研究が求められます。
References
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Berlin, K., Busch, A., Baruch, D., Weeks, C., Callaghan, G., & Kanter, J. (2009). A micro-process analysis of Functional Analytic Psychotherapy’s mechanism of change.. Behavior therapy, 40 3, 280-90. https://doi.org/10.1016/j.beth.2008.07.003
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Tan, M., Lin, X., Keng, S., Waddington, E., Kanter, J., & Henn-Haase, C. (2017). Effects of Functional Analytic Psychotherapy Therapist Training on Therapist Factors Among Therapist Trainees in Singapore: A Randomized Controlled Trial.. Clinical psychology & psychotherapy, 24 4, 1014-1027. https://doi.org/10.1002/cpp.2064
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Davis, C., Muñoz-Martínez, A., Zirbel, C., Maitland, D., Farren, E., & Cunningham, A. (2024). Exploring the impact of the first rule of Functional Analytic Psychotherapy on fear of intimacy, vulnerability, and responsiveness: An analog process analysis. Journal of Contextual Behavioral Science. https://doi.org/10.1016/j.jcbs.2024.100778
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