心理的安全性とカウンセリング・心理療法について 認定資格取得の参考に

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心理的安全性に関わるカウンセリング・心理療法
対人支援者のための心理的安全性入門ガイド

入門編、補完・フォローアップとして、実践的手法の包括的解説していきます。

コンテンツ一覧

概要

心理的安全性とは

もともとは、心理的安全性(Psychological Safety)は、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授により、ビジネスにおける「チームメンバーが恐れや不安を感じることなく、率直に発言・質問・間違いを認めることができる状態」と定義されています。その後、様々な領域で活用されるようになりました。

心理的安全性の定義

「対人関係におけるリスクを取っても、そのチームや環境内では安全であるという共有された信念」

– Amy Edmondson (1999)

米国心理学会(APA)の視点

「心理的安全性は、治療関係における最も重要な共通因子の一つ」

治療同盟やアライアンスの形成において基盤となり、 効果的なセラピープロセスに不可欠な要素として位置づけられる

 

心理的安全性の4つの要素

以下の表に、心理的安全性に関する4つの要素の概要と、それぞれに対応する心理療法で活用できる質問例をまとめました。

要素 概要 カウンセリング・心理療法で活用できる質問例
質問する自由 知らないことを認め、安心して質問できる環境。無知を責められる不安がない状態。 ・わからないことがあったとき、どんなときに質問しやすいと感じますか?
・安心して質問できるようにするには、どんな工夫ができそうですか?
問題提起の許容 懸念や問題点を率直に指摘できる文化。ネガティブな意見も歓迎される。 ・今、気になっていることや違和感はありますか?
・チームにとって大切な視点として、どんな懸念を共有したいですか?
失敗を認める勇気 ミスや失敗を隠さずに共有し、学びに変える文化。責められる不安がない。 ・最近の経験から、学びにつながった失敗はありますか?
・失敗を共有することで、どんな価値が生まれると思いますか?
異なる意見の尊重 多様な視点を歓迎し、違いを価値として受け入れる姿勢。 ・他の人の意見で、印象に残ったものはありますか?
・自分と異なる考えをどう活かせそうですか?

これらの問いかけは、心理的安全性を育むだけでなく、チームの創造性や信頼関係を深めるきっかけにもなります。

心理的安全性の5つの主要機能 心理療法・カウンセリングの視点

1. 生存・防衛の確保(Securing survival)

危険から身を守るための基本的機能。心理療法では、安全な環境や治療的枠組み(セッティング)を確立し、クライエントの不安を軽減。防衛機制の過剰な活性化を防ぎ、自己開示を促進します。危険な状況での生存確保メカニズムが、心理的空間においても機能します。

2. 回復の促進(Facilitating restoration)

安全な関係性を通じた感情的修復やレジリエンス強化。セラピストとの安全な関係性は心の傷を癒し、感情調整を助け、回復へと導きます。セラピストの共感的態度や受容的な姿勢が、クライエントの回復プロセスを支えます。

3. 探索の促進(Promoting exploration)

安全が担保されることで可能となる内的・外的世界への探索。安全性が確保されると、クライエントは新しい行動パターンや思考様式、感情表現を試みることができます。アタッチメント理論における「安全基地」の概念と関連し、探索行動の基盤となります。

4. リスクテイクの持続(Sustaining risk-taking)

適切なリスクを取る能力と変化への柔軟性の支援。成長には適度な「安全な緊張」や「必要な危険」が必要です。心理的安全性は適切な挑戦を可能にし、失敗から学ぶ機会を与えます。CBTでは「安全行動」から「安全感行動」への移行が強調されます。

5. 統合・自己の一貫性促進(Enabling integration)

ミラーリングやメンタライゼーション、夢想などを通じた自己の一貫性と境界の強化。心理的安全性は、断片化した経験や矛盾する側面を統合するのを助けます。メンタライゼーション(心を読む能力)やミンドサイト(内省能力)の発達を促し、自己調整能力の向上を支援します。自己のアイデンティティ形成や自己理解の深化に寄与します。

出典:Podolan, M. & Gelo, OCG. (2023). The functions of safety in psychotherapy: An integrative theoretical perspective across therapeutic schools. Clinical Neuropsychiatry, 20: 193-209.

心理的安全性をカウンセリング活用する際の具体例

以下の表に、カウンセリングの現場における心理的安全性に関する各テーマの概要と具体例をまとめました。
テーマ 概要 カウンセリング現場での具体例
生存・防衛の確保(Securing survival) 心理的安全性を確保することで、クライアントが安心して自身の課題や悩みを話せる環境を提供する トラウマを抱えるクライアントに対し、安心して話せる空間を作ることで、過去の経験を開示しやすくなり、治療の第一歩を踏み出すことができた。
回復の促進(Facilitating restoration) 心理的な傷やストレスの回復を支援し、クライアントが自己の強さを取り戻す手助けをする 慢性的な不安を抱えるクライアントがセッションを通じて自己肯定感を高め、ストレスへの対処法を学ぶことで、日常生活への適応力を向上させた。
探索の促進(Promoting exploration) 自己理解を深め、新たな可能性や選択肢を見つけることを支援する キャリアに悩むクライアントが、自身の価値観や強みに気づくことで、これまで考えていなかった職業選択の幅を広げることができた。
リスクテイクの持続(Sustaining risk-taking) 変化に対する恐れを軽減し、挑戦することを支援する 人間関係に不安を持つクライアントが、カウンセリングで対人スキルを強化し、勇気を持って新しい関係を築く一歩を踏み出せた。
統合・自己の一貫性促進(Enabling integration) 自己の価値観や経験を統合し、一貫性のあるアイデンティティを形成する クライアントが過去の成功体験や困難を統合的に捉え直すことで、自己受容が深まり、人生の方向性に対して確信を持てるようになった。

💡心理的安全性を高めることで、カウンセリングの場ではクライアントが安心して自己を見つめ直し、回復や成長へとつながるプロセスを促すことができます。

心理的安全性をカウンセリング活用する際の質問例

心理的安全性の5つの主要機能 心理療法・カウンセリングの視点について、以下に、各項目の概要とカウンセリングで活用できる質問を表にまとめました。

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
生存・防衛の確保 (Securing survival) 危険から身を守るための基本的機能。心理的安全を確保し、不安を軽減することで、自己開示を促進する。 「あなたが安心できる環境を整えるために、どのようなことが必要ですか?」
回復の促進 (Facilitating restoration) 安全な関係性を通じた感情的修復やレジリエンスの強化。共感的態度と受容的姿勢が回復プロセスを支える。 「あなたが心の回復を実感する瞬間はどのようなときですか?」
探索の促進 (Promoting exploration) 内的・外的世界への探索を可能にする。安全が確保されると、新しい行動パターンや思考様式、感情表現を試みることができる。 「新しい視点や行動を試すために、どのような環境があると良いと思いますか?」
リスクテイクの持続 (Sustaining risk-taking) 適切なリスクを取る能力や変化への柔軟性を支援。心理的安全性が挑戦を可能にし、失敗から学ぶ機会を与える。 「成長するために、どのような挑戦をしてみたいですか?」
統合・自己の一貫性促進 (Enabling integration) さまざまな経験を統合し、自己の一貫性を促進する。自己理解を深めることで、より安定した行動や思考が可能となる。 「自身の価値観や経験を統合するために、どのような工夫ができると思いますか?」

この表を活用することで、クライエントの状況に応じた適切な問いかけを行い、効果的なカウンセリングを進めることができます。

心理的安全性に関わるカウンセリング・心理療法の具体的な実践技法

セラピストの共感的態度とバウンダリー保持

以下に、各項目の概要とカウンセリングで活用できる質問を表にまとめました。

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
共感的理解 クライエントの内的枠組みを理解し、感情や体験を正確に捉え、共感を持って接する姿勢。 「あなたの今の気持ちを、もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
無条件の肯定的配慮 評価や批判をせず、クライエントの存在をそのまま受け入れ、安心できる環境を提供する。 「あなたが安心して話せると感じるのは、どのようなときですか?」
自己一致(純粋性) セラピスト自身が偽りなく、本来の自分として真摯に関わり、誠実なコミュニケーションを行う。 「今この場で、率直に感じていることをお話ししても大丈夫ですか?」
適切なバウンダリー セラピーの場の安全を保証するための明確な枠組みを維持し、安心できる関係を築く。 「この対話の中で、どのような関係性が心地よいと感じますか?」

この表を活用することで、カウンセリングにおける重要な要素を意識しながら、より適切な問いかけを行うことができます。クライエントの安心感や自己理解を深めるために、実践の場で応用できる内容になっています。

エビデンス

治療同盟の質がセラピー効果の10-15%を説明する因子として一貫して確認されている。共感的関わりとバウンダリー保持のバランスが、安全な治療関係の確立に不可欠である。

Beck et al. (2006); Norcross & Lambert (2019); Horvath et al. (2011)

 

サポーティブ介入

以下に、各項目の概要とカウンセリングで活用できる質問を表にまとめした。

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
Holding
(包括)
クライエントの心理的体験や情緒を安全に「抱える」ことで、安心感と信頼を築く(Winnicott)。 「今、あなたが安心できる要素は何ですか?」
Containment(包含) クライエントの強い感情や混乱を「包含」し、処理可能な形に変換することで安定を促す(Bion)。 「あなたの中にある感情を、どのように整理すると落ち着くと感じますか?」
Mirroring

(リラーリング)

クライエントの体験や感情を正確に映し返し、自己認識を促進する(Kohut)。 「あなたの気持ちを、私が正しく理解できているか確認させてください。」
Attunement
(調律)
クライエントの情緒状態や心理的ニーズに調和して応答し、関係性の質を高める。 「あなたが今、一番必要としているものは何だと思いますか?」

この表を活用することで、クライエントの心理的プロセスをより深く理解し、適切なサポートを提供できます。

エビデンス
サポーティブ介入の質は、クライエントの安全感覚と自己開示の程度に有意に関連している。神経生理学的研究では、共感的な調律が自律神経系の安定化に寄与することが示されている。

Porges (2021); Schore (2003); Geller & Porges (2014)

 

認知行動療法における心理教育と安全なイメージ技法

認知行動療法と心理的安全性の各項目の概要とカウンセリングで活用できる質問

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
安全性と不安についての心理教育 クライエントが自身の安全感と不安の関係を理解できるよう説明し、心理的な安心感を促進する。 「あなたが安心できると感じる状況はどのようなものですか?」
安全な場所のイメージワーク 安全感を体験するイメージを構築し、不安時に活用できるよう練習することで心理的安定を支援する。 「安心できる場所を思い浮かべると、どんな感覚がありますか?」
セキュリティプライミング 安全に関連する記憶や表象を意図的に活性化することで、不安の軽減や心理的な安定を促す。 「安心を感じる記憶を振り返ると、どのような気持ちになりますか?」

この表を活用することで、クライエントの心理的安全性を高めながら、より適切なカウンセリングを進めることができる。

認知行動療法と心理的安全性

さらに、認知行動療法における心理教育と安全なイメージ技法の概要と、カウンセリングで活用できる方法は

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
心理教育 クライエントが自身の思考や行動のパターンを理解し、適切な対処法を学ぶことで、心理的な安定を促進する。 「あなたがストレスを感じるとき、どのような思考パターンがあると感じますか?」
安全なイメージ技法 安全な場所や安心できる状況をイメージすることで、不安を軽減し、心理的な安定を得る。 「安心できる場所を思い浮かべると、どんな感覚がありますか?」
リラクセーション法 呼吸法や筋弛緩法などを活用し、身体の緊張をほぐすことで心理的な安定を促す。 「深呼吸をすると、気持ちにどのような変化がありますか?」
認知再構成法 ネガティブな思考を客観的に捉え、より適切な認知へと修正することで、ストレスを軽減する。 「この状況を別の視点から見ると、どのように感じると思いますか?」

この表を活用することで、クライエントの心理的安全性を高めながら、より適切なカウンセリングを進めることができる。

エビデンス
安全イメージ法は不安障害治療において中程度から大きな効果サイズが確認されている。脅威反応を減少させ、探索行動を促進する効果がある。
Gilbert (2004, 2006); Lohr et al. (2007); Hezel & Simpson (2019)

マインドフルネスと身体感覚への注目

マインドフルネスを活用し、心理的安全性を確保することが重要視されています。

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
身体の安全信号への気づき 呼吸、姿勢、筋肉の緊張度などの身体感覚に意識を向けることで、身体の安全信号を認識し、自己調整を促す。 「今、身体のどの部分に緊張を感じていますか?」
現在の瞬間への注意 「今、ここ」の体験に評価なく注目し、安全な現実に接地することで、不安を軽減し、心理的安定を得る。 「今この瞬間に意識を向けると、どんな感覚がありますか?」
身体を通した調整 呼吸法やボディスキャンを活用し、自律神経系のバランスを回復することで、心身の安定を促進する。 「深呼吸をすると、気持ちにどのような変化がありますか?」

この表を活用することで、クライエントの心理的安全性を高めながら、より適切なカウンセリングを進めることができます。

 

エビデンス
マインドフルネス実践は迷走神経活動を高め、ストレス反応を緩和し、安全系神経回路を活性化させることが神経科学研究から示されている。

Porges (2021); Sipe & Eisendrath (2012); Geller & Porges (2014)

心理的安全性尺度 チェックテスト

■チームの心理的安全性尺度
(Edmondsonの心理的安全性尺度に基づき調査・研究: データ分析及び開発 ©️一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会)

ご自身の職場環境に当てはめてチェックして下さい。

1:全く当てはまらない 2:やや当てはまらない 3:どちらともいえない 4:やや当てはまる 5:かなり当てはまる

___Q1:チームの中でミスをしても,たいてい許容してもらえる___Q2:チームのメンバーは、悩みや課題を気軽に話し合える

___Q3:チームのメンバーは、異なる考えを持つ人がいても認めあえる

___Q4:チームに対してリスクのある行動をしても安全である

___Q5:チームのメンバーに助けを求めあえる

___Q6:チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない

___Q7:チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。

※合計点(    )

 平均値 SD かなり高い 高い 普通 低い かなり低い
23 6 29以上 26から28 21から25 18から20 17以下

N=228 α=.81(クロンバックの信頼性)

 

治療同盟(作業同盟)の測定方法

作業同盟尺度(WAI: Working Alliance Inventory)
目標の合意、課題の合意、絆の3因子から構成される36項目(短縮版12項目)の尺度。クライエント版とセラピスト版がある。
カリフォルニア心理療法同盟尺度(CALPAS)
患者の関与、治療者の理解と関与、目標の一致、作業の一致の4因子から構成される24項目の尺度。

治療者応答性尺度(TRS-C)

セラピストの応答性や安全性・信頼性を測定する22項目の尺度。日本語版も開発されている。

各尺度の概要とカウンセリングで活用できる質問を表に整理

尺度名 概要 カウンセリングで活用できる質問
作業同盟尺度 (WAI) 目標の合意、課題の合意、絆の3因子から構成される尺度。クライエント版とセラピスト版がある。 「あなたがセラピストと共有したい目標は何ですか?」
カリフォルニア心理療法同盟尺度 (CALPAS) 患者の関与、治療者の理解と関与、目標の一致、作業の一致の4因子から構成される尺度。 「治療者との関係の中で、どのような理解や関与を求めていますか?」
治療者応答性尺度 (TRS-C) セラピストの応答性や安全性・信頼性を測定する尺度。日本語版も開発されている。 「セラピストとの関係において、どのような要素が安心感につながりますか?」

作業同盟尺度 (WAI)に関しては、目標の合意、課題の合意、絆の3因子から構成されている。心理療法心理学ガイドブックなどでも鍾愛されている。

因子 概要 カウンセリングで活用できる質問
目標の合意 クライエントとセラピストが治療の目標について共通理解を持つこと。 「あなたがセラピストと共有したい目標は何ですか?」
課題の合意 目標達成のために必要な課題や取り組みについて合意すること。 「目標達成のために、どのような行動が必要だと思いますか?」
クライエントとセラピストの間に信頼関係が築かれていること。 「セラピストとの関係の中で、どのような要素が安心感につながりますか?」

エドモンドソンの3段階対話術フレームワーク

1. 仕事の枠組み設定(Set the Stage)

基本的な考え方

心理的安全性(Psychological Safety)とは、**「チームの中で自分の意見や疑問、失敗を安心して表現できる状態」**を指します。
この概念はハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱され、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、高パフォーマンスなチームの最重要要因として注目されました。

心理的安全性が高いチームでは:

  • 失敗が学習機会と捉えられる(リフレーミング)
  • 問題解決が個人ではなくチームの責任と認識される
  • 複雑性や不確実性を率直に共有できる

失敗を成功への学習機会として再フレーミング

  • 「問題解決はチームスポーツ」という認識共有
  • 複雑性・不確実性の率直な認識

心理的安全性の概要、カウンセリング・心理療法で使える質問を整理しました。

カウンセリングで心理的安全性を高めるための質問例を目的別に整理しました。

目的 質問例
信頼関係の構築 ・最近、仕事やチームで嬉しかったことはありますか?
・今、安心して話せていると感じますか?
感情の共有と理解 ・最近、モヤモヤしたことや気になっていることはありますか?
・今の気持ちを一言で表すとしたら、どんな言葉になりますか?
失敗や課題の共有 ・最近うまくいかなかったことから、何か学びはありましたか?
・もしやり直せるとしたら、どんな選択をしますか?
多様な視点の尊重 ・他の人の意見で印象に残ったものはありますか?
・自分と違う考えをどう活かせそうですか?
安心して発言できる環境づくり ・この場で自由に話せていると感じますか?
・もっと話しやすくするために、私にできることはありますか?
成長と学びの促進 ・最近、挑戦したことや新しく学んだことはありますか?
・今後、どんなスキルを伸ばしていきたいですか?

これらの質問は、カウンセリングを単なる報告の場ではなく、信頼と成長を育む対話の場に変える力を持っています。


🧠 心理的安全性の概要

心理的安全性(Psychological Safety)とは、**「チームの中で自分の意見や疑問、失敗を安心して表現できる状態」**を指します。
この概念はハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱され、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、高パフォーマンスなチームの最重要要因として注目されました。

心理的安全性が高いチームでは:

  • 失敗が学習機会と捉えられる(リフレーミング)
  • 問題解決が個人ではなくチームの責任と認識される
  • 複雑性や不確実性を率直に共有できる

💬 心理療法で使える質問例

テーマ 質問例
失敗のリフレーミング ・この経験から何を学べそうですか?
・もしこの失敗を「成長の種」と捉えるとしたら、どんな意味がありますか?
チームでの問題解決 ・この課題に対して、誰と協力すればより良い結果が出せそうですか?
・チームとしてこの問題にどう向き合えそうですか?
複雑性・不確実性の共有 ・今、何がはっきりしていて、何がまだ不明確ですか?
・不確実な状況の中で、どんなサポートがあると安心できますか?
安心して話せる環境づくり ・この場で安心して話せていると感じますか?
・もっと自由に意見を出すために、どんな工夫ができそうですか?
信頼と尊重の促進 ・チームの中で、あなたの強みが活かされていると感じる瞬間は?
・誰かの意見に勇気づけられた経験はありますか?

心理的安全性は、単なる「仲良し」ではなく、率直な対話と挑戦ができる土壌です。心理療法では、こうした質問を通じて、安心と成長の両立を支援できます。

 

2. 関与の促進(Invite Engagement)

効果的な質問技法

以下に、心理的安全性に関連する3つの要素の概要と、それぞれに対応するカウンセリング 心理療法で使える質問例を表にまとめました。

要素 概要 心理療法で使える質問例
多様な視点を引き出す質問 チーム内の多様性を活かし、異なる意見や価値観を歓迎する姿勢を育む。 ・他の立場から見ると、どんな考え方があると思いますか?
・このテーマについて、他のメンバーならどう感じるでしょうか?
思考を深める問いかけ 表面的な答えにとどまらず、内省や洞察を促す質問で思考の質を高める。 ・その考えに至った背景には、どんな経験がありますか?
・もし制限がなかったら、どんな選択肢が考えられますか?
安全な発言環境の創出 批判や否定を恐れずに意見を出せる雰囲気をつくる。信頼と尊重が前提。 ・この場で安心して話せていると感じますか?
・もっと自由に意見を出すために、どんな工夫ができそうですか?

これらの問いかけは、心理的安全性を高めるだけでなく、チームの創造性や協働力を引き出すうえでも非常に効果的です。ど

3. 感謝的対応(Respond Appreciatively)

対応の基本原則

以下の表に、心理的安全性を高めるための3つの要素についての概要と、それぞれに対応する心理療法で活用できる質問例をまとめました。

要素 概要 心理療法で活用できる質問例
発言・報告への感謝表明 メンバーの発言や報告に対して感謝を示すことで、安心して話せる雰囲気をつくる。信頼と尊重の土台を築く。 ・その意見を共有してくれてありがとう。どんな思いで伝えてくれたのですか?
・報告してくれたことに感謝しています。何かサポートが必要なことはありますか?
支援的な姿勢の明示 困難や挑戦に対して、共に取り組む姿勢を示すことで、心理的な安心感を与える。 ・この状況に対して、私にできるサポートは何がありますか?
・一緒に考えていくとしたら、どこから始めるのが良さそうですか?
学習機会としての価値付け 失敗や課題を責めるのではなく、学びの機会として捉えることで、挑戦を促す文化を育む。 ・この経験から、どんな学びがありましたか?
・次に活かすとしたら、どんな工夫ができそうですか?

これらの問いかけは、カウンセリングやチームミーティングでの対話をより深く、前向きなものにするための鍵になります。

具体的な対話実践法(カウンセリング)

1. フレーミング技法

会話の冒頭で「共同学習の場」としての枠組みを設定

「今日は全員で学び合う機会です」

「正解を出してください」

2. アドボカシーとインクワイアリーの均衡

主張と質問のバランスを意識した対話

「私はこう思うけど、あなたはどう考える?」

「これが正しいやり方だ」

3. 積極的傾聴の実践

相手の言葉を遮らず、理解を示す反応

「なるほど、もう少し詳しく教えてください」

「それは間違っている」

4. 質問主導のアプローチ

「なぜ」ではなく「何が」で始まる質問を用いる

「何が必要だと思いますか?」

「なぜそんなことをしたの?」

5. 失敗の共有と学びの強調

リーダーが自身の失敗体験を率先して共有

「私もかつてこう失敗して学びました」

「失敗は許されない」

6. 感謝表現の習慣化

発言や意見に対して具体的な感謝を示す

「その視点は非常に価値がありますね」

「そんなことは考えていなかった」

学術的エビデンス:実証された介入手法

根拠: O’Donovan & McAuliffe (2020) による14研究のシステマティックレビュー

教育的介入

以下に、心理的安全性の向上を目的とした4つの実践手法の概要と、それぞれに対応する心理療法で活用できる質問例を表にまとめました。

手法 概要 心理療法で活用できる質問例
シミュレーション演習
(ロールプレイと振り返り)
実際の職場で起こりうる状況を模した演習を通じて、対話や対応力を体験的に学ぶ。振り返りにより気づきを深める。 ・この場面で、どんな感情が湧きましたか?
・実際の職場で同じ状況が起きたら、どう対応したいですか?
ビデオケーススタディ
(困難な対話例の視聴と議論)
実際の対話シーンを映像で観察し、良い例・悪い例を比較しながら、心理的安全性の要素を可視化・言語化する。 ・この場面で、心理的安全性が高い/低いと感じたのはどこですか?
・自分がこの場にいたら、どう感じたと思いますか?
スピーキングアップ技能訓練
(権威者への発言練習)
上司や権威者に対しても率直に意見を伝える練習を通じて、発言の自信と技術を高める。 ・どんなときに「言いにくさ」を感じますか?
・安心して意見を伝えるために、どんな準備や工夫ができそうですか?
CENTREワークショップ
(守秘・平等・非評価の原則)
安全な対話空間をつくるためのルール(Confidentiality, Equality, Non-judgmentなど)を共有し、対話の質を高める。 ・この場が「安心できる」と感じるために、どんなルールがあるとよいですか?
・誰もが平等に話せる場をつくるには、何が必要だと思いますか?

これらの手法は、心理的安全性を「知識」から「体験」へと落とし込むために非常に効果的です。

CENTREの要素

【CENTRE原則】は、守秘(Confidentiality)、平等(Equality)、非評価(Non-judgment)、尊重(Respect)、信頼(Trust)、共感(Empathy)などを含む対話の枠組みです。

以下に、心理的安全性を高めるための【CENTRE原則】の概要と、それぞれに対応する心理療法で活用できる質問例を表にまとめました。

CENTREの要素 概要 心理療法で活用できる質問例
Confidentiality(守秘) 対話の内容が外部に漏れないという信頼感を築く。安心して本音を話せる土台となる。 ・この場が守られていると感じますか?
・安心して話すために、どんな配慮があるとよいですか?
Equality(平等) 立場や役職に関係なく、誰もが対等に意見を述べられる環境をつくる。 ・このテーマについて、あなたの視点をぜひ聞かせてください。
・他の人と比べて遠慮していることはありますか?
Non-judgment(非評価) 意見や感情を評価・批判せずに受け止める姿勢。安心して発言できる雰囲気を育む。 ・どんな考えでも歓迎されるとしたら、何を話してみたいですか?
・評価を気にせずに話せるとしたら、何を伝えたいですか?
Trust(信頼) 相手を信じ、誠実に関わることで、深い対話と協働を可能にする。 ・この関係において、信頼を築くために大切にしたいことは何ですか?
・私にできる信頼構築のサポートはありますか?
Respect(尊重) 相手の意見や価値観を尊重し、違いを受け入れる姿勢を持つ。 ・あなたの考えが尊重されていると感じる瞬間はどんなときですか?
・異なる意見をどう活かせそうですか?
Empathy(共感) 相手の立場や感情に寄り添い、理解しようとする姿勢。 ・そのとき、どんな気持ちだったのですか?
・私がもっと理解するために、どんなことを知っておくとよいですか?

このCENTRE原則は、カウンセリングやチーム対話の質を高めるための「心理的安全性の土台」として非常に有効です。どの要素を現場で意識してみたいと感じましたか?一緒に深掘りもできますよ。

非教育的介入

  • 対話型演劇(Forum Play):参加型の演劇を通じた体験学習
  • ホリスティック・ファシリテーション:安全な対話空間の創出
  • アクションリサーチ:チーム内での継続的な振り返り会議
  • リーダーシップ行動変容:上司の積極的傾聴・支援行動

具体的実践方法とケーススタディ

日常会議での実践

開始時

  • 「今日は率直な意見を聞かせてください」
  • 「間違いを恐れずに発言してください」
  • 「異なる視点を大切にします」

進行中

  • 「他の方はいかがですか?」
  • 「反対の意見はありませんか?」
  • 「何か見落としていることは?」

終了時

  • 「貴重な意見をありがとう」
  • 「この課題をどうサポートできますか?」
  • 「次回も率直な意見をお願いします」

 

問題報告・エラー対応での実践

推奨される対応

報告者: 「ミスをしてしまいました」

リーダー: 「報告してくれてありがとう。まずは現状を整理しましょう」

リーダー: 「何をサポートできますか?」

リーダー: 「これは学習の機会ですね。どう改善できるか一緒に考えましょう」

避けるべき対応

NG: 「なぜそんなミスを?」

NG: 「前にも同じことがありましたね」

NG: 「もっと注意深くやってください」

NG: 「次は気をつけてください」

重要な注意点と落とし穴

研究で明らかになった「やってはいけないこと」

デブリーフィング・振り返りでの禁止事項

  • 初期10分での評価的発言:「良い/悪い」の判断を早期に下す
  • 否定的評価ステートメント:個人やチームの能力を否定する発言
  • 一方的な問題指摘:解決策を提示せずに批判のみ行う

日常会議での避けるべき行動

  • 権威的態度:「私が正しい」という姿勢での発言
  • 早期の結論づけ:十分な議論なしに方向性を決定
  • 感情的な反応:怒りや失望を表に出す

心理的安全性は「ぬるま湯」ではない

エドモンドソン教授の研究では、心理的安全性の高いチームは以下の特徴を持ちます:

項目 概要 カウンセリングで活用できる質問
高い基準 品質や成果に対する期待値が高く、目標達成のために努力を惜しまない文化を形成する。 「あなたが目指す理想の成果とはどのようなものですか?」
建設的な対立 アイデアについて活発に議論し、異なる視点を尊重しながら最適な解決策を導き出す。 「意見の違いをどのように活かして、より良い結果につなげられると思いますか?」
継続的学習 失敗を次の成功につなげる仕組みを持ち、成長を促進する環境を整える。 「最近の経験から学んだことは何ですか?」
説明責任 各メンバーが自分の役割に責任を持ち、チーム全体の成果に貢献する意識を持つ。 「あなたの役割において、最も重要だと感じる責任は何ですか?」

この表を活用することで、カウンセリングの場でクライエントの考えを深め、より良い行動変容を促すことができる。

効果測定と評価指標

定量的指標

  • 発言頻度:会議での発言回数・時間の測定
  • 質問・提案数:建設的な質問や改善提案の数
  • エラー報告率:インシデント・ミスの報告頻度
  • 心理的安全性尺度:エドモンドソンの7項目質問票

定性的指標

  • 対話の質:建設的な議論の深さ・広がり
  • 相互支援行動:メンバー同士の助け合い
  • 学習行動:失敗からの学びを共有する頻度
  • 革新的アイデア:新しい提案や創造的解決策

まとめ:実践への第一歩

今日からできる3つのアクション

 

1. 質問から始める

「他の方はいかがですか?」から会議を変える

 

2. 感謝を伝える

率直な意見や報告に「ありがとう」と応答する

 

3. 枠組みを設定

 

🔹心理的安全性に関する名言集

「失敗は学習の機会」という文化を作る

「心理的安全性は、チームの成果を最大化するための基盤です。一朝一夕では身につきませんが、 エビデンスに基づいた実践を継続することで、必ず効果を実感できるでしょう。」
「失敗は学習の機会」という文化を作る
— エイミー・エドモンドソン(ハーバード・ビジネススクール教授)

1. 「失敗は学習の機会である。」

— エイミー・C・エドモンドソン(ハーバード・ビジネス・スクール教授)

“Failure is not something to be avoided. It’s an opportunity for learning.”

心理的安全性の概念を提唱した第一人者の言葉で、「失敗に対して寛容である文化」が学習する組織には不可欠であるという考え方を示しています。


2. 「人は、安心して声をあげられるときにこそ、本当の創造性を発揮できる。」

— ダニエル・コイル(『The Culture Code』著者)

安全な場こそが創造性・革新・リーダーシップの土台になることを強調した名言です。


3. 「尊敬は、相手を変えようとする前に、その人を理解しようとすることから始まる。」

— スティーヴン・R・コヴィー(『7つの習慣』著者)

心理的安全性の前提である「相互理解と傾聴」の重要性を表しています。


4. 「安心して話せる場所があるから、人は自分をさらけ出せる。」

— ブレネー・ブラウン(脆弱性の研究者)

心理的安全性があるからこそ、人は「弱さ」や「本音」を語ることができ、それが深い信頼につながることを意味しています。


5. 「私たちは完璧ではない。だからこそ、お互いを許し合い、学び合うことが必要なのだ。」

— 徳吉陽河(科学的に正しい脳を活かす「問いのコツ」 結果を出す人はどんな質問をしているのか?)

チームや職場での心理的安全性の必要性をシンプルに語った言葉。完璧さではなく「関係の質」が鍵であるという示唆を含みます。

学術的根拠・参考文献

主要論文

  1. O’Donovan, R., & McAuliffe, E. (2020). A systematic review exploring the content and outcomes of interventions to improve psychological safety, speaking up and voice behaviour. BMC Health Services Research, 20(1), 1-13.
  2. Edmondson, A. C. (2018). The fearless organization: Creating psychological safety in the workplace for learning, innovation, and growth. John Wiley & Sons.
  3. Kolbe, M., Eppich, W., Rudolph, J. W., et al. (2020). Managing psychological safety in debriefings: a dynamic balancing act. BMJ Simulation & Technology Enhanced Learning, 6(3), 164-171.
  4. Bilstad, J. B. (2016). The relationship between team psychological safety and team effectiveness in management teams: The mediating effect of dialogue. Master’s thesis, University of Oslo.
  5. Lechner, A., & Tobias Mortlock, J. M. (2022). How to create psychological safety in virtual teams. Organizational Dynamics, 51(1), 100847.

 

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