レジリエンス(精神的回復力)のわかりやすい意味解説

 

 

レジリエンス(精神的回復力)の意味と概要をわかりやすく解説

科学的根拠に基づくわかりやすい解説

この記事のポイント

  • レジリエンスとは「困難や逆境から回復し、適応する能力」を意味します
  • 物理学での「元の形に戻る力」から派生した概念で、心理学で発展しました
  • レジリエンスは先天的な要素と後天的に獲得できる要素の両方から構成されます
  • 教育、医療、災害対応など様々な分野で応用されています

レジリエンスの概念図

図1: レジリエンスの概念図 – 中心的概念と構成要素

1. レジリエンスの定義と意味

レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「復元力」「耐久力」「再起力」「弾力」などと訳される言葉で、心理学においては「困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」を意味します。

Fletcher & Sarkar(2013)によれば、レジリエンスは「逆境や困難な状況において適応する力」と定義されています。アメリカ心理学会(APA)では、「逆境、心的外傷、悲劇、脅威、人間関係問題、深刻な健康問題などから起こるストレスにうまく適応する力、ストレス状態からしなやかに回復していく力」としています。

「脆弱性(vulnerability)」の反対の概念であり、自発的治癒力の意味である。「精神的回復力」「抵抗力」「復元力」「耐久力」「再起力」などとも訳されるが、訳語は確立されていない。

—Wikipedia「レジリエンス(心理学)」より

レジリエンスの語源と歴史

レジリエンスは元々、物理学の分野で「外から加えられた力によって変形した物質や物体が、どのくらい元に戻ろうとするか(跳ね返す力)」を表す言葉でした。1970年代から心理学の分野で注目され始め、「強いストレスを体験した際、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる人とならない人の違いはどこにあるのか」という研究の中で、精神的回復力を表す言葉として用いられるようになりました。

2. レジリエンスの主な構成要素

レジリエンスを構成する要素については、研究者によって様々な見方がありますが、主な構成要素として以下が挙げられています。

心理学者 小塩真司氏らによる「精神的回復力」の3要素

  1. 新奇性追求:新たな物事・人などに興味を持つことや、常識や習慣にとらわれず前向きにチャレンジする姿勢や行動
  2. 感情調整:自らの感情、特にマイナス感情をコントロールする能力
  3. 肯定的な未来志向:前向きな未来を予想して目標やビジョンを持ち、実現するための具体的なプランを描く姿勢

平野真理氏らによるレジリエンスの2分類

平野真理氏(研究発表当時 東京大学大学院教育学研究科)らは、レジリエンスを促す要因を以下の2つに分類しています。

資質的レジリエンス要因 獲得的レジリエンス要因
  • 楽観性
  • 統御力
  • 社交性
  • 行動力
  • 問題解決志向
  • 自己理解
  • 他者心理の理解
持って生まれた気質と関連が強い要因 発達の中で身につけやすい要因

レジリエンス・コンピテンシー(6要素)

レジリエンス研究の第一人者である米国ペンシルバニア大学のカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスが発揮される際に密接にかかわる6つの要素(コンピテンシー)を提唱しています。

  1. 自己認識:自分の思考、感情、長所・短所、価値観、行動などを客観的に認識する能力
  2. 自制心:目的とする結果が得られるように、自分の思考や感情、行動などを変化させる能力(セルフコントロール)
  3. 精神的柔軟性:物事を多角的に捉え、本質的な見地から対処する能力
  4. 現実的楽観性:「自分は未来をより良くできる」と確信を持ち、そのための行動が起こせる能力
  5. 自己効力感:「自分はできる」と自信を持つこと
  6. 人とのつながり:他者との信頼関係を築く能力

森敏昭氏らによる4因子

森敏昭氏らの研究グループ(2002)は、レジリエンスを以下の4つの因子に分類しています。

  • I am因子:自分自身を受け入れる力
  • I can因子:問題解決力
  • I have因子:他者との信頼関係構築力
  • I will/do因子:成長力

 

2: レジリエンス – 構成要素と応用分野の分析

3. レジリエンスの測定方法

レジリエンスを測定するための尺度としては、以下のようなものが開発されています。

尺度名 開発者 特徴
レジリエンススケール
(Resilience Scale:RS)
Wagnild&Young 「個人的コンピテンス」と「自己と人生の受容」という2因子25項目からなる尺度。内的整合性や妥当性が高く、様々な年代で利用可能。
精神的回復力尺度
(Adolescent Resilience Scale; ARS)
小塩真司氏ほか 全21項目から構成され、「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の3因子を測定。
二次元レジリエンス要因尺度
(Bidimensional Resilience Scale; BRS)
平野真理氏ほか 「資質的レジリエンス要因」と「獲得的レジリエンス要因」を分けて測定できる尺度。
森敏昭氏らのレジリエンス尺度 森敏昭氏ほか 「I am因子」「I can因子」「I have因子」「I will/do因子」の4下位因子から構成される29項目5件法の尺度。

これらの尺度は研究目的だけでなく、教育現場や企業の人材育成などの実践的な場面でも活用されています。

4. レジリエンスの応用分野

レジリエンスの概念は様々な分野で応用されています。主な応用分野には以下のようなものがあります。

心理学・精神医学分野

ストレスやトラウマからの回復、メンタルヘルスケア、うつ病や不安障害などの予防・治療において重要視されています。臨床心理士やカウンセラーによる介入プログラムにも取り入れられています。

教育分野

学校教育において、子どもたちの精神的強さや適応力を育むためのプログラムが開発されています。いじめや不登校の予防、進学や就職などのライフイベントにおけるストレス対処能力の向上などに応用されています。

組織・ビジネス分野

企業や組織において、社員のメンタルヘルスケアや、変化の激しい時代に適応するための組織力強化に活用されています。「健康経営」の観点からも、従業員のレジリエンスを高めることが重要視されています。

災害対応・危機管理

災害レジリエンスとして、地域社会や都市が災害から迅速に回復するための計画や対策に応用されています。また、BCPや危機管理の観点からも企業レジリエンスが重要視されています。

医療・健康分野

患者の病気からの回復や慢性疾患との共存、健康増進プログラムなどにレジリエンスの概念が取り入れられています。特にがんサバイバーや慢性疾患患者のケアにおいて注目されています。

5. レジリエンスを高める方法

研究によれば、レジリエンスは先天的な要素だけでなく、後天的に獲得・強化できる能力でもあります。以下に、レジリエンスを高めるための科学的に裏付けられた方法をいくつか紹介します。

 

個人レベルでのレジリエンス強化法

  1. ポジティブな思考を養う:困難な状況でも肯定的な側面を見つけ、前向きな解釈ができるように訓練することが重要です。
  2. ソーシャルサポート(社会的支援)の活用:家族や友人、同僚などとの良好な関係を築き、困難な時に支援を求められる環境を作ることが重要です。
  3. 問題解決能力を磨く:問題に直接取り組み、解決策を見つける対処法を身につけることが効果的です。問題解決型コーピングの習得が鍵となります。
  4. 自己効力感を高める:小さな成功体験を積み重ね、「自分にはできる」という自信を育てることがレジリエンス向上につながります。
  5. 柔軟な対応力を身につける:変化に柔軟に対応できる姿勢を養い、マインドフルネスの実践などで心の柔軟性を高めることが効果的です。

組織レベルでのレジリエンス強化法

  1. チャレンジを評価する企業文化の醸成:失敗を恐れずチャレンジする姿勢を評価し、失敗から学ぶ文化を作ることが重要です。
  2. ビジョンやミッションの浸透:組織の目標や価値観を共有し、困難な状況でも方向性を見失わないようにします。
  3. BCPへの取り組み:災害や危機に備えた事業継続計画を策定し、定期的に訓練することでレジリエンスを高めます。
  4. 健康経営の推進:従業員の心身の健康を重視した経営を行うことで、組織全体のレジリエンスが向上します。

レジリエンスと「根性論」の違い

レジリエンスは「苦しさに耐える」「我慢する」という昔ながらの「気合や根性」とは全く異なります。レジリエンスは科学的な根拠に基づいた概念であり、無理に我慢するのではなく、困難な状況を乗り越えるための適応力や回復力を意味します。この点を誤解すると、かえって心身の健康を損なう可能性があるため注意が必要です。

まとめ

レジリエンスは、困難やストレスに直面した際に、それを乗り越え回復する力を意味します。先天的な要素と後天的に獲得できる要素の両方から構成され、様々な分野で応用されています。

特に現代社会のように変化が激しく予測困難な時代においては、個人も組織もレジリエンスを高めることが重要です。科学的な知見に基づいたアプローチによって、レジリエンスを強化し、困難を乗り越える力を養うことができます。

本記事で紹介した概念や方法を参考に、日々の生活や職場環境の中でレジリエンスを意識し、実践していくことが、豊かな人生や持続可能な組織づくりにつながるでしょう。

 

引用・参考文献

Fletcher, D. & Sarkar, M. (2013). Psychological resilience: A review and critique of definitions, concepts, and theory. European Psychologist, 18, 12-23.
平野真理 (2017). レジリエンス: 多様な回復を尊重する視点. 広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要, 15, 27-29.
石原由紀子・中丸澄子 (2007). レジリエンスについて: その概念, 研究の歴史と展望. 広島文教女子大学紀要, 42, 53-81.
小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 (2002). ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性―精神的回復力尺度の作成. カウンセリング研究, 35, 57-65.
森敏昭・清水益治・石田潤・冨永美穂子・Hiew, C. (2002). 大学生の自己教育力とレジリエンスの関係. 学校教育実践学研究, 8, 179-187.
Wagnild, G., & Young, H. (1993). Development and psychometric evaluation of the Resilience Scale. Journal of Nursing Measurement, 1(2), 165-178.
齊藤和貴・岡安孝弘 (2009). 最近のレジリエンス研究の動向と課題. 明治大学心理社会学研究, 4, 72-84.
尾久裕紀 (2016). 組織におけるリスクマネジメントとレジリエンス. 危険と管理, 47, 164-171.

 

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