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ポジティブ心理学の歴史と物語一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会
HISTORY & NARRATIVE — ARTICLE

マズローとポジティブ心理学

「ポジティブ心理学」を最初に語った心理学者
ONE-SENTENCE ANSWER

「ポジティブ心理学」という言葉を最初に用いた心理学者は、欲求階層説で知られるアブラハム・マズロー(1908-1970)です。1954年の著書『動機づけと人格』の最終章に「ポジティブ心理学へ向けて」という表題を掲げ、心理学が人間の病理だけでなく健康・成長・可能性を研究すべきだと主張しました。セリグマンの提唱(1998年)より44年前のことであり、マズローの自己実現・至高体験・晩年の自己超越の研究は、現代のポジティブ心理学とウェルビーイング研究の重要な源流です。

「マズロー=欲求5段階のピラミッドの人」——多くの人の理解はここで止まっています。しかし彼こそ、ポジティブ心理学の名付け親であり、最も重要な先駆者でした。この記事では、教科書の先のマズローを紹介します。

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マズローという人——「人間の最良の姿」を研究した心理学者

アブラハム・ハロルド・マズローは1908年、ニューヨーク・ブルックリンでロシア系ユダヤ人移民の家庭に生まれました。当時の心理学は、精神分析(病理の研究)と行動主義(動物実験に基づく学習の研究)が支配していました。マズローの問いはシンプルでした——「病んだ人ではなく、最も健康で創造的な人を研究したら、人間について何がわかるだろうか?」

彼は尊敬する人類学者や心理学者など「もっともよく生きている人たち」を実際に研究対象とし、そこから自己実現する人間の特徴——現実の的確な認知、自発性、課題への集中、深い対人関係、創造性、ユーモアなど——を描き出しました。研究の出発点を「病理」から「健康」に移す。この一点において、マズローはポジティブ心理学のすべてに先行しています。

マズローの方法論的な革命は「誰を研究するか」の転換だった。最良の人間を研究すれば、人間の可能性の地図が描ける。

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欲求階層説の、本当の意味

1943年の論文「人間の動機づけの理論」で示された欲求階層説は、生理的欲求・安全の欲求・所属と愛の欲求・承認の欲求、そして自己実現の欲求という階層で人間の動機を説明します。重要なのは、この理論の主眼が「欠乏の充足」ではなく、欠乏が満たされた先にある成長への欲求(成長動機)を心理学に持ち込んだ点にあることです。

なお、よく知られる「ピラミッドの図」をマズロー自身は描いていません。ピラミッド図は後年、経営学の教科書などを通じて広まったもので、近年の研究史ではこの図が「下の段が終わらないと上に進めない」という誤解を生んだと指摘されています。マズロー自身は、複数の欲求が同時に働き、行き来することを認めていました。

※ピラミッド図の由来については、経営学史研究(Bridgman, Cummings & Ballard, 2019, Academy of Management Learning & Education)で詳細に検証されています。

欲求階層説の核心はピラミッドではなく「人間は欠乏を満たすだけでなく、成長へ向かう存在だ」という人間観である。

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1954年——「ポジティブ心理学へ向けて」

1954年の主著『動機づけと人格』の最終章に、マズローは「ポジティブ心理学へ向けて(Toward a Positive Psychology)」という表題を掲げました。そこで彼は、心理学の科学は人間の弱さや病理の解明には成功したが、人間の可能性・美徳・到達しうる高みについてはほとんど何も明らかにしていない、と指摘します。心理学は、人間の暗い半分だけを研究してきた——残りの明るい半分を研究する「ポジティブな心理学」が必要だ、と。

これは、1998年にセリグマンがAPA会長講演で行った主張と、驚くほど同じです。言葉も、問題意識も、44年前にすでに存在していました。

1962年の『完全なる人間(存在の心理学に向けて)』では、自己実現の瞬間に訪れる至高体験(peak experience)——時間を忘れ、自我を超え、世界と一体化するような体験——を分析しました。これはチクセントミハイのフロー研究とも響き合う概念です。

「ポジティブ心理学」は1954年のマズローの章題として誕生し、1998年のセリグマンによって科学的研究領域として再誕した。

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晩年のマズロー——自己実現の「その先」へ

マズローは晩年、自己実現の上にさらなる次元があると考えるようになります。それが自己超越(self-transcendence)——自分自身の完成を超えて、他者・大義・世界とのつながりのために生きる段階です。1968年にはAPA(アメリカ心理学会)会長も務め、1970年、62歳で亡くなりました。

この「自己超越」は、現代のポジティブ心理学における「意味(自分より大きな何かへの貢献)」やMattering、さらに個人を超えたウェルビーイングを扱うポジティブ心理学2.0・3.0の議論を、半世紀早く指し示していたと言えます。

マズローの到達点は「自己実現の心理学」ではなく「自己超越の心理学」。それはPP2.0・3.0が向かっている方向そのものである。

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マズローとセリグマン——引き継がれたもの、変わったもの

マズロー(1950〜60年代)セリグマン以降(1998年〜)
問い最も健康な人間から、人間の可能性を学ぶ人がよりよく機能する条件を科学する
方法優れた人物の事例研究・臨床観察測定・実験・大規模データ・追試
中心概念自己実現・至高体験・自己超越ウェルビーイング(PERMA)・24の強み・フロー
弱点実証の方法論が未成熟初期はポジティブ偏重(→2.0で自己修正)
実践教育・経営(Z理論)への示唆ポジティブ教育・職場・カウンセリング・コーチングへ体系的に展開

セリグマンらの2000年の創設論文も、人間性心理学の先駆性に言及しています。マズローが残した「人間の明るい半分を研究せよ」という宿題を、実証科学の道具立てで解き始めたのがポジティブ心理学だった——歴史はそう整理できます。当協会の特集「ポジティブ心理学の歴史と物語」では、この連続性を年表でたどれます。

マズローが「問い」を、セリグマンが「方法」を提供した。ポジティブ心理学はこの二人の44年越しのリレーである。

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マズローの遺産を、いまの支援に活かす

マズローの人間観は、現代のカウンセリング・コーチングにそのまま生きています。相手を「問題を抱えた人」ではなく「成長へ向かう力を持つ人」として見ること。欠点の修正ではなく、強みと可能性から関わること。そして支援のゴールを「問題の解消」ではなく「その人らしい自己実現」に置くこと。

当協会のポジティブ心理カウンセリングは、マズローら人間性心理学の人間観を土台に、ポジティブ心理学の実証研究とカウンセリング・コーチング心理学の技法を統合したものです。詳しくはポジティブ心理カウンセラー®講座ガイドをご覧ください。

FAQ

「マズローとポジティブ心理学」よくある質問

マズローとポジティブ心理学の関係は?

マズローは「ポジティブ心理学」という言葉を最初に用いた心理学者であり、最も重要な先駆者です。1954年の著書『動機づけと人格』の最終章に「ポジティブ心理学へ向けて」という表題を掲げました。

「ポジティブ心理学」という言葉はいつ生まれましたか?

言葉としては1954年、マズローの著書の章題として登場しました。科学的な研究領域としてのポジティブ心理学は、1998年にセリグマンが提唱して確立しました。

マズローはどんな心理学者ですか?

1908年ニューヨーク生まれのアメリカの心理学者(1970年没)で、人間性心理学の中心人物です。欲求階層説と自己実現の研究で知られ、1968年にはAPA会長も務めました。

欲求階層説(欲求5段階説)とは何ですか?

生理的欲求・安全・所属と愛・承認・自己実現という階層で人間の動機を説明する理論です。核心は「人間は欠乏を満たすだけでなく成長へ向かう存在だ」という人間観にあります。

マズローのピラミッドの図は本人が描いたのですか?

いいえ。有名なピラミッド図をマズロー自身は描いておらず、後年に経営学の教科書などを通じて広まったものです。マズロー自身は複数の欲求が同時に働くことを認めていました。

自己実現とは何ですか?

自分の可能性・才能を最大限に発揮し、その人が「なりうる最良の自分」になろうとする成長への欲求、およびその実現の状態を指すマズローの中心概念です。

至高体験(ピークエクスペリエンス)とは何ですか?

時間を忘れ、自我を超え、世界と一体になるような、人生で最も充実した瞬間の体験です。マズローが自己実現する人に多く見られるとした概念で、フロー体験とも響き合います。

自己超越とは何ですか?

晩年のマズローが自己実現のさらに上に置いた段階で、自分の完成を超えて他者・大義・世界とのつながりのために生きることを指します。現代の「意味」やMatteringの研究を先取りした概念です。

マズローとセリグマンの違いは何ですか?

問いはほぼ同じですが、方法が違います。マズローは優れた人物の事例研究が中心で、セリグマン以降は測定・実験・追試という実証科学の方法で人間の可能性を研究しました。

マズローの考えはカウンセリングにどう活かせますか?

相手を「成長へ向かう力を持つ人」として見る人間観の土台になります。強みと可能性から関わり、支援のゴールを自己実現に置く——ポジティブ心理カウンセリングの基本姿勢はマズローの遺産です。

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ジェームズ、フランクル、ヤホダ、人間性心理学。1998年より前の系譜をたどる。

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無力感の研究者は、なぜ幸福の科学を創ったのか。60年の歩みを一本の線で。

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時間を忘れるほどの没頭を科学する。チクセントミハイの最適経験の心理学。

すべての記事の起点:特集「ポジティブ心理学の歴史と物語」

「なりうる最良の自分」へ。
その支援を学ぶ。

マズローが遺した問いは、いまカウンセリングとコーチングの現場で生きています。