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実践編

ポジティブ心理学を仕事で活かす15の工夫 自分の層・関わりの層・仕組みの層に分けて

明日から試せる形まで具体化しました。あわせて、 やってはいけない5つと、30日の始め方も掲載しています。

屋外のベンチで向かい合って話す二人
Photo:LinkedIn Sales Solutions / Unsplash(無料ライセンス。掲載内容と写真の人物・団体に関係はありません)
一言でいうと

職場での活かし方は、①自分の回復と意味づけ、②人との関わり方、③職場の仕組みの 3つの層に分かれます。①から順に広げるのが確実で、③から始めると 本人が実感していない施策になります。ここでは各層に5つずつ、計15の工夫を示します。

①自分の層|まず自分の働き方と回復に使う

ここを飛ばすと、あとの2層が続きません。自分が実感していない方法を人に勧めることになり、質問されたときに答えられないからです。

工夫 01

1日3つ、うまくいったことを書く

場面・頻度:1日の終わり、寝る前など決まった時間に5分

やること:その日にうまくいったことを3つ書き、それぞれに「なぜうまくいったのか」を一言添える。大きな成果でなくてよく、「昼に休憩を取れた」で十分。

なぜ効くと考えられるか:注意の向きは訓練で変わる。放っておくと未処理の課題に注意が集まるため、意図的に別の情報を拾う時間を作る。

注意:「よかったことがない日」に無理に書くと逆効果。その日は「持ちこたえた」と書いて終えてよい。

工夫 02

強みを3つ言葉にし、使えた場面を探す

場面・頻度:週の終わり、10分

やること:自分の強みを3つに絞って書き出し、その週にそれが出ていた場面を1つずつ思い出す。出ていなかった週は、来週どこで出せるかを1つ決める。

なぜ効くと考えられるか:強みは持っているかどうかより、使えているかどうかで実感が変わる。職場での強み活用の介入では、個人資源への効果が比較的しっかり示されている。

注意:「強みがない」と感じる場合は、人からよく頼まれることを手がかりにする。

工夫 03

消耗の兆候を、自分の言葉で決めておく

場面・頻度:調子がよいときに一度、15分

やること:「自分が消耗してくると最初に何が起きるか」を3つ書いておく。例:机が散らかる、返信が遅れる、人の話をさえぎる。調子が悪くなってからでは書けない。

なぜ効くと考えられるか:自分の状態は主観では測りにくい。行動という外から見える指標に変えておくと、早い段階で気づける。

注意:この3つが2つ以上そろったら、休むか人に相談する、という手順まで決めておく。

工夫 04

仕事の意味を「誰の役に立っているか」で書き直す

場面・頻度:四半期に一度、20分

やること:自分の業務を3つ挙げ、それぞれが最終的に誰にどう届いているかを書く。組織の理念ではなく、具体的な誰かの名前や場面で書くのがこつ。

なぜ効くと考えられるか:意味の感覚は、抽象的な理念よりも、実際の受け手が見えたときに立ち上がりやすい。

注意:無理に感動的な意味を作ろうとしない。「見つからない」という結果も情報になる。

工夫 05

よかった出来事を、もう一度味わう時間を取る

場面・頻度:週に1回、5分

やること:その週にあったよい出来事を1つ選び、そのときの状況を細かく思い出す。人に話す、写真を見る、書くのいずれでもよい。

なぜ効くと考えられるか:よい出来事は放っておくと通り過ぎる。意図的に注意を戻すこと(サヴァリング)で、その経験から得られるものが増える。

注意:分析しようとしないこと。「なぜよかったか」を考え始めると、体験ではなく評価になる。

②関わりの層|1on1・面談・指導で使う

ここでの原則は、安心が先、可能性はそのあとです。つらさを十分に聴く前に資源の話をすると、話を切り上げられたと受け取られます。

工夫 06

面談を3ブロックで構成する

場面・頻度:1on1・定期面談

やること:①近況(事実の確認)→②うまくいっていること→③次の一歩、の順に進める。特に②を飛ばさない。時間がないときは③を削って②を残す。

なぜ効くと考えられるか:面談が雑談か詰問のどちらかに寄りやすいのは、構成が決まっていないため。型があると、話す側も聴く側も迷わない。

注意:評価面談と同じ時間に行わない。評価が混ざると、②が「自己アピールの時間」になる。

工夫 07

問題を聴いたあと、例外を1つ尋ねる

場面・頻度:相談・面談・指導

やること:「いつもうまくいかない」と言われたときに、「少しでもましだったのはどんなときですか」と1つだけ尋ねる。

なぜ効くと考えられるか:解決志向アプローチの中核的な問い。問題の原因分析より、すでに起きている例外のほうが再現しやすいことがある。

注意:問題を十分に聴く前にこれを出すと、話を切り上げられたと受け取られる。順番を守る。

工夫 08

強みを、褒め言葉ではなく事実の描写で返す

場面・頻度:日常のやりとり全般

やること:「すごいね」ではなく「あの場面で、全員の意見を一度整理してから進めていたね」と、起きたことを具体的に描写して返す。

なぜ効くと考えられるか:評価語は受け取りにくく、次に何をすればよいかも伝わらない。事実の描写は、本人が自分の行動を再現できる形で残る。

注意:描写した行動が、本人にとって望ましいものかは確認が必要。本人が苦しんでやっていることを称賛すると、やめられなくなる。

工夫 09

フィードバックを 事実 → 影響 → 依頼 の順にする

場面・頻度:指導・改善の伝達

やること:「昨日の資料、数値の出典が抜けていた(事実)/先方が確認に時間を使うことになった(影響)/次から出典を入れてほしい(依頼)」の順。

なぜ効くと考えられるか:人格ではなく行動に焦点が当たり、相手が防御的になりにくい。また、何を変えればよいかが明確に伝わる。

注意:ポジティブな内容ではさむ形(サンドイッチ型)は、本題がぼやけることがある。厳しい内容ほど、この3段階のほうが伝わる。

工夫 10

相手が「話さない」選択を尊重する

場面・頻度:相談・面談

やること:「話したくないことは話さなくて大丈夫です」と最初に伝える。沈黙を埋めようとしない。

なぜ効くと考えられるか:安心が確保されていない状態で開示を促すと、その場では話せても、あとで後悔と警戒が残る。

注意:この一言があるかどうかで、その後に本当に話せることが変わる。省略しない。

③仕組みの層|会議・育成・評価に埋め込む

効果が最も長く続くのはこの層です。ただし、①②を経ていない人が制度だけを作ると、現場では「またなにか始まった」として消費されます。

工夫 11

会議の冒頭2分に「うまくいったこと」の枠を置く

場面・頻度:定例会議

やること:議題に入る前の2分、参加者が順に1つずつ「今週うまくいったこと」を話す。感想や評価はしない。次の人にすぐ回す。

なぜ効くと考えられるか:研修を1回やるより、日常の形式を変えるほうが長く続く。また、発言のハードルが低い話題から始めると、議題に入ってからも発言が出やすい。

注意:全員が話す形にすること。手を挙げる形式にすると、話す人が固定される。

工夫 12

目標設定に「この目標はあなたの何を活かすか」を1問足す

場面・頻度:目標設定面談

やること:設定した目標に対して、「この目標を進めるうえで、あなたのどんな持ち味が使えそうですか」と1問だけ尋ね、答えを目標シートに書き残す。

なぜ効くと考えられるか:目標が組織から降りてきたものであっても、自分の資源との接点が言語化されると、進め方に裁量が生まれる。

注意:答えが出ない場合、目標設定そのものが本人と接続していない可能性がある。その情報こそが重要。

工夫 13

仕事の範囲を自分で調整する余地を、制度として認める

場面・頻度:業務設計・人事制度

やること:担当業務のうち、進め方・関わる相手・意味づけの3点について、本人が調整を申し出られる仕組みを作る(ジョブクラフティング)。

なぜ効くと考えられるか:ジョブクラフティングの介入研究では、ワークエンゲージメントと文脈的な成果への小さな正の効果が報告されている。

注意:負担を減らす方向だけの調整は、かえって活力を下げる可能性が指摘されている。挑戦を増やす方向の調整も選べるようにしておく。

工夫 14

研修の後に「1つだけ試すこと」を宣言する場を作る

場面・頻度:研修・勉強会

やること:終了前の5分で、各自が「明日から試すこと」を1つだけ書き、隣の人に伝える。1か月後に短い確認を送る。

なぜ効くと考えられるか:研修の効果が現場に移らない主因は、内容ではなく転移の設計の欠如。宣言と1か月後の確認だけでも、実行率は変わる。

注意:宣言を評価に使わない。評価と結びついた瞬間、無難な宣言しか出なくなる。

工夫 15

測定は前・直後・1〜3か月後の3時点で行う

場面・頻度:研修・施策の評価

やること:満足度に加えて、行動(試したか)と状態(対象の指標)を、実施前・直後・1〜3か月後の3時点で測る。

なぜ効くと考えられるか:直後の満足度は、その後の変化をあまり予測しない。また、測ることが決まっていると、設計の段階から狙いが明確になる。

注意:測定結果を人事評価に使わないことを、参加者に先に明示する。使うのであれば、それも先に明示する。

注意やってはいけない5つ

ポジティブ心理学を職場に持ち込むときに、実際によく起きる失敗です。いずれも善意から起きるため、意識していないと避けられません。

1. つらさを言う前に、前向きな解釈へ切り替えさせる
「そう考えれば成長のチャンスだよ」と早い段階で言うと、相手は「ここではつらいと言ってはいけない」と学習します。順番は、まず十分に聴く。資源に目を向けるのはそのあとです。
2. 強みの話を、評価や査定とセットにする
強みを扱う対話が評価に接続すると、本人は「評価される自分」を演じ始めます。強みの言語化は、評価の場から時間的にも文脈的にも切り離してください。
3. 感謝を書くことを、業務として義務づける
感謝の記録は、自発的に行われるときに意味があります。提出物になると、書くこと自体が負担になり、内容も形式的になります。やるなら任意にし、提出させないことです。
4. 不調を、個人の対処力の問題として片づける
業務量・裁量・支援という3つの条件が整っていない状態で、個人にレジリエンスを求めるのは筋が違います。個人向けの施策と、業務量そのものの調整は、必ず同時に検討してください。
5. 不調のサインに、心理教育で対応してしまう
睡眠が取れない、食欲がない、朝起きられないといった状態が続いている場合、扱う場所は研修や1on1ではありません。産業保健・医療につなぐことが最優先です。この線引きを曖昧にしないでください。
共通する原則
ポジティブ心理学は、ネガティブな感情を減らすための道具ではありません。つらさを扱える場をつくったうえで、そこに資源の視点を足すものです。引き算として使うと、必ず無理が出ます。

30日まず1か月、こう始める

  1. 1〜3日目:1つだけ選ぶ 15の工夫から1つだけ選びます。迷ったら「1日3つ、うまくいったことを書く」。 同時に2つ以上を始めないでください。
  2. 4〜14日目:条件を決めて続ける 「いつ・どこで・何のあとに」まで決めます。できなかった日があっても再開すればよく、 連続記録を目標にしないことです。
  3. 15日目:一度立ち止まる 2週間分を読み返し、何か変わったかを1文で書きます。 「変わらなかった」も正当な結果です。合わなければ別の工夫に変えてください。
  4. 16〜25日目:関わりの層を1つ足す 自分の層が続いているなら、面談や指導の場で使える工夫を1つだけ加えます。 まだ続いていないなら、この段階へは進まないでください。
  5. 26〜30日目:記録を残す 何を試し、何が起きたかを書き残します。この記録が、 のちに人に教える立場になったときの最大の資産になります。
この30日でやらないこと
制度を変える、部署全体に導入する、研修を企画する。 いずれも①②が自分の中で定着してからで十分間に合います。 急いで③から始めた施策は、担当者が異動した時点で止まります。

FAQよくある質問(18問)

始め方

15個のうち、どれから始めればよいですか?

いまの自分の層に合うものを1つだけ選んでください。初めての方は「1日3つ、うまくいったことを書く」が最も始めやすく、やめても損がありません。複数を同時に始めると、どれも2週間もたないのが実際のところです。

どのくらい続ければ効果を感じられますか?

個人差が大きいですが、記録系の工夫は2週間ほどで注意の向きの変化に気づく人が多いようです。ただし、これは効果を保証するものではありません。2週間試して何も変わらなければ、その方法が自分に合わなかったというだけのことです。別のものを試してください。

続かないときはどうすればよいですか?

回数を減らすのではなく、行う条件をより具体的にしてください。「毎日やる」より「歯を磨いたあとに1分だけ」のほうが続きます。また、続かない方法を意志の力で続けようとするより、続く形に変えるほうが合理的です。

職場に持ち込む前に、上司の許可は必要ですか?

自分の層の工夫は不要です。関わりの層(面談の構成など)は、自分が担当する範囲であれば通常は問題になりません。仕組みの層(会議の形式変更など)は、事前に目的と、やめる基準を共有しておくと進めやすくなります。

自分に使う

「うまくいったこと」が思いつかない日はどうしますか?

無理に探さないでください。「今日は持ちこたえた」と書いて終えてよいものです。むしろ、そういう日が続いているという記録のほうが、あとから見返したときに重要な情報になります。

自分の強みがどうしてもわかりません。

「得意なこと」を探すとわかりにくくなります。「人からよく頼まれること」「やっていて苦にならないこと」から探してください。強み→仕事への変換ワークでは24の強みから選ぶ形になっているので、ゼロから考えるより選びやすくなります。

消耗の兆候に気づいたあと、どうすればよいですか?

あらかじめ決めておいた手順を実行してください。その場で判断しようとすると、消耗しているときほど「まだ大丈夫」と判断しがちです。だからこそ、調子がよいときに手順まで決めておくことに意味があります。

仕事に意味を感じられません。それでも使えますか?

使えます。ただし「意味を感じよう」とするのは順番が逆です。まず、具体的に誰にどう届いているかを事実として書き出してください。それでも見つからない場合、それは個人の心の持ちようではなく、役割や環境の問題である可能性が高く、別の検討が必要になります。

人に使う

相手が心を開いてくれません。

開かせようとしないことが第一歩です。「話したくないことは話さなくて大丈夫」と伝え、こちらが先に不確実さを開示するほうが、結果的に話が出てきます。関係が育つ速度は、こちらの都合では決まりません。

褒めることと、強みを返すことは違うのですか?

違います。褒めるのは評価であり、上下関係を含みます。強みを返すのは、起きた事実の描写です。「すごい」ではなく「あの場面でこうしていた」と伝えるほうが、本人が自分の行動として再現できます。

厳しいことを言わなければならない場面では使えますか?

使えます。むしろ、事実→影響→依頼の型は、厳しい内容ほど有効です。感情的な表現を避けつつ、変えてほしいことを明確に伝えられます。ポジティブな内容ではさむ形は、本題がぼやけることがあります。

部下が「どうせ評価のためでしょう」と言います。

その受け取り方には根拠があります。強みや前向きさの話が評価と結びついている職場では、当然の反応です。対話の目的が評価ではないことを、言葉だけでなく運用で示す必要があります。たとえば、その面談の内容を評価資料に転記しないと明言し、実際にしないことです。

職場・仕組み

会議の冒頭2分の枠は、本当に効果がありますか?

この形式そのものを検証した研究は多くありません。ただし、発言のハードルが低い話題から始めることで参加のパターンが変わる、という考え方には根拠があります。試すコストが低いので、3か月やってみて発言者の分布が変わるかを見るのが実際的です。

ジョブクラフティングを導入するときの注意点は?

負担を減らす方向だけの調整に偏らないことです。予防的な方向のクラフティングは、ワークエンゲージメントの低下と関連するという指摘があります。挑戦を増やす方向の選択肢も用意し、本人が選べる形にしてください。

施策の効果を数字で示すよう求められています。

測ること自体は有益ですが、測る前に「結果をどう使うか」を決めてください。使い道が決まっていない測定は、現場に「また調査か」という負担だけを残します。また、満足度は変化をあまり予測しないため、行動と状態の指標を併せてください。

注意と限界

これらの工夫に副作用はありますか?

あります。前向きさが規範になると、困っている人が声を上げにくくなります。また、強みの話が評価と結びつくと、本人が演じ始めます。本ページの「やってはいけない5つ」は、実際に起きやすい失敗をまとめたものです。

メンタル不調の部下に、これらを使ってよいですか?

使わないでください。睡眠・食欲・起床などに継続的な支障が出ている場合は、産業保健や医療につなぐことが最優先です。心理教育や面談の工夫で対応しようとすると、必要な支援が遅れます。

効果が出ないときは、やり方が悪いのでしょうか?

そうとは限りません。研究上も効果量は小〜中程度で、全員に効くわけではないことが示されています。合わない方法を続けるより、別の方法に変えるほうが建設的です。詳しくはエビデンスのページをご覧ください。

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仕事に活かすための講座・資格(一般社団法人ポジティブ心理カウンセラー協会)

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