発達障害支援×ポジティブ心理学・ポジティブ心理療法入門 認定資格取得の参考に
発達障害とは
発達障害は脳機能の発達に関わる障害であり、生まれつきの特性です。主な種類には次のようなものがあります:
ADHD(注意欠如・多動症)
- 注意の持続が難しい
- 落ち着きがない、衝動性がある
- 計画的に行動することが難しい
ASD(自閉スペクトラム症)
- 社会的コミュニケーションの困難さ
- こだわりが強い、変化に弱い
- 感覚過敏・鈍麻がある
LD(学習障害)
- 読む、書く、計算する能力の困難さ
- 知的能力に問題はない
- 特定の学習領域に限定される
重要なポイント: 発達障害は「障害」というより「特性」と捉えることで、その個性や強みを生かすことができます。
ポジティブ心理学とは
従来の心理学との違い
従来の心理学
精神疾患や問題行動の解消に焦点
- 不調や問題の「修復」
- 「ネガティブ」から「普通」へ
- 欠点や弱点への対処
ポジティブ心理学の視点
ポジティブ心理学
最適な機能や幸福感の向上に焦点
- 強みや資質の「育成」
- 「普通」から「最適」へ
- 長所や強みへの注目
「ポジティブ心理学は、人や集団、組織が最適に機能し、繁栄に至る条件や過程を明らかにする学問」– マーティン・セリグマン(ポジティブ心理学の提唱者)
PERMAモデル詳細 PERMAモデル:幸福の5つの要素
Positive Emotion(ポジティブ感情)
喜び、感謝、愛、希望、楽しさなどの肯定的感情を体験すること
実践例
- 日々の感謝を意識して記録する
- 小さな喜びに気づく習慣をつける
- 肯定的なフィードバックを認識する
Engagement(没頭・エンゲージメント)
活動に完全に没頭し、時間を忘れる「フロー状態」を体験すること
実践例
- 好きなことや得意なことに集中する時間をつくる
- 新しい趣味や技術にチャレンジする
- 自分が没頭できる活動を見つける
PERMAモデル詳細②
Relationships(良好な人間関係)
支え合い、認め合える人間関係を構築・維持すること
実践例
- 信頼できる関係づくりを意識する
- コミュニケーションを大切にする
- 自分を理解してくれる人とつながる
Meaning(人生の意味・意義)
自分の人生に意味や目的を見出し、より大きな何かに貢献すること
実践例
- 自分の価値観を明確にする
- 自分にとって重要なことに時間を使う
- 他者の役に立つ活動に参加する
Accomplishment(達成感)
目標を設定して達成する、成長を実感すること
実践例
- 小さな目標から始めて達成を積み重ねる
- 自分の成長を振り返る習慣をつける
- 自分の達成を認め、祝う
発達障害と自己肯定感
自己肯定感が低くなりやすい理由
環境要因
- 失敗体験の蓄積
- 否定的なフィードバックの記憶
- 周囲の理解不足による摩擦
- 「普通」の基準に合わせるプレッシャー
認知的要因
- 強みよりも弱みに注目しやすい
- 強みの基準が高すぎる
- 自分の特性を「欠陥」と捉えてしまう
- 否定的な事象に焦点が向きやすい
重要なポイント: 発達障害者は「強み育成体験」や「強みを認識するサポート」が不足していることが多く、これが自己決定力の低下にもつながっています。
ポジティブ心理療法の基本
ポジティブ心理療法(PPT)は、ポジティブ心理学の知見を臨床に応用した心理療法です。
3つの基本原則
- バランスの原則:弱みだけでなく強みにも注目
- 成長の原則:問題からの回復だけでなく成長も促進
- 特異性の原則:個人の特性に合わせたアプローチ
主なアプローチ
- 強みの発見と活用
- 感謝の記録
- ポジティブな体験の蓄積
- 対人関係の質の向上
- 意味のある目標設定
ポジティブ心理療法は、発達障害を持つ個人に対する治療において、ポジティブな感情や意味を強調することで、従来の治療法を補完する可能性を示しています。
発達障害の特性を「強み」としてとらえる
ADHD
困難さ
- 注意散漫
- 落ち着きがない
- 衝動性
強みに変換
- 創造性・発想力
- 多方面への興味
- 行動力・決断の速さ
- 危機対応能力
ASD
困難さ
- 社会的コミュニケーション
- 変化への適応
- こだわりの強さ
強みに変換
- 詳細への注意力
- 特定分野での専門性
- 誠実さ・正直さ
- 論理的思考力
LD
困難さ
- 読み書き計算の困難
- 情報処理の偏り
- 学習方法の限定
強みに変換
- 視覚的思考力
- 創造的問題解決
- 適応力・代替方法の開発
- 直感力
「障害」ではなく「特性」として捉えることで、その個性や才能を生かす道が開けます。
「強み」に焦点を当てるアプローチ
強みベースの神経多様性モデル(SBMN)
特性の凸凹の中から強みや才能を見つけ出し、それを仕事や日常生活に活かすアプローチです。
ステップ1:特性を理解する
- 自己の特性を客観的に観察
- 強みと弱みを整理する
- 特性の「凸」部分に注目
ステップ2:サポートを得る
- 定期的なフィードバック
- 他者からの視点を取り入れる
- 強みを活かす機会をつくる
ステップ3:環境を調整する
- 強みを発揮しやすい環境づくり
- 弱みをサポートする仕組み
- 継続的な振り返りと調整
成功事例: ドイツSAPでは、このアプローチを応用し、神経発達症の社員1000人超が多様な職種で活躍しています。各自の特性を理解した上で、その特性に合う仕事を探し、適切な環境調整を行うことで実現しました。
実践法①:自分の強みを見つける
強み探しワーク
- 過去に楽しく取り組めたことを思い出す
- 他者から褒められた経験を書き出す
- エネルギーが湧いてくる活動を特定する
- 「得意」と「好き」を区別して考える
- 努力せずにできることに注目する
強みの多角的評価
次のカテゴリーで考えてみましょう:
- 思考面の強み(論理的思考、創造力など)
- 感情面の強み(共感力、感受性など)
- 行動面の強み(行動力、持続力など)
- 対人面の強み(誠実さ、協調性など)
- 専門面の強み(特定分野の知識・技能)
ポイント: 自分で気づきにくい強みは、信頼できる人に聞いてみましょう。普段当たり前と思っていることが、実は大きな強みかもしれません。
実践法②:日常生活で強みを活かす
具体的なエクササイズ
1強みを活かす行動計画
自分の強みを活かす具体的な行動を計画し、実践します。
例:「細部への注意力」を強みとする場合
- 仕事:書類のチェック担当を買って出る
- 家庭:家族の誕生日プレゼントを細やかに選ぶ
- 趣味:細密画や模型製作に挑戦する
2強みを新しい方法で使う
毎日違う方法で自分の強みを使ってみましょう。
例:「創造力」を強みとする場合
- 月曜:仕事の問題に創造的な解決策を提案する
- 火曜:料理で新しいアレンジを試す
- 水曜:子どもと創造的な遊びを考える
- 木曜:部屋の模様替えを創造的に行う
- 金曜:趣味の活動で新しいアイデアを試す
ポイント: 無理せず、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。成功したら自分を認め、褒めることを忘れずに。
実践法③:ポジティブな体験の記録
感謝日記
毎日寝る前に、その日感謝したことを3つ書き出します。
記録のポイント:
- 具体的に書く(何に、誰に、どんなことで感謝したか)
- なぜそれに感謝するのか理由も書く
- 小さなことでも良い(美味しいお茶が飲めたなど)
強み活用日記
自分の強みを使った体験と、その結果を記録します。
記録の例:
- 使った強み: 集中力と詳細への注意
- 状況: プロジェクトの資料作成
- どう活かした: 細かな数値を正確にチェック
- 結果: ミスを発見でき、上司に感謝された
- 感想: 自分の強みが役立ち嬉しかった
成功の振り返りシート
週に1回、小さな成功体験を振り返り記録します。
- 今週うまくいったことは何か?
- そこでは自分のどんな強みを活かせたか?
- それによってどんな感情を感じたか?
- 次も同じ強みをどう活かせそうか?
実践のポイントとコツ
発達障害の方向けのコツ
- 視覚的なツールを活用する(メモ、図表など)
- 具体的で明確な目標を設定する
- 日課にして習慣化する
- 環境を整える(静かな場所、決まった時間)
- リマインダーを活用する
自己肯定感を高めるポイント
- 比較は自分の過去の自分とのみ行う
- 小さな進歩も認め、祝う
- 完璧を求めず、プロセスを大切にする
- 失敗は学びの機会と捉える
- 自己批判ではなく自己思いやりを持つ
支援者・家族の方へ
- 強みを見つける手助けをする(気づきにくい強みに目を向ける)
- ポジティブなフィードバックを具体的に伝える
- 強みを発揮できる環境を整える
- 安全な挑戦の場を提供する
まとめ:継続のための工夫
ポイントの振り返り
- 発達障害は「障害」ではなく「特性」として捉える
- PERMAモデルの5要素をバランスよく育む
- 自分の強みを見つけ、活かす習慣をつける
- ポジティブな体験を意識的に記録する
- 小さな成功体験を積み重ねる
継続のためのヒント
- 仲間と一緒に取り組む
- 習慣化するための仕組みをつくる
- 自分なりのご褒美システムを設ける
- 進捗を可視化する
- 失敗しても再起動できる計画にする
参考資料・リソース
- 『ポジティブ心理学入門』マーティン・セリグマン著
- 『発達障害の強みを活かす』トーマス・アームストロング著
- 一般社団法人 ポジティブ心理カウンセラー協会
- 一般社団法人コーチング心理学協会
「強み」に焦点を当て、ポジティブな体験を積み重ねることで、
発達障害の特性を個性として受け入れ、人生をより豊かにすることができます。