『これからの生き方 Tomorrowmind』×キャリア進化心理学 不確実な時代に「しなやかに育つ」ための心理学的アプローチ

キャリア × Tomorrowmind × ポジティブ心理学

キャリアは「積み上げる」から
「しなやかに育てる」へ

AIの広がりや働き方の変化で、「このままでいいのだろうか」と感じる人が増えています。このページでは、『これからの生き方』(Tomorrowmind日本語版)が示す5つの力「PRISM」を、キャリアを生涯かけて育て、更新していくという視点から、やさしく読み解きます。

「知っている」から「できる」へ。合言葉は「心に聴く、心に響く、心に効く」。

監修:一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会 | 最終更新日:2026年10月7日

ひとことで言うと

  • 『これからの生き方』(原書『Tomorrowmind』)は、変化の時代に仕事で繁栄するための5つの心の力「PRISM」を示した本です。
  • キャリアを「積み上げるもの」ではなく、環境の変化に合わせて自分を更新し続ける「進化のプロセス」と捉える考え方があります。
  • PRISMとキャリアの更新は、未来の想定・失敗からの回復・つながり・貢献感の4つの点で深く結びつきます。
  • 自分を肩書きではなく「できること」「大切にしていること」で捉え直すと、転職や役割の変化に適応しやすくなります。
  • 最悪のシナリオを書き出す、小さな挑戦をする、貢献を書き留めるなど、7つのステップで今日から始められます。
  • 当協会の認定資格は民間資格ですが、国際学会の新しい研究や時代のニーズを先取りして講座にし、独自に研究・実践を重ねています。公認心理師・看護師・キャリアコンサルタントなどの国家資格と組み合わせると、相乗効果(シナジー)が生まれます。

『これからの生き方』はキャリアに何を教える?

『これからの生き方』は、ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマン(ペンシルベニア大学教授)と、精神医学・神経科学の知見をもつガブリエラ・ローゼン・ケラーマンの共著『Tomorrowmind』の日本語版です。

本書の出発点は、少し意外なメッセージです。人の脳は長い歴史の大部分を狩猟採集の暮らしの中で過ごしてきたため、速く、不確実で、複雑な現代の変化を「脅威」と感じやすいというのです。けれども著者たちは悲観しません。狩猟採集時代から受け継いだ創造性・社会性・好奇心こそ、今の知識労働の時代に最も必要な力だと考え、その力を引き出す心のスキルを「Tomorrowmind」と名づけました。

ご購入はAmazonなどで。書籍の詳しい情報は関連ページもご覧ください。

書籍『これからの生き方――揺らぐ世界で何度でも立ち直る力』(Tomorrowmind日本語版)の表紙
『これからの生き方』(Tomorrowmind日本語版)

PRISMの5つの力とは?

  • P:未来展望力(Prospection):最悪と最善の両方のシナリオを想定し、未来を頭の中でシミュレーションする力。単なる楽観とは違います。
  • R:レジリエンス(Resilience):逆境から回復するだけでなく、困難を通して成長する力。生まれつきではなく、あとから鍛えられるスキルです。
  • I:イノベーション(Innovation):新しい解決策や見方を生み出す力。AIが繰り返しの作業を担う時代に、ますます価値が高まります。
  • S:社会的つながり(Social Connection):職場でも深く意味のある人間関係を築く力。キャリアの土台になります。
  • M:マタリング(Mattering):「自分はここで意味のある存在だ」という感覚。やる気と心理的安全性の土台になります。

5つの力は「あるか・ないか」ではなく、毎日の実践で磨き続けられるものです。

PRISMの5つの力PRISM未来展望力レジリエンスイノベーション社会的つながりマタリング
図:『これからの生き方』が示す5つの心の力(PRISM)

キャリアを「進化」と捉えるとはどういうこと?

かつてキャリアは「学んで、就職して、経験を積み、昇進する」という、まっすぐで予測しやすい道のりと考えられてきました。けれども今は、5年前に安定していると言われた仕事が自動化の波にさらされ、10年前にはなかった仕事が次々に生まれています。

そこで注目されるのが、キャリアを生き物の「進化」のように捉える考え方です。生き物が環境の変化に合わせて形を変えていくように、キャリアも、自分の内面の変化と外の環境の変化に応じて、変わり続けるプロセスだと考えます。成功の物差しは「どの役職に就いたか」ではなく、「どれだけ自分を更新し続けられたか」です。

大切にされる3つの視点

  • 心理的柔軟性:過去の成功にこだわらず、新しい状況に合わせて自分のイメージを更新できる力
  • 自分らしさを保ちながら変わる力:役割や専門が変わることへの抵抗を手放せること
  • 学び続ける姿勢と成長マインドセット:「能力は努力で伸ばせる」という信念

ポイント:自分を「肩書き」ではなく「能力と価値観の束」で捉える。「自分は〇〇職だ」ではなく、「できること」「大切にしていること」「どんな問題を解きたいか」で自分を定義すると、変化の時代でも心が安定しやすくなります。

具体例:転職・異動・AI時代の働き方でどう活かす?

PRISMの考え方を、キャリアのよくある場面に当てはめてみましょう。

キャリア支援

場面
長く同じ職種で働いてきた相談者が、仕事の自動化が進み「自分にはこの仕事しかない」と不安を口にする。
関わり方
支援者が「これまでの仕事で、どんな力を使ってきましたか?」と問いかけ、職種名ではなく「できること」と「大切にしていること」を一緒に書き出す。
期待される変化
「調整力」「人の話を丁寧に聴く力」など、ほかの仕事にも活かせる核が見え、次の選択肢を前向きに考えられるようになる。
職場(異動)

場面
異動したばかりの社員が、新しい部署でなじめず、孤立感を抱えている。
関わり方
上司が週に一度、短い雑談の時間をつくり、前の部署での経験がどう役立っているかを具体的に伝える。
期待される変化
「ここでも自分は必要とされている」と感じ(マタリング)、新しい人間関係を自分から広げられるようになる。
管理職研修

場面
AIの導入で業務が変わり、管理職がチームの将来像を描けずにいる。
関わり方
研修で「最悪のシナリオ」と「最善のシナリオ」を両方書き出し、それぞれに備えてできる行動をチームで話し合う。
期待される変化
漠然とした不安が具体的な準備に変わり、チームで新しい役割を試す「小さな実験」が始まる。

今日からできるキャリアを育てる7つのステップは?

  1. 「最悪のシナリオ」を書き出す:「今の仕事が3年後になくなったら?」と具体的に書き、対処プランを立てます。不安を見える化すると、落ち着いて考えやすくなります。
  2. 「小さな挑戦」でレジリエンスを育てる:新しい人に話しかける、苦手な作業から先に取り組む、フィードバックを自分から求めるなど。
  3. 「能力と価値観の棚卸し」をする:年に2回以上、「今できること」と「大切にしていること」を書き出します。
  4. 週1回、「深いつながり」の時間をとる:職場の内外の誰かと「仕事の目的や意味」について話します。ランチや30分のオンライン雑談でも十分です。
  5. 「自分の貢献」を書き留める:毎日の終わりに「今日、誰かの役に立てたこと」を一つ書きます。
  6. 「次の自分」を小さく試す:副業、ボランティア、社内異動、学習講座など、小さなスケールで次の自分を試します(キャリアの実験)。
  7. 「なぜこの仕事をするのか」を問い直す:半年に一度、正直に向き合います。答えが変わってもかまいません。

AIの時代は「より人間らしくなれる時代」。意味を生み出す力、深い共感にもとづく関係づくり、新しい見方で問題を捉え直す創造力――PRISMの5つの力は、AIとの違いを形づくる、人ならではの力です。

キャリアを育てるステップ未来を想定する小さく挑戦する棚卸しするつながる貢献する問い直す
図:キャリアを育てる7つのステップの流れ(要約)

研究からわかること(やさしい解説)

PRISMやキャリアの心理学に関わる取り組みについて、これまでの研究をやさしくまとめると次のとおりです。キャリアを「進化」と捉える考え方そのものは、さまざまなキャリア理論をもとにした見方で、効果を直接確かめた研究はまだ多くありません。

取り組み 効果の目安 教訓 現場での活かし方
気持ちに名前をつける(感情のラベリング) 効果:小〜中 「いま不安だ」と言葉にするだけで、気持ちが落ち着き、考えを整理しやすくなる。 面談のはじめに「いまの気持ちを一言で言うと?」と問いかける。
成長マインドセットを育てる働きかけ 効果:小 「能力は伸ばせる」という見方は、挑戦を続ける支えになるが、それだけで大きく変わるわけではない。 失敗の振り返りで「次に変えられることは?」と問い、具体的な行動につなげる。
人とのつながり・メンターの存在 効果:中 相談できる人やメンターがいることは、キャリアの満足感や適応を支える。 社内外のメンターや、業界外の人と話す機会を意識的につくる。
仕事の意味を捉え直す(ジョブ・クラフティング) 効果:小〜中 仕事のやり方や見方を自分で工夫すると、やりがいを感じやすくなる。 1on1で「この仕事は誰の役に立っているか」を一緒に言葉にする。

効果の目安は、これまでの研究をまとめた結果をもとに「小・中・高」の3段階で表しています。効果には個人差があり、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。

書き込みワーク:わたしのキャリアを更新する

肩書きではなく「できること」と「大切にしていること」から、これからのキャリアを考えてみましょう。相談者と対話するときは「コーチモード」に切り替えてください。

入力内容はこの端末のブラウザにだけ保存され、外部には送信されません。

キャリアを育てる対話を、講座で「できる」に

当協会が大切にしているのは、知るだけでなく「実際に実践できる専門家」を育てること。そして、技法の先にある、人としての関わり方=人間性のスキルを磨くことです。

キャリアの不安を聴き、肩書きの奥にある「できること」と「大切にしていること」を引き出し、小さな実験を一緒に決める――こうした関わり方は、知識だけでは身につきません。講座では、『これからの生き方』のPRISMやレジリエンス、強みの考え方を、ペアやグループでの対話練習を通して「使える力」にしていきます。

「知っている」を「できる」に講義を聞くだけでなく、ペアやグループで実際に話して練習します。通信教育だけでは身につきにくい「使える力」を育てます。
傾聴+質問・提案・フィードバック心理的安全性を土台に、聴く力に加えて、質問する・提案する・伝える力までをセットで磨きます。
ポジティブ心理学を対話に活かす一般的なカウンセリングではあまり扱わない、強み・ポジティブ感情・希望などを関わりに取り入れます。
仕事と人生にそのまま使える職場の1on1、教育、医療・福祉、子育てなど、日常の場面ですぐ試せる形で学びます。

国際的な知見を、日本の現場に合わせて

当協会は、国際ポジティブ心理学会などで世界の研究と実践を学び続け、その知見を日本の職場・学校・家庭に合うよう調整して届けています(アダプティブ・アプローチ)。海外の資格や手法は、日本人への適応が十分に考えられていないこともあります。当協会は、その人の文化や物語を大切にするナラティヴ・アプローチも重視しています。アダム・グラントの「才能の科学(Hidden Potential)」やエンゲージメントなど、新しい視点からの研究と実践にも取り組んでいます。講座は連携団体の一般社団法人コーチング心理学協会と共催しています。

落とさない・潰さない・あきらめさせない

「すべての人にカウンセリングやコーチングのマインドと技術を」という方針のもと、再受講制度やフォローアップで、途中でつまずいても再挑戦できる仕組みを整えています。

このテーマとつながる講座

日程・料金は各講座の公式ページが最新です。ポジティブ心理カウンセラー協会とコーチング心理学協会の協働認定「認定ポジティブ心理学コーチ&認定ウェルビーイングコーチ(Wライセンス)」もあり、国際的な視点・ポジティブ心理学・実用性を取り入れたい方におすすめです。

参加の流れ

講座を選ぶ講座・イベント一覧から、テーマと日程を確認します。
申し込む各講座ページの申込ボタンから手続きします。
オンラインで参加自宅や職場からZoomで参加。体験・対話中心で学びます。
現場で試す学んだ問いかけや関わり方を、翌日から実践します。
認定・継続認定資格の取得や、関連講座でさらに深めます。

よくある質問(FAQ)

『これからの生き方』とキャリアはどう関係しますか?
本書は、変化の時代に仕事で繁栄するための5つの心の力(PRISM)を示しています。未来の想定、失敗からの回復、つながり、貢献感など、どれもキャリアを育てるうえで欠かせない力です。
キャリアを「進化」と捉えるとはどういう意味ですか?
キャリアを一度決めたら積み上げていくものではなく、自分の変化と環境の変化に合わせて更新し続けるプロセスとして捉える考え方です。成功の物差しは「どれだけ自分を更新し続けられたか」になります。
転職や方向転換を考えています。PRISMのどの力から鍛えればいいですか?
まずは未来展望力(Prospection)から始めるのがおすすめです。今の不満から逃げるのではなく、なりたい未来に近づくという視点で考えると長続きします。次に、能力と価値観の棚卸しで、どこでも通用する自分の核を確かめましょう。
組織の中で埋もれている感覚があります。マタリングはどうすれば高まりますか?
認められるのを待つより、小さな改善提案をする、後輩の相談に乗る、チームの課題に手を挙げるなど、自分から貢献することで高まりやすくなります。上司や周りが貢献を具体的に伝えることも大切です。
レジリエンスを高める第一歩は何ですか?
「いま自分は何を感じているか」を言葉にする「感情の命名」がおすすめです。「不安」「焦り」と名前をつけるだけで、落ち着いて考えやすくなります。
「最悪のシナリオ」を考えるのはネガティブ思考ではありませんか?
いいえ。不安をあいまいなままにせず、具体的に書き出して対処プランを立てるための練習です。最善のシナリオもあわせて考えることで、現実的な準備につながります。
AIに仕事を奪われるのが不安です。どう考えればよいですか?
不安を感じるのは自然なことです。意味を生み出す力、深い共感にもとづく関係づくり、新しい見方を生む創造力など、人ならではの力を育てることが、AIの時代にも求められ続けます。
キャリア支援の場でPRISMをどう使えますか?
面談で5つの力を自己評価してもらい、育てたい力を選んでから、今週の小さな行動を一緒に決める使い方ができます。職種名ではなく「できること」で自分を語ってもらう問いかけも効果的です。
キャリアやPRISMについて学べる講座はありますか?
『これからの生き方』に学ぶ講座(Tomorrowmind)や、レジリエンス・カウンセラー養成講座、ストレングスカウンセラー®基本講座などで、対話を通して実践的に学べます。民間資格ですが、キャリアコンサルタントなどの国家資格と組み合わせると支援の幅が広がり、キャリアチェンジの機会にもつながります。
講座はオンラインで受けられますか?
はい。Zoomを使ったオンライン講座が中心です。ペアやグループでの対話練習を通して「できる」ようになることを目指します。

読んで終わりにせず、「できる」に変えてみませんか。
対話と体験で学ぶ、ポジティブ心理学のカウンセリング講座です。

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『Tomorrowmind』×キャリア進化心理学 × ポジティブ心理学

不確実な時代に「しなやかに育つ」ための心理学的アプローチ

 

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はじめに――あなたのキャリアは、今どんな状態ですか?

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「このままでいいのだろうか?」

ふとした瞬間に、そう思ったことはありませんか?AIの台頭、グローバル化の波、終身雇用の終焉、リモートワークによる職場の変容——あらゆる変化が同時多発的に押し寄せてくる現代において、「自分のキャリアをどう育てるか」という問いは、もはや年に一度の年度末に考えるものではなくなりました。

そんな時代を生きる私たちに、ひとつの羅針盤を差し出してくれる書籍があります。それが、ポジティブ心理学の父であるマーティン・セリグマン(ペンシルベニア大学教授)と、精神医学・神経科学の知見を持つガブリエラ・ローゼン・ケラーマン(医学博士・現ボストン・コンサルティング・グループ・元BetterUp)が共著した『Tomorrowmind:不確実な未来において仕事で繁栄するためのレジリエンス、創造性、そしてつながり』です。

本記事では、この『Tomorrowmind』の核心的なメッセージを、近年注目を集める「キャリア進化心理学(Career Evolution Psychology)」の視点から読み解きます。そして、この二つのアプローチを統合することで見えてくる、これからの時代に本当に必要なキャリア戦略をお伝えします。

「心理学の話はちょっと難しそう……」と感じた方も、どうぞご安心ください。できるだけわかりやすく、日常の言葉で解説していきます。あなたのキャリアを「育てる」ためのヒントとして、ぜひ最後までお読みください。

『Tomorrowmind』とは何か――未来を生きるための「心の設計図」

書籍の概要とその衝撃的な問いかけ

『Tomorrowmind』が投げかける最初のメッセージは、少々驚くべきものです。著者たちは言います——「私たちの脳が本当に快適に働けるのは、狩猟採集の時代だけだ」と。

人類の脳は、その約90%以上の時間を狩猟採集社会で過ごしてきました。農業革命、産業革命、そして現代の知識労働社会——これらはすべて、私たちの脳にとっては「ミスマッチ」な環境です。産業革命時代は、単純で繰り返しの多い作業が求められました。現代は、速く、不確実で、複雑な変化に常にさらされています。脳は本来、こうした状況を「脅威」として認識するようにできているのです。

しかし著者たちは、そこで悲観するのではなく、逆転の発想を提示します。「狩猟採集民の脳」が持つ創造性・社会性・好奇心という強みは、まさに現代の知識労働社会で最も必要とされているものだ、と。そして、脳の本来の可能性を最大限に引き出すための心理的スキルセットを「Tomorrowmind」と名づけ、体系化しました。

PRISMフレームワーク――5つの心理的スキル

本書の中核をなすのが「PRISMフレームワーク」です。著者たちが提唱する5つの心理的スキルは、以下のとおりです。

  • P — Prospection(未来展望力):単なる楽観主義とは違います。現実的な最悪のシナリオと最善のシナリオの両方を想定しながら、「未来を精神的にシミュレーションする力」です。変化の激しい時代に、先を見越して行動できる人は、この力が高い傾向があります。
  • R — Resilience(レジリエンス):逆境からの回復力を指しますが、著者たちの定義はより深い。単に「折れない」だけでなく、困難を乗り越えて「成長する」能力を含みます。これは生まれ持った特性ではなく、後天的に鍛えられるスキルだという点が重要です。
  • I — Innovation(革新・創造性):与えられた仕事をこなすだけでなく、新しい解決策や視点を生み出す力。AIが反復作業を担う時代において、人間固有の創造性はますます価値を持ちます。
  • S — Social Connection(社会的つながり):孤立した知識労働者は、精神的健康と生産性の両方を失います。深く意味のある人間関係を職場でも築く力は、現代のキャリアにとって根本的な基盤です。
  • M — Mattering(意味・貢献感):「自分はこの場所で意味のある存在だ」という感覚。自分の仕事が周囲に影響を与えているという実感は、内発的動機づけと心理的安全性の土台となります。

この5つのスキルは、「持っているか持っていないか」という二項対立ではなく、日々の実践によって磨き続けられるものです。ここに、後述するキャリア進化心理学との深い共鳴があります。

キャリア進化心理学とは何か――「生涯をかけて育つ」という発想の転換

従来のキャリア論との違い

かつてキャリアとは、「積み上げるもの」でした。学校で学び、就職し、経験を積み、昇進する——直線的で予測可能なモデルです。しかし、このモデルはもはや現実と乖離しています。

キャリア進化心理学(Career Evolution Psychology)は、キャリアをダーウィン的な「進化」のメタファーで捉えます。生物が環境の変化に適応しながら世代をまたいで形を変えていくように、キャリアもまた、個人の内的変化と外部環境の変化に応じて、常に変容・適応していくプロセスであると考えます。

この分野の視点では、キャリアの成功は「どのポジションに就いたか」ではなく、「いかに自己を更新し続けたか」によって評価されます。特に重視されるのは以下の3点です。

  • 心理的柔軟性(Psychological Flexibility):過去の成功体験に固執せず、新しい文脈に適応するために自己イメージを更新できる力。
  • アイデンティティの連続性と変容:「自分らしさ」を保ちながらも、役割や専門性が変わることへの抵抗を手放せる能力。
  • 生涯学習と成長マインドセット:スキルは生得的なものではなく、努力によって変化するという信念が、キャリアの長期的な成果を左右します。

なぜ今「進化」というメタファーが有効なのか

キャリア進化心理学がとくに有効なのは、AIによる労働市場の変化という文脈においてです。

たとえば、5年前に「将来は安泰」と言われていた職種が、今では自動化の波にさらされています。逆に、10年前には存在しなかった職種も数多く生まれています。こうした現実の中で、「自分はXという職業だ」という固定的なアイデンティティは、変化への適応を妨げることがあります。

キャリア進化心理学は、「職業」ではなく「能力と価値観の束」として自己を捉えることを提案します。つまり、自分が何者であるかを、肩書きではなく「できること」「大切にしていること」「どのような問題を解きたいか」という軸で定義することです。この発想の転換が、変化の時代における最大の心理的安定をもたらします。

両者が交差する地点――PRISMとキャリア進化の深い関係

『Tomorrowmind』のPRISMフレームワークとキャリア進化心理学の視点は、異なるアプローチでありながら、驚くほど多くの共鳴点を持っています。それぞれの要素がどのように対応するか、具体的に見ていきましょう。

「未来展望力(Prospection)」と「適応的アイデンティティ更新」

Tomorrowmindの「未来展望力」は、単に楽観的にポジティブな未来を描くことではありません。「最悪の事態を想定しながら、それでも前進するための計画を立てる」力です。これはまさに、キャリア進化心理学が重視する「適応的先読み(adaptive foresight)」に対応します。

私たちは往々にして、現状維持バイアス(現在の状況が未来も続くと思い込む傾向)に陥ります。「今の仕事が10年後もあるはずだ」「自分のスキルはまだ通用するはずだ」——こうした思い込みは、脳が「変化を脅威」と認識するからこそ生まれます。未来展望力を鍛えることは、その本能的な回避反応を乗り越える心理的トレーニングでもあります。

「レジリエンス」と「成長マインドセット」の相乗効果

Tomorrowmindの「レジリエンス」と、キャリア進化心理学における「成長マインドセット(グロース・マインドセット)」は、同じコインの表と裏です。

キャロル・ドゥエックが提唱した成長マインドセットとは、「能力は努力によって変えられる」という信念です。一方、レジリエンスは「困難を乗り越えたとき、自分はより強くなる」という経験の積み重ねから生まれます。この二つが組み合わさったとき、「失敗しても諦めず、しかもその経験から学んで次に生かす」という、変化の時代に最強のキャリア態度が生まれます。

重要なのは、これらが生まれつきの特性ではないという点です。神経科学の研究は、脳の可塑性(ニューロプラスティシティ)——つまり脳は経験によって物理的に変化し続けるという事実——を明らかにしています。レジリエンスも成長マインドセットも、意識的な実践によって「育てられる」のです。

「社会的つながり(Social Connection)」と「関係的キャリア開発」

キャリア進化心理学において、「関係的キャリア開発(relational career development)」という概念があります。これは、キャリアは個人の努力だけではなく、他者との関係性の中で形作られるという考え方です。

Tomorrowmindの「社会的つながり」のスキルは、これに完全に呼応します。著者たちは、リモートワークの普及により職場での孤立感が増し、それが精神的健康だけでなく仕事の質にも深刻な影響を与えていることを、豊富なデータとともに示しています。

人間関係は、単なる「情緒的なサポート」以上の機能を持ちます。メンター、同僚、業界外の知人——こうしたネットワークが、新しい視点、情報、機会の通路となり、キャリアの進化を加速します。意図的につながりを育てることは、戦略的なキャリア行動でもあるのです。

「意味・重要感(Mattering)」と「ライフキャリア統合」

「自分はここで意味のある存在だ」という感覚——Matteringは、Tomorrowmindの中でもとりわけ深い概念です。これはキャリア進化心理学における「ライフキャリア統合(life-career integration)」とつながります。

現代の多くの人が経験する「静かな離職(Quiet Quitting)」の根本には、この「意味と貢献感の喪失」があります。仕事の内容ではなく、「自分の存在が誰かの役に立っている」という確信が、持続的なモチベーションの根本です。キャリアを単なる収入源ではなく、アイデンティティと価値観の表現の場として捉えるとき、この感覚は深まります。

実践的な統合――今日から始める「Tomorrowmind式」キャリア進化の7つのステップ

理論を理解することは大切ですが、最終的には「では何をすればよいか」が問われます。『Tomorrowmind』の知見とキャリア進化心理学のアプローチを統合した、実践的なステップを7つご紹介します。

ステップ1:「最悪のシナリオ」を書き出し、未来展望力を鍛える

週に一度、自分のキャリアに関わる「最悪のシナリオ」を具体的に書き出してみましょう。「もし今の仕事が3年後になくなったら?」「自分のスキルが時代遅れになったら?」——これはネガティブ思考ではありません。脅威を可視化することで、脳の「変化=脅威」反応を慣れさせ、冷静に対処プランを立てられるようになります。

ステップ2:「小さな挑戦」でレジリエンスの筋肉を育てる

レジリエンスは、大きな試練の中でだけ鍛えられるのではありません。日常の中で意図的に「少し不快な状況」に踏み込む習慣を作りましょう。新しい人に話しかける、苦手なタスクに先に取り組む、フィードバックを積極的に求める——これらの積み重ねが、レジリエンスの基盤を作ります。

ステップ3:「能力と価値観の棚卸し」でアイデンティティを更新する

年に2回以上、「自分が今できること」と「自分が大切にしていること」を書き出す機会を持ちましょう。職業名ではなく、スキルと価値観で自己定義することで、転職や役割変化への適応が格段に容易になります。

ステップ4:週1回、「深いつながり」のための時間を確保する

SNSでの表面的な繋がりは、社会的孤立の代替にはなりません。週に一度、職場内外の誰かと「仕事の目的や意味」について語り合う時間を作りましょう。ランチや30分のオンライン雑談でも十分です。

ステップ5:「自分の貢献」を可視化する習慣を持つ

毎日の終わりに「今日、誰かの役に立てたこと」を一つ書き出す習慣を持ちましょう。小さなことで構いません。Matteringの感覚は、意識的に育てることができます。

ステップ6:「次の自分」を常にプロトタイピングする

キャリア進化心理学では「キャリアの実験(career experiments)」という概念を重視します。副業、ボランティア、社内異動、学習コース——小さなスケールで「次の自分」を試してみることが、大きな変化への準備になります。

ステップ7:「なぜこの仕事をするのか」を定期的に問い直す

半年に一度、「なぜ今の仕事を続けているのか」という問いに正直に向き合う時間を作りましょう。答えが変わっていても構いません。むしろ変化こそが、キャリアが「生きている」証拠です。

AIとの共存時代に「人間らしさ」を磨く意味

多くの人がAIに対して「仕事を奪われる」という不安を抱えています。その気持ちは自然です。しかし、『Tomorrowmind』とキャリア進化心理学が共に示すのは、もう少し複雑で、しかしより希望のある現実です。

AIが得意なのは、反復的な処理、膨大なデータの分析、パターンの認識です。一方で、AIには「なぜそれをするのか」という意味の生成力、深い共感に基づく関係構築力、全く新しいフレームで問題を捉え直す創造力——こうした人間固有の能力はまだ及びません。

PRISMフレームワークの5つのスキルは、まさにこの「AIとの差分」を形成します。未来を展望し、逆境から学び、新たな価値を生み出し、深くつながり、意味をもって働く——これらは、どれだけAIが進化しても、人間が求められ続けるコアコンピテンシーです。

キャリア進化心理学の視点から言えば、AIの時代とは「より人間らしくなれる時代」です。効率の追求はAIに委ね、私たちは意味、つながり、創造という、本来最も得意なはずの営みに集中できる——そんな未来を、今から準備する価値があります。

よくある疑問に答える――Q&A形式で理解を深める

Q1:キャリアの方向転換を考えています。Tomorrowmindのどのスキルから鍛えればいいですか?

まずは「未来展望力(Prospection)」から始めることをお勧めします。転職や方向転換は、「現在の不満から逃げる」のではなく、「未来のなりたい姿へ近づく」という視点で設計するほうが長続きします。次に、自分の「能力と価値観の棚卸し(ステップ3)」を実行し、どんな環境でも通用する自己の核を確認しましょう。

Q2:組織の中で埋もれている感覚があります。マタリング(Mattering)はどうすれば高まりますか?

Matteringは、「承認される」ことより「貢献する」ことから生まれます。上司に評価されることを待つより、自ら小さな改善提案を出す、後輩の相談に積極的に乗る、チームの課題に名乗りを上げる——こうした自発的な貢献の積み重ねが、「自分はここで必要とされている」という感覚をつくります。

Q3:レジリエンスを高めたいですが、どこから始めればよいですか?

最も効果的な第一歩は「感情の命名(labeling)」です。困難な状況に置かれたとき、「今自分は何を感じているのか」を具体的に言葉にするだけで、脳の扁桃体(情動の中枢)の活動が低下し、冷静な判断が取り戻しやすくなることが神経科学の研究で示されています。「不安」「怒り」「焦り」——感情に名前をつける習慣が、レジリエンスの土台をつくります。

まとめ――「明日の心」を育てることは、今日の選択から始まる

『Tomorrowmind』とキャリア進化心理学は、異なる出発点から、同じ方向を指し示しています。それは、「変化の時代においてキャリアを守るのではなく、変化と共に自分を育て続けよ」というメッセージです。

PRISMフレームワークの5つのスキル——未来展望力、レジリエンス、革新性、社会的つながり、意味・貢献感——は、生まれつきの才能ではありません。毎日の小さな選択と実践によって育つ、まさに「進化」する能力です。

そしてキャリア進化心理学が教えるのは、その進化は決して孤独な作業ではないということです。他者とのつながりの中で、自分の価値観を問い直しながら、試行錯誤を繰り返すプロセスそのものが、最も豊かなキャリアの在り方です。

不確実な時代は、脅威であると同時に、「自分らしいキャリア」を設計する最大のチャンスでもあります。

あなたの「Tomorrowmind」は、今日から育て始めることができます。まず一つ——どのステップから始めますか?

【この記事のキーポイント】

  • 『Tomorrowmind』は、ポジティブ心理学の権威マーティン・セリグマンが共著した、AI・変化時代の「仕事で繁栄するための心理学」
  • PRISMフレームワーク(未来展望力・レジリエンス・革新性・社会的つながり・意味貢献感)は後天的に育てられるスキルセット
  • キャリア進化心理学は、キャリアを「積み上げ」ではなく「適応と成長の進化プロセス」として捉える
  • 両者の共通メッセージは「変化と共に自己を更新し続ける力」こそが、現代キャリアの最大の武器
  • 7つの実践ステップで今日から「Tomorrowmind式キャリア進化」を始められる

 

参考文献・リソース

Kellerman, G. R., & Seligman, M. E. P. (2023). Tomorrowmind: Thriving at Work with Resilience, Creativity, and Connection. Simon & Schuster.

Seligman, M. E. P. (2011). Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being. Free Press.

Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.

Hall, D. T. (2002). Careers In and Out of Organizations. SAGE Publications. ※プロティアン・キャリア論の基礎文献

Savickas, M. L. (2011). Career Counseling. American Psychological Association. ※キャリア構築理論

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投稿者プロフィール

一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会事務局
一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会事務局一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会
逆境や困難の中でも「希望」と「可能性」を見出し、自分らしく前向きに生きる人を育む、肯定的な心理学の専門機関。

公式ページ
https://www.positive-counselor.org/

イベント
https://www.positive-counselor.org/event/

協会概要
2013年に任意団体として設立され、2018年に一般社団法人化。ポジティブ心理学、コーチング心理学などを基盤に、個人や組織の成長、ウェルビーイング(幸福)の向上を目指す非営利団体です。諸外国の最先端の研究を取り入れつつ、日本人らしい「謙遜さ」や「誠実さ」といった価値観も尊重した、日本人に合ったプログラムを提供しています。

ミッションとビジョン
ミッション: 肯定的な心理学を活用した対人支援、社会支援、セルフケア、自己成長の普及。

ビジョン: 精神的な困難を未然に防ぎ、問題が生じても前向きに行動できる人材、そして周囲を「勇気づけ」できる人材を育成することで、より希望に満ちた社会を創造する。

実践的なワークショップ:

カードゲームや心理テストなど、体験・実践を重視した形式で、楽しく学べる場を提供。

「強み(ストレングス)」「レジリエンス(逆境力)」など、具体的なテーマに基づいた講座を多数開催。

学校、企業、福祉・看護など、様々な現場のニーズに合わせた研修プログラムを企画・開発・提供。

出版・普及活動、外部機関講演実績

特徴
実践重視のプログラム: 理論だけでなく、カードゲームなどを活用した体験型ワークショップが多く、すぐに実践できるスキルが身につくと評判です。

多様な心理学の統合: ポジティブ心理学を中心に、コーチング心理学やアドラー心理学、認知行動療法など、幅広い理論を統合した多角的なアプローチを学べます。

受講者の声(評判)
口コミでは、「実践的なワークが多く、思考が前向きに変わった」「日常生活にすぐ役立てられた」といった肯定的な評価が多数寄せられており、受講者の満足度は非常に高いです。特に、初心者でも学びやすい内容と、学習を通じて得られるポジティブな影響が好評を得ています。

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こんな講座があります

“『これからの生き方 Tomorrowmind』×キャリア進化心理学 不確実な時代に「しなやかに育つ」ための心理学的アプローチ”へ1件のコメント

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