1on1とポジティブ心理学、ポジティブ心理療法、ウェルビーイングの関係とは? 認定資格取得の参考に

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1on1ミーティング(上司と部下の定期的な個別面談)は、企業の人材育成や職場の心理的安全性向上の手法として注目されています。

ここでは、1on1、カウンセリング、セラピストの概念との比較、1on1とポジティブ心理学、ポジティブ心理療法、ウェルビーイングの関係について探究したい思います。
また、臨床心理や心理療法の分野でも、1on1の従来型アプローチの役割や限界が議論されています。以下に、1on1に関する最新の研究知見をまとめます。
当協会でも1on1に関わるエッセンスについて、取り入れており、各講座の内容に取りれております。

まず、1on1とカウンセリング、セラピストの違いについてまとめてみました。

「1on1」「カウンセリング」「セラピスト」の違いについてまとめ

「1on1」「カウンセリング」「セラピスト」の違いをより詳細に比較した表を作成しました。目的・対象・手法・資格・効果・場所・関係性・主なスキルなど、より多角的に整理.。

項目 1on1(ワンオンワン) カウンセリング セラピスト
主な目的 部下の成長支援、心理的安全性の確保、信頼関係の構築 心理的な悩みや葛藤の整理・解決、自己理解の促進 心身の癒し、リラクゼーション、感情の解放、自己肯定感の回復
対象者 主にビジネスパーソン(上司と部下) 自分の悩みを言語化できる人(学生、社会人、家族など) 言語化が難しい人も含む(高齢者、障がい者、子どもなど)
アプローチ手法 対話・コーチング・フィードバック・傾聴 傾聴・共感・受容・質問・認知行動療法などの心理技法 アロマ・マッサージ・アート・音楽・ネイル・ボディワークなど体験型アプローチ
関係性の特徴 上司と部下の信頼関係に基づく継続的な対話 対等な立場での信頼関係(守秘義務あり) 施術者とクライアントの信頼関係(身体的接触を伴う場合も)
必要な資格 不要(企業研修で習得可能) ポジティブ心理カウンセラー、産業カウンセラー、公認心理師、臨床心理士など アロマセラピスト、福祉ネイリスト、理学療法士などの民間・国家資格
得られる効果 自己成長、課題の明確化、モチベーション向上、離職率低下 心の整理、気づき、ストレス軽減、問題解決の糸口 リラックス、安心感、感情の解放、身体の緊張緩和
提供場所 職場(定期的な面談として) カウンセリングルーム、学校、病院、企業内相談室など 医療機関、福祉施設、リラクゼーションサロン、訪問ケアなど
主なスキル 傾聴力、質問力、フィードバック力、心理的安全性の構築力 傾聴・共感・受容・心理学的知識・倫理的配慮 感性・技術力・身体的ケアスキル・非言語的コミュニケーション力
時間の使い方 定期的(週1〜月1)で30分〜1時間程度 1回50分前後、継続的に通うことが多い 1回30分〜90分程度、単発または継続的に利用
守秘義務 基本的にはなし(ただし信頼関係の中での配慮は必要) 厳格な守秘義務あり(倫理規定に基づく) 一部あり(施術者の倫理規定や施設の方針による)

*これを見ると、1on1は、コーチングに近い概念と捉えることができると思われます。1on1は名称から、一対一という意味合いを持ち、心理的安全性のブームの影響から、
心理的安全性、信頼関係を深めると意味に関わると考えられます。

1on1ミーティングと心理的安全性

1on1ミーティングと心理的安全性は、まさに「信頼と対話」を軸にした組織づくりの要です。以下に両者の関係性をわかりやすく表にまとめました👇


🔄 1on1と心理的安全性の関係性

観点 1on1ミーティング 心理的安全性 関係性・相乗効果
定義 上司と部下が定期的に1対1で対話する仕組み 「このチームでは、発言や失敗をしても非難されない」と感じられる状態 1on1を通じて、心理的安全性を“育てる場”として機能する
目的 信頼関係の構築、成長支援、感情の共有、課題の早期発見 自由な発言・挑戦・相談ができる安心な環境の実現 継続的な1on1が、心理的安全性の土台を築く
具体的な効果 離職率の低下、エンゲージメント向上、問題の早期発見 チームの創造性・生産性向上、挑戦意欲の向上、離職防止 1on1が心理的安全性を高め、結果的にチーム全体の成果向上につながる
実践のポイント 傾聴・共感・否定しない姿勢・オープンクエスチョン・継続的な対話 フィードバックの受容、失敗を責めない文化、感謝の表現 1on1での「受容的な対話」が心理的安全性を高める鍵
注意点 上司が話しすぎる、評価の場になってしまうと逆効果 表面的な関係性では安全性は育たない 「形式的な1on1」は逆に不信感を生むこともあるため、真摯な姿勢が不可欠

次に、ポジティブ心理学とポジティブ心理療法の視点で検討してみました。

「1on1」「ポジティブ心理学」「ポジティブ心理療法(ポジティブサイコセラピー)」

*「1on1」「ポジティブ心理学」「ポジティブ心理療法(ポジティブサイコセラピー)」**の違いや関係性を、目的・理論・アプローチ・対象・効果などの観点から表にまとめ

観点 1on1ミーティング ポジティブ心理学 ポジティブ心理療法(PPT)
主な目的 上司と部下の信頼関係構築、成長支援、心理的安全性の確保 幸福感・強み・レジリエンスなど「より良く生きる力」の向上 心の傷やトラウマを癒し、ポジティブな資源を活用して回復と成長を促す
理論的背景 経験的マネジメント理論、心理的安全性(エドモンドソン) PERMAモデル(ポジティブ感情・没頭・意味・達成・人間関係) ポジティブ心理学+精神分析+文化心理学(ペセシュキアンによる統合理論)
アプローチ手法 傾聴・質問・フィードバック・目標設定・感情の共有 感謝日記、強みの活用、3つの良いこと、意味づけの支援など トラウマの語り直し、文化的価値観の再構築、強みの再発見、対話による再統合
対象者 主に企業内の上司と部下 教育・医療・組織・個人など幅広い層 心理的困難・トラウマ・喪失体験を抱える人(医療・福祉・教育現場など)
得られる効果 離職率の低下、エンゲージメント向上、成長促進 幸福感・自己肯定感・創造性・レジリエンスの向上 トラウマからの回復、自己受容、文化的アイデンティティの再構築、希望の回復
心理的安全性 安心して話せる場の提供、否定しない姿勢が重要 自己開示・挑戦を促す安全な環境の重視 安全な関係性の中で過去の痛みを語り、再解釈するプロセスが中心
実践の場 職場(定期的な面談)、マネジメント研修など 学校、企業、医療、家庭などあらゆる場面 カウンセリングルーム、医療機関、教育現場、福祉施設など
代表的技法 チェックイン・フィードバック・キャリア対話・感情の共有 サンクスカード、ストレングスファインダー、感謝日記、意味づけワーク ライフバランスモデル、文化的対比、希望の再構築、ナラティブ再構成

💡共通点としては、「人の強みや可能性に焦点を当てる」点があり、違いは「対象の深さと支援の文脈」にあります。

1on1は日常的な対話支援、ポジティブ心理学は人生全体の幸福支援、ポジティブ心理療法は深い心の傷に寄り添う支援と言えるかもしれません。

らに、1on1にポジティブ心理学やポジティブ心理療法の要素を取り入れることで、より深く・幸福感の向上と持続的な成長支援が可能になるかもしれません。

「1on1ミーティング」と「ウェルビーイング(PERMAモデル)」

「1on1ミーティング」と「ウェルビーイング(PERMAモデル)」の関係性を、各要素ごとに整理してみました。


🌱 1on1とPERMAモデルの関係性

PERMA要素 意味(英語) ウェルビーイングの観点での意味 1on1での実践例・関係性
P:Positive Emotion ポジティブな感情 喜び・感謝・安心・希望などの前向きな感情 上司が感謝や承認を伝えることで、部下に安心感や前向きな気持ちを育む
E:Engagement 没頭・エンゲージメント 時間を忘れるほど夢中になれる状態(フロー) 部下の強みや関心に基づいた仕事の話題を取り上げ、やりがいを引き出す
R:Relationships 良好な人間関係 支え合える信頼関係・つながり 継続的な1on1を通じて、上司と部下の信頼関係を深める
M:Meaning 意味・意義 自分の仕事や人生に意味を見出すこと 「この仕事が誰にどう役立っているか?」などの問いで、仕事の意義を再確認する
A:Accomplishment 達成・成長 目標達成や成長の実感、自己効力感 小さな成功を一緒に振り返り、成長を認めることで達成感を高める

💡1on1は、PERMAの5要素すべてを自然に育むことができる「対話の場」となり得ると思われます。
たとえば「最近うれしかったことは?(P)」や「どんなときに夢中になれる?(E)」など、PERMAに基づいた問いを意識するだけで、部下のウェルビーイングがぐっと高まります。

ウェルビーイング(PERMA)と1on1で使える質問集

PERMAモデルの5要素を活かした1on1で使える質問集を表にまとめてみました。


🌱 PERMAを活かした1on1質問集

PERMA要素 質問例 目的・意図・効果
P:Positive Emotion
(ポジティブ感情)
・最近、うれしかったことは何ですか?
・感謝したい人や出来事はありますか?
ポジティブな感情を思い出すことで、気分が前向きになりやすくなる
E:Engagement
(没頭)
・最近、時間を忘れるほど集中したことは?
・どんな仕事に夢中になれますか?
フロー体験を振り返ることで、強みややりがいの源泉を明確にできる
R:Relationships
(人間関係)
・最近、誰かと良い関係を築けたと感じた瞬間は?
・チームで感謝したい人はいますか?
良好な関係性を意識することで、つながりや信頼感が高まる
M:Meaning
(意味・意義)
・この仕事が社会や誰かにどう役立っていると感じますか?
・自分にとって「意味のある仕事」とは?
意義を再確認することで、モチベーションや内発的動機づけが高まる
A:Accomplishment
(達成)
・最近達成できたことは何ですか?
・どんなときに「成長した」と感じますか?
成果や成長を振り返ることで、自己効力感や自信が育まれる

💡これらの質問は、1on1の冒頭のアイスブレイク振り返りの時間に自然に取り入れるがよいです。

たとえば「最近うれしかったことは?(P)」→「どんなときに夢中になれる?(E)」→「誰と一緒にいると安心できる?(R)」といった流れで、対話の深まりと信頼関係の構築が同時に進みます。

 

「1on1」「ウェルビーイング」、カウンセリングで使える質問例

「1on1」「ウェルビーイング」「カウンセリング」**の文脈で活用できる質問を、目的別に比較しながら表に整理しました。


💬 活用目的別:質問の比較表

活用目的 1on1での質問例 ウェルビーイング向上の質問例 カウンセリングでの質問例
信頼関係の構築 最近気になっていることはありますか? 最近、心が穏やかだった瞬間はいつですか? 安心して話せることができていますか?
感情の把握 今週、嬉しかったこと・モヤモヤしたことは? 今日の気分を10点満点で表すとしたら何点?理由は? 今、どんな感情が一番強く出ていますか?
モチベーション支援 最近、やりがいを感じた仕事は何ですか? 自分が「生き生きしている」と感じる瞬間はどんなとき? 何をしているときに「自分らしさ」を感じますか?
キャリア支援 1年後、どんな仕事をしていたいですか? 自分の強みを活かせていると感じる場面は? 仕事に働きがいを感じますか?
ストレスケア 最近、疲れを感じた場面はありましたか? 自分をリセットするためにしていることはありますか? 仕事にストレスを抱えていませんか?
ストレスを感じたとき、どんな対処をしていますか?
自己理解の促進 自分の強み・弱みをどう捉えていますか? 最近「自分らしい」と思えた行動は? 幼少期の経験で、今の自分に影響していると感じることはありますか?
関係性の改善 チーム内で気になっていることはありますか? 周囲との関係で「ありがたい」と感じたことは? 対人関係で繰り返し起きるパターンはありますか?

💡**1on1では「業務と感情の橋渡し」、ウェルビーイングでは「日常の幸福感」、カウンセリングでは「深層の気づき」を促す質問が中心になります。
それぞれの文脈に応じて、問いの深さや角度を変えるのがポイントになりそうです。

最後に、1on1の効果について調べてみました。

1on1ミーティングの効果

  • 心理的安全性の向上
    1on1ミーティングの頻度が高い(2ヶ月に1回以上)グループは、頻度が低いグループに比べて、職場での心理的安全性が有意に高いことが示されました(p = 0.30)(Shibata et al., 2024)。
  • メンタルヘルスへの影響
    1on1の頻度とメンタルヘルス(GHQスコア)との間には有意な関連は見られませんでした(p = 0.044)。メンタルヘルスには、1on1の頻度よりも仕事の要求度やコントロール度が強く影響していました(Shibata et al., 2024)。

1on1の役割と課題(臨床心理・心理療法分野)

  • 従来型1on1アプローチの限界
    臨床心理や心理療法の分野では、従来の1on1や対面(f2f)、電話(tb)による個別対応はコストが高く、現代の多様なニーズに十分対応できないと指摘されています(L’Abate, 2013)。
  • 新たなパラダイムへの移行
    インターネットの普及により、従来の1on1中心のサービス提供から、より階層的・集団的なアプローチへの移行が求められています(L’Abate, 2013)。

1on1ミーティングの主な効果と課題

項目 効果・課題内容 出典
心理的安全性 頻度が高いほど向上 (Shibata et al., 2024)
メンタルヘルス 頻度との関連は限定的、他要因の影響が大きい (Shibata et al., 2024)
コスト・効率性 従来型1on1はコスト高、効率面で課題 (L’Abate, 2013)
サービス提供の進化 階層的・集団的アプローチへの移行が必要 (L’Abate, 2013)

まとめ

1on1ミーティングは、職場の心理的安全性を高める効果が示されていますが、メンタルヘルスへの直接的な影響は限定的です。また、臨床心理分野では、従来の1on1アプローチの限界が指摘されており、今後はより効率的な新しいサービス提供方法への転換が求められています。

 

1on1ミーティングとポジティブ心理カウンセリングを融合した実践法

1on1ミーティングとポジティブ心理カウンセリングを融合した実践法を、ステップ形式でわかりやすくまとめました👇


🌿 1on1 × ポジティブ心理カウンセリング:実践ステップ

ステップ 実践内容 ポジティブ心理カウンセリングの視点 具体的な問いかけ例
① 雰囲気づくり 評価や詰問ではなく「安心して話せる場」を明示する 心理的安全性の確保・非評価的な関わり 「今日は業務の話だけでなく、最近の気持ちも聞かせてくださいね」
② 感情の確認 業務進捗だけでなく、感情の動きにも注目する 感情への気づきと受容(エモーション・アウェアネス) 「最近、気持ちが沈んだり、疲れを感じることはありましたか?」
③ 強みに焦点 成果や得意なことを振り返り、強みを再確認する ストレングス・アプローチ(強みの活用) 「最近、うまくいったことは? それはどんな力が活きたと思いますか?」
④ 意味づけ支援 経験や困難に意味を見出す問いかけを行う ナラティブ再構成・意味づけの促進 「その経験から、どんな学びや気づきがありましたか?」
⑤ 次の一歩支援 小さな行動目標を一緒に考える 自己効力感の強化・未来志向 「次回までに試してみたいことはありますか?」
⑥ フォローアップ 前回の話題を振り返り、継続的な関心を示す 関係性の継続・信頼の深化 「前回話していた〇〇、その後どうなりましたか?」

💡ポイントは、「問題解決」よりも**“強み・感情・意味”に焦点を当てること。もしなくても、可能性を見つける程度でもよいです。
ポジティブ心理カウンセリングの視点を取り入れることで、1on1が単なる業務面談から
“人を育てる対話”へと進化します。

ポジティブ感情に寄り添う1on1とは?

ポジティブ感情に寄り添う1on1を作成しました。感情の共有や強みの承認、前向きな振り返りを通じて、部下のウェルビーイングを高める構成になっています👇

🌼 ポジティブ感情に寄り添う1on1

セクション 内容例・問いかけ
① チェックイン ・今の気分を一言で表すと?
・最近、ちょっと嬉しかったことは?
② ポジティブな振り返り ・今週、うまくいったことは?
・その中で自分のどんな強みが活きたと思う?
③ 感謝と承認 ・お話できて、うれいしいです。とても感謝いたします。
・あなたの〇〇な姿勢、素敵だと感じたよ(上司から)
④ 意味づけの対話 ・その経験から、どんな学びや気づきがありましたか?
・それはあなたにとってどんな意味がありましたか?
⑤ 次の一歩 ・今後、もっと活かしたい強みは?
・次にチャレンジしてみたいことはある?
⑥ クロージング ・今日の対話で印象に残ったことは?
・気持ちが少しでも軽くなったら嬉しいです(上司から)

💡ポイント:安易に、「前向きになりなさい」、「楽観的にいこう」、「もっとポジティブになろう」など、ポジティブな考え方を無理に押しつけることは、ポジティブ・ハラスメントと呼ばれることがあります。そのため、無理に前向きな対応を強いるのではなく、あくまで自然なかたちでポジティブな側面に気づけるよう促すことが大切。

特に日本人は、「人生の意味」や「目的」を見出すことが苦手な人も少なくありません。
目的や明確な意義がなかったとしても、「楽しいこと」「うれしいこと」「ほっとすること」などにつながる可能性を探ってみることは、とても有意義です。

そうした可能性に、クライアント自身が自然に気づいていけるよう、そっとサポートするのが望ましいアプローチだといえるでしょう。

 

References

Shibata, Y., Eguchi, H., Kawanami, S., Taguchi, Y., & Kitamura, H. (2024). P-175 A CROSS-SECTIONAL STUDY OF THE EFFECTS OF REGULAR ONE-ON-ONE MEETINGS BETWEEN SUPERVISORS AND SUBORDINATES IN THE WORKPLACE. Occupational Medicinehttps://doi.org/10.1093/occmed/kqae023.0705

L’Abate, L. (2013). Epilogue and Conclusions: Toward a Hierarchical Personnel Structure in Clinical Psychology and Psychotherapy. **, 149-163. https://doi.org/10.1007/978-1-4614-4451-0_7

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